新作『シンバイオシス』インタビュー
HaKU辻村有記が明かす音楽人生のターニングポイント「人間ってこういう風に変わっていけるんだ」
「25歳になったときに上がってる人と、落ちている人、2つしか見えなかった」
――ではアルバムの話題に寄せていこうと思います。この1~2年で辻村さんの中で、すごく変化があったそうですが。
辻村:そうですね。このアルバムは、人の変化の過程を楽しんでもらえるアルバムだと思っていて。人間ってこういう風に変わっていけるんだっていうのをひとつ表した作品だと思っています。まず、言葉の変化だと、これまではすごく内向的な楽曲、悲観する楽曲が多いバンドだったんです。問題提起をして、お客さんと一緒に答えを考えるような感じですね。ふわっとした今の世の中だから感じるものを楽曲の中で言って、曖昧なものを一緒に考えて答えを出そうよってスタンスでした。
――もどかしさを、そのままを曲にしていたと。
辻村:そうです。ただ、26歳にもなると、ひとつやふたつ、正解だと思える答えが自分にも出てきて、それを教えてあげたいと思うようになっていったんです。それがここ2年くらいですね。自分なりに出てきた言葉も力強くて、その歌詞が歌えたのがうれしかったし。だからストレートな曲もすごくあるんです。「think about you」なんてタイトルが付けられる日が来ると思わなかったし、それができるようになったのがうれしくて。そういう変化はあります。
――25~26歳の頃って、物事がフラットに見渡せるようになる時期だったりしますよね。
辻村:それはありました。20歳くらいだとみんなまだふわっとしてて、自分が幸せだと思ってるんだけど、でもそこからいろいろ抱えていき、25歳になったときに周りを見渡してみたら、そこから上がってる人と、落ちている人、2つしか見えなかったんです。僕は、前を走ってる人たちを見たときに、あと5年しか無いなって、良い意味で焦りを覚えたんです。
――30歳までに何かしら目に見える結果を出さないとダメだってことですか?
辻村:決して30歳になって音楽をやめるってことではないけど、ここからの5年はすごく大きいなと思えたんです。それが自分に拍車をかけてくれて、前に進むスピード感をすごく与えてくれて、それが言葉にも出てきました。
――ちなみにその25歳のときに見た「前を走っている人」というのは?
辻村:僕の場合は、バンドマンよりも、社会に出て働いてるサラリーマンの友だちですね。バンドを結成して7年くらいですけど、仲の良い友人が結婚して子供がいて、その子がちょうど7歳なんですよ。スタート地点は一緒だったけど、友人は僕よりもっと大きなものを背負っていて、社会に出て徐々に地位も上げているなって。もちろん、僕も気持ちよく前に進んでいると思ってますけど、それ以上に重みみたいなものを感じて、前に進んでる力が僕よりもあると思ってしまった時期があったんです。そこでもっとがんばって、逆に友人を越えたいと思ったし。音楽でもっと前に出たいと思ったのは大きいですね。
――社会人でがんばっている友人から、自分に足りない部分に気づけたと。
辻村:気づけましたね。それによって言葉が変化したのもあるんですけど、あと、自分自身も受け入れられる姿勢が整ってきたと思います。20歳くらいだと、音楽でも人でも、好きなものだけで生きていけたんです。でも、音楽をやっていく中で、人に伝えるためには嫌いなものでも一度自分の腹の中に入れてみないと、その人の気持ちも分からないし、人に訴える言葉も出ないと思ったんです。好き嫌いじゃなく、一度自分の中に吸収して吐き出した言葉、曲が最近できるようになってきました。だから、情景が見える楽曲、人に歩み寄った楽曲ができたんです。それもこのアルバムでの変化ですね。
「僕たちは、たくさんのアーティストに夢を見れたギリギリの世代。そのワクワク感を伝えたい」
――例えば、食わず嫌いなものでも、なぜ嫌いかを確認する作業ができるようになったってことですよね。
辻村:そうです。僕らは多分、そういう確認ができるギリギリの世代なんです。
――確認ができるギリギリの世代というのは?
辻村:嫌いな理由を知りたいというのは、音楽に通じますよね。今はネットで自由に音楽が聴ける時代で、嫌いなものを聴こうとする若い子はいないと思うんです。僕らは学生時代にバイトしてお金握りしめてレコードショップでCDを買いに行ってたんです。ジャケ買いをしたり、試聴機に並んで5時間聴いたりとか(笑)。大量に買って家で聴くってサイクルがあった。でもその中にも、はずれ、自分の好みじゃないものがちゃんとあったんです(笑)
。もちろん今、1曲だけでも買えて、音楽を聴きやすくなった状況は素晴らしいと思います。ただ、嫌いなものを受け入れる環境が昔に比べて少なくなったのは事実だし、僕らはそれに気づけるギリギリの世代。だからこそ、そういうことをもっと世の中に発表して、下の世代にも伝えていきたいというのはあるんです。
――トライ&エラーは生きていく上で面白いというのを、音楽で伝えられる状態になったということですね。
辻村:そうですね。メタルの話をしましたけど、たくさんのアーティストに夢を見れたじゃないですか。そのワクワク感が学生時代に一番の楽しみだったんですよ。新しいアルバムを聴く感覚がたまらなく楽しくて。今みたくネットが発達してなかったので、雑誌見て発売情報つかんで、店着日に昼から並んでましたから(笑)。そういうワクワク感を知ったら最高だぜってことをどんどん提供できたらと思ってますね。
――音楽を発信する側としての意識も高まったんじゃないですか?
辻村:はい。僕らは僕らで、アルバムを出す意味をすごく大事にしたいし。ひとつのパッケージされたもの、ジャケットも含めて、こういう気持ちを伝えたいって意思が見せるものを出していかないといけない。残るものはずっと作り続けていきたいし、そういう思いから今回のアルバムができたのはあります。