磯部涼×中矢俊一郎「時事オト通信」第1回(前編)
磯部涼×中矢俊一郎 対談新連載「グローバルな音楽と、日本的パイセン文化はどう交わるか?」
中矢:9SARI OFFICEがYouTubeにアップしている「9SARI HEAD LlINE 番外編」というイメージ映像があるんですけど、ギャングどうしの銃撃戦をパロディ化し、D.Oをはじめ2人が主宰するレーベルに所属するラッパーらが水鉄砲で撃ち合うという動画なんです。これまで漢やD.Oにはアウトロー的なイメージがありましたが、それを逆手に取りながらおどける彼らの様子が可笑しいですね。ただ、EXILEの場合、ベースにはこうしたラッパーたちと同じヤンキー文化があるかもしれないものの、ドラッグとかセックスとかダーティで下品なイメージは一切排除していますよね。
磯部:EXILEが話している映像を観ていても、丁寧な言葉で当たり障りのないことしか言わないから、耳を素通りしちゃうんだよね。ただ、とにかく、「HIROさんを尊敬している」っていうことだけは伝わってくるんだけど、あれもまた極端に日本社会化された“Swag(スワッグ)”なのかもしれない。スワッグはUSのラップ・ミュージックで数年前に流行った言葉で、ざっくり言うと、「その人にしかないフッションだったり立ち振る舞いだったりのスタイルを持っている」みたいなことになるのかな。でも、日本では、ファッション・ブランドの<Swagger>が倒産したのは関係ないとして、板野友美が『SxWxAxG』ってアルバムを出してAKB48時代のファンが離れていったり、それまでスワッグを体現していたKOHHが「Fuck Swag」って曲で「結局見た目より中身」って急に生真面目なことを歌い出したり、“スワッグ”という価値観に対する抵抗感が表面化しつつある。それってやっぱり、アイドルでもラップでも、日本では単なる“出る杭”では駄目で、“全体を支えるための杭”こそが評価されるっていうことなのかもしれない。EXILEの「NEW HORIZON」のMVにはソロ・ダンスでスワッグしてみせるシーンがあるけど、彼らEXILEメンバーが実践している「HIROさんを頂点としたEXILE TRIBEにしっかりと貢献した上で目立つ」というのは実に日本的な“スワッグ”なんじゃないかなって。
中矢:しかも、その教育がすごく徹底されている印象があって、それはE-girlsなんかにも踏襲されている気がしますね。先ほど、ZEEBRAがスノッブな輸入文化だったヒップホップを日本のヤンキー層にも浸透させた話が出ましたけど、EXILEもそういったことに自覚的なんですかね?
磯部:『サイゾー』のEXILE特集で、ライターの西森路代氏が「サマンサタバサと連動した『Diamond Only』のMVでメンバー全員が同ブランドのバッグを掛ける姿が象徴するように、E-Girlsはいわゆる“量産型女子大生”のロールモデル」と言っていたけど、それは必ずしも無個性という意味ではなくて、ルールを守った中で個性を出す日本式“スワッグ”なんだと思う。その点、E-girlsは「LDHからK-POPへの回答」だなんてよく言われるものの、USから直輸入した韓国式スワッグともまた違うんじゃないかな。
そして、HIROはそのようなローカライズに極めて意識的だと思う。彼はディスコの店員からZOOになった、いわゆる芸能界というよりはちゃんと日本のダンス・カルチャーを出自に持つひとで、ZOOを脱退したCRAZY-Aが関わっていった日本のラップ・ミュージック・シーンと、HIROがつくり上げたEXILE TRIBEは兄弟みたいなものだとも言える。前者はグローバライズにこだわり続けているひとが多いからこそ大きくならなかったし、後者はダサいと言われようがローカライズを厭わなかったからこそ大きくなったんじゃないかな。もしくは、HIROは出自であるはずのクラブを、現在、何処か遠ざけているようなところがあるように思えるけど、それは、今の日本では風営法の影響もあってクラブのイメージが悪いからで、だからこそ、彼はダンススクールとショッピングモールとコンサートホールを“現場”に選んでいる。
中矢:西森さんにも磯部さんにもご協力いただいたE-girlsの記事では、山形県に住んでいる小学4年生の女の子に取材したんです。その子は幼稚園の頃にEXILEにあこがれてダンスを始め、今はE-girlsの“制服ダンス”(ミュージック・ビデオの前半部分で制服姿のメンバーが繰り広げるダンス・パフォーマンス)のDVDを母親にダンス・スクールまで送ってもらう車の中でよく見ていると言っていたんですけど、東北地方にはまだEXPG(LDHが運営するダンス・スクール)がないらしくて。で、母親に「もし仙台あたりにEXPGができたら?」と訊いたら、「すぐに娘を通わせます!」と言っていました。要するに、親子がターゲットになっているんですね。
磯部:きゃりーぱみゅぱみゅの武道館公演も親子連れが多かったことが印象的だったけど、EXILE然り、AKB48然り、人口が現象している日本で売り上げを延ばそうと思ったら、当然、親子をターゲットにするよね。しかも、EXPGの優秀な子はEXILEのステージに上げてもらえるわけでしょう。そんなことになったら、おじいちゃんおばあちゃんや親戚もチケットを買う。それに、HIROさんの目が行き届いているから、子供を預けるのも安心と。ジャニーズやハロプロやAKBにははみ出してしまうスワッグな奴らがいるけど、EXILEからはまだ決定的なやつが出てきていないのは、管理がしっかりしている証拠。
あと、EXILEとスワッグと言えば、LDHにはDOBERMAN INCというラップ・グループが所属していて、彼らは2000年代初頭のインディ・デビュー時、いまで言うスワッグに先駆けることをやっていたんだけど、LDHに所属して以降はどうも飼い殺しにされているように思えてしまって。それが、今回、DOBERMAN INFINITYとして再始動するっていうから、果たしてHIROがどんな落としどころを考えたのか、ちょっと楽しみだな。
(後編【海の家のクラブ化、危険ドラッグ、EDMブーム……磯部涼と中矢俊一郎が語る、音楽と社会の接点】へ続く)
(構成=編集部)
■磯部 涼(いそべ・りょう)
音楽ライター。78年生まれ。編著に風営法とクラブの問題を扱った『踊ってはいけない国、日本』『踊ってはいけない国で、踊り続けるために』(共に河出書房新社)がある。4月25日に九龍ジョーとの共著『遊びつかれた朝に――10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』(Pヴァイン)を刊行。
■中矢俊一郎(なかや・しゅんいちろう)
1982年、名古屋生まれ。「スタジオ・ボイス」編集部を経て、現在はフリーの編集者/ライターとして「TRANSIT」「サイゾー」などの媒体で暗躍。音楽のみならず、ポップ・カルチャー、ユース・カルチャー全般を取材対象としています。編著『HOSONO百景』(細野晴臣著/河出書房新社)が発売中。余談ですが、ミツメというバンドに実弟がいます。