Berryz工房、ファンと過ごした最後の4日間ーー幸福のスパイラルを生んだ終演に寄せて

 「最後の私たちの姿、しっかり目に焼き付けてください。」キャプテン・清水佐紀の言葉を受け、奏でられる生ピアノ。2日前に喉の不調を訴えていた菅谷梨沙子が囁くように歌いはじめる。ダブルアンコールの最後に届けられたのは「Love together!」。涙とともに流れ落ちるような歌声は、己の意志と主張をしっかりと持ちながらも、どこか繊細な彼女の本質を見ているようでもある。「梨沙子!」客席から発せられたコールは、消え入りそうな菅谷の歌に心震わされ、思わず出たものだった。そこから代わる代わる歌っていくメンバーを支えるように呼ぶファンの声と、それを受けて涙ながらもどこか嬉しそうなメンバー。そしてラストサビに向かっていく中、7人の歌に寄り添っていくかのような合唱に変わっていく。

〈好きよ 好き 大好き また会えるよね〉

 最後の一節は、次に向かっていくステージ上の7人と、それを見送る1万人の本音でもある。

 2015年3月3日、デビュー11周年を迎えたこの日、日本武道館に集まった温かいファンに囲まれながら、Berryz工房は長い長い活動に区切りをつけ、有終の美を飾った。

 「自分の好きなアーティストが一番だ」とファンが言い、「自分のファンが最高だ」とアーティストが言う。これはアイドルに限らず、どのアーティスト界隈でも言われていることだが、そうした相思相愛の関係を口ではなく、きちんと体現しているのが、Berryz工房である。2014年8月2日に発表された「無期限活動停止」。それからの7ヶ月間はリリース、イベント、コンサートツアー……今まで当たり前だった出来事のひとつひとつが“最後”になっていった。だが、そんな残された時間の中に悲壮感がなかったのは、その関係を改めて実感していく歳月であったからだろう。そして迎えたBerryz工房最後の4日間は、それをさらに感じた日々だった。

2月28日、3月1日/有明コロシアム『Berryz工房祭り』

 3部構成で行われたお祭りは℃-ute、モーニング娘。’15、アンジュルム、Juice=Juice…… ハロー!プロジェクトのグループが一同に介し、Berryz工房を盛り上げていく。2部では、ZYX、あぁ!、ガーディアンズ4など、メンバーが所属していたユニットの再結成を交え、久々に登場したBuono!がトリを飾る。

 開始から2時間が過ぎ、満を持しての第3部。Berryz工房のステージは全21曲のフルボリュームだった。「マジ グッドチャンス サマー」での菅谷の台詞“あっちゃん”を夏焼雅の愛称である“なっちゃん”に置き換える。花道を2人で移動する姿は末っ子である菅谷が、とりわけ夏焼を実の姉のように懐いていたあの頃と何も変わっていない。身長も見た目もすっかり大人の女性になった熊井友理奈だが、最後の最後まで“ENJOY”三唱を求める相変わらずの姿にほっこりしつつも「ヒロインになろうか!」での彼女の最後のキメは7人の誰よりも野太く会場に響き渡った。予期せぬ機材トラブルに動じず、あたかも事前に用意していたかのような嗣永桃子を中心に展開されるプロフェッショナルなMCに感服する。「さぼり」の全員による“けんけんぱ”では、昨年の秋ツアーでそこの振りを端折ったことを嗣永に指摘され、「どこかでするよ」と答えていた清水。その場に居合わせたファンしか知らないツアー中の一幕だったが、きちんと約束を守ってくれるのが彼女たちである。

 通常はキャリアが長ければ長いほど、ライブにおいて昔の曲に盛り上がりが偏ってしまうことは否めないのだが、Berryz工房の場合は新旧織り交ぜても褪色なく並ぶ。決して定番曲頼みにしなかったこれまでのライブ活動における賜物だろう。当時の思春期における等身大の姿を当てがって作られたものも多いが、彼女たちとともに楽曲も成長してきた。不動のメンバーで長く歌い続けたからこそ、10代の歌、背伸びをした恋も甘酸っぱい青春も、今の20代の声で歌っても懐古にはならないのである。楽曲と歌い手が切り離されて評価されることが多いアイドルソング事情であるが、Berryz工房楽曲には彼女たちが歌わなければ意味を成さない歌が数多くあるのだ。良曲に恵まれたともよく言われるが、良曲にしてきたのも、紛れもなく彼女たちである。

Berryz工房「友達は友達なんだ!」(2010年)

 〈年一度くらいは昼でも良い ランチして情報交換したいな〉今まで何度も歌われてれてきた「友達は友達なんだ!」がこんなにも意味を成すものになるとは誰も思っていなかっただろう。そして4時間を越える壮大なお祭りは、Berryz工房を愛したすべての人に捧げる「そのすべての愛に」で幕を閉じた。

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