宗像明将が『THE RECORDING at NHK101st』を分析
くるりに通底するメロディーの美しさと強靭さ バンドの過去と現在をつなぐ映像作品を観る
前半のハイライトのひとつは「ばらの花」だ。2001年にリリースされたこの楽曲には、当時SUPERCARのメンバーだったフルカワミキが参加しているが、彼女との13年ぶりのセッションがここで行われている。
「ばらの花」で印象的なミニマルなキーボードのフレーズを弾くのは、ファンファンと山本幹宗。一瞬挿入される音響派的なパートには、アラブっぽいメロディーが織りこまれており、ワールドミュージック的な要素が顔を出すところに13年の年月を感じた。
そして<ジンジャーエール買って飲んだ こんな味だったけな>と岸田繁が歌うとフルカワミキのコーラスが入る。叙情性とカタルシスが交錯する瞬間だ。終盤での岸田繁の楽しそうな表情も印象的である。
前半でのもうひとつのハイライトは、「東京」「尼崎の魚」でくるりのオリジナル・メンバーの森信行が参加していることだ。2002年に脱退した森信行のドラムを久しぶりに聴いて驚いたのは、その歌うかのように叩くドラムのうまさだ。佐藤征史のベースと森信行のドラムによるリズムセクションが生みだすニュアンスの深い躍動感は、感傷すら吹き飛ばしてしまう感動があった。
森信行が参加した2曲にはファンファンは参加しておらず、オリジナル・メンバーの3人のみによる演奏。そしてこの2曲は、ノスタルジアではなく現在進行形のものとして楽曲を再演するという『THE RECORDING at NHK101st』の姿勢を象徴するものだった。
後半の2日目は、前述したようにストリングス、管楽器、キーボード、コーラスを迎えた編成によるものだ。
オーストリアのウィーンで録音された2007年の『ワルツを踊れ Tanz Walzer』の収録曲である「ブレーメン」や「ジュビリー」では、成熟感や安定感が岸田繁の作曲家としての側面を強く印象づける。特に「ジュビリー」の最後、挙げた手を握って音を止める岸田繁の姿は指揮者そのものだ。
一方で、この2日目の演奏は「拡張されたバンドとしてのくるり」という側面も持っている。最新作『THE PIER』の収録曲である「Liberty&Gravity」「Remember me」「loveless」では熱演を展開する。特に異色なのは「Liberty&Gravity」であり、岸田繁が弾くのはエレクトリック・シタール。アラブとジプシーブラスとお囃子が入り混じったかのような混沌とした演奏であり、原曲からして複雑だった「Liberty&Gravity」の生演奏は実にスリリングだ。
また、『THE RECORDING at NHK101st』には未放送の映像が1曲収録されている。その「Morning Paper」では、演奏陣の絶妙な呼吸の合わせ方を聴ける。ジャズロックやプログレをも連想させる演奏だ。
これだけくるりのさまざまな面を見せる『THE RECORDING at NHK101st』の最後には「奇跡」が収録されている。くるり、山本幹宗、福田洋子に、さらにスティール・ギターの高田漣を加えての演奏だ。この2011年のフォークロック・ナンバーが再演されることで、初期のくるりと現在のくるりが接続される。本質的には変わっていないのだ、と。
『THE RECORDING at NHK101st』は、いつのまにか肩肘を張ってくるりを聴くようになっていた私に、スッと力を抜かせてくれる映像作品だった。くるりのクロニクルをひもときながら、それをあくまでも現在のものとして表現してみせる。かつてくるりを聴いていた人が、甘い感傷を求めて見ても別にいいだろう。きっと現在のくるりもナチュラルに聴かせてしまう力がここにはあるからだ。
一発録りという制限のなかだからこそ、くるりというロックバンドに通底してきたメロディーの美しさや強靭さが露わになっているのが『THE RECORDING at NHK101st』という映像作品だ。
■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter
■リリース情報
『THE RECORDING at NHK101st』
発売:2015年3月18日
(Blu-ray)VIXL-146 ¥4,500+税 (DVD) VIBL-759 ¥4,000+税
〈同時発売〉
『THE PIER LIVE』
発売:2015年3月18日
(Blu-ray)VIXL-147 ¥5,500+税 (DVD)※2DVD VIBL-761~76 ¥5,000+税
『THE RECORDING & THE PIER LIVE』 ※初回完全受注生産商品
発売:2015年3月18日
(Blu-ray)※2Blu-ray VIZL-804 ¥8,500+税 (DVD)※3DVD VIZL-805 ¥7,500+税
※「THE RECORDING」&「THE PIER LIVE」の2作品を 2 in 1 にした、スペシャルプライスアイテム。スペシャルブックケース仕様による完全初回受注生産限定商品。
■ツアー情報
「くるり 20th ANNIVERSARY「NOW AND THEN」」
4月17日(金) open18:30/start19:00 大阪・サンケイホールブリーゼ
4月18日(土) open17:30/start18:00 大阪・サンケイホールブリーゼ
YUMEBANCHI 06-6341-3525(平日11:00~19:00)
4月27日(月) open18:00/start18:30 東京・渋谷公会堂
4月28日(火) open18:00/start18:30 東京・渋谷公会堂
HOT STUFF 03-5720-9999(平日12:00~18:00)
【チケット一般発売】2015年3月7日(土) 【チケット料金】全席指定¥5.940 (税込)
WEB SITE: www.quruli.net
FANCLUB : https://note.mu/quruli