赤い公園の歌詞はなぜ聞き手を翻弄するのか 「私」を客観視する作詞家=津野米咲の魅力

 シングルにもなった「絶対的な関係」を熟読してみよう。〈絶対的な関係を/手探っても掴めないの/ずっと中の人を/知らないままつなぐ手と手〉というサビは、つまり、人間関係の普遍的なテーマであろう。誰にだって裏があり、心の裡に住む〈中の人〉がいる限り完全な相互理解はありえない。そんなの当然で〈正体は聞かぬが花〉と突き放したり、でもそれでは〈満たされない〉と感じたり。ここまではよくあるラブソングのようで、「知りたいよもっと君のこと」みたいな言葉を足せば平均的J-ポップの出来上がりかもしれない。が、しかし、後半。

〈絶対的な関係に/しなくっても構わないの/ただ中の人を/知りたいと思うだけの私〉

 体言止めで出てくる「私」のインパクトがなかなか凄い。「思うだけの私」を冷静に認識しているもうひとりの視点があり、すでに主人公は恋愛関係とか人間関係の渦中にはいない感じ。そして歌詞はこのラストへ続く。

〈絶対的な関係を/集まっては演出してる/ああ中の人が/企んでる事は秘密/目論んでる事は秘密/私たちだけの秘密〉

 うわ、一気に飛躍したかと思えばブスリと刺さってくる。自虐とも皮肉とも、社会風刺とも取れるこの歌詞によって、津野米咲の歌は「必死の自分語り」とは程遠いところに着地していく。そして、おそらくは意識的なのだろう、最後の一行は赤い公園そのものを指す遊び心のようでもある。聴き手はめいっぱい翻弄されるが「で、ホントのところはどうなの?」などと聞いたりしては野暮の極み。以上、おしまい。そんなキリリとした終わり方をする歌詞であり楽曲であると思う。

 なお、赤い公園が歌う「秘密」は、可愛い子ちゃんが唇に人差し指を当てて言う「ヒ・ミ・ツ♡」、のニュアンスではない。知らなくてよいことです。教えることはないでしょう。それくらいキッパリとした意志の強さが備わっている。サウンドも見た目も非常に女性的、いつも何かが不安定な赤い公園だが、情緒不安定な恋愛体質女がやりがちな承認欲求一一「私って本当はこういう人間なんです!」という鬱陶しい告白がこのバンドにはまったくない。

 そこが、とても格好いい。

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。

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