BUMP OF CHICKENの曲はなぜ感情を揺さぶる? ボーカルの特性と楽曲の構造から分析

BUMP OF CHICKEN「虹を待つ人」

add9はBUMP OF CHICKENを表すコード

 印象の強い要素として藤原さんのボーカルの細かな部分をまず分析しましたが、BUMP OF CHICKENの楽曲は譜面上にも「知的なエモさ」が表れています。

 いくつかの曲のイントロのコードを見てください。

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 コードを知らない人には意味がわからないでしょうし、少しギターをかじった、というくらいの人にとっても難しそうなコードが並びます。ここからはごく単純に「BUMP OF CHICKENは『add9』が好き」ということだけ読み取ってください。彼らは他の曲を見てもadd9を多用します。

 「add9(アド・ナインスと読みます)」というのは「和音の基準の音に対して9度(1オクターブ上の2度)の音を足す」というコードです。例 えば「Cadd9」は「ド ミ ソ(C E G)」に「レ(D)」を足します。「ド」から「シ」までは7つの音なので「ドレミファソラシドレ」と、ドから数えていけば9番目の音がレですね。それにしても「9th(例:C9)」というコードもあるのに、彼らはなぜわざわざ「add9」なのでしょう?

 普通の9thコードは1度・3度・5度の普通の和音に、7度の音を足した7thコードを素にしており、「C7」にさらに9度の音を足したものが「C9」です。「ド ミ ソ シ レ」ということになり、とても豊かな響きを持ったコードです。しかし7度の音はとにかく切なく「オシャレ」な響きを持っています。おそらくオシャレな7度も含めた9thコードの豊か過ぎる響きがBUMP OF CHICKENの楽曲のイメージに合わないのでしょう。単純に9度を足しただけのadd9は、「1 3 5」と「9」との橋渡しをする7度の音がないため、どこか寄る辺ない、しかし静謐な響きを持っています。BUMP OF CHICKENの楽曲の印象をよく表すコードと言っていいでしょう。

 さらに言えば、単独ではやや浮き気味の9度の音は、単純な響きだけではなくコード進行上も意味を持って使われています。例えば『ロストマン』でのadd9の使い方は、響きというより、その後のGb6と合わせて考え、コードが変わってもアルペジオの構成音がほとんど変わらないようにするため、と考えた方が自然です。『プラネタリウム』でも、次のDb7で変化する音を相対的に強調するために、Db7の基本になる「レb(Db)」の音を先に出しておいて変わらない要素を作っておいている、とも言えます。Bの9度の音は「レb」です。

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