いまアイドルをどう語るべきか 必読の書『アイドル楽曲ディスクガイド』執筆者座談会

さやわか「アイドルを包括的に語る上で、楽曲がひとつの軸になれる」

栗原:レイアウトが決まった状態で依頼をもらっているんですが、そのリストアップの時点でもう流れができていた。例えば、90年代のアイドル冬の時代に入ると、アイドルの本職が歌手じゃなくて女優になっていきます。かつては「アイドルは歌を歌うもの」だったのが、90年あたりを境に「アイドルの本業は女優でついでに歌も歌う」というふうに変わっていくんですけど、そういうストーリーがレイアウトの流れとして暗に示されている。だから、別に何の注文もされていないんだけど、書いていると自然に、そのストーリーを文章で完結させる形になるわけです。「ああ、ピロスエさんに踊らされているなあ」と何度か思いました(笑)。
 
ピロスエ:自分でそういうストーリーを作ろうと思って作ったわけじゃなくて、「ここは押さえておくべきだ」と選盤していったら結果的にそうなった、という部分が大きいですね。もちろん意図した部分もあります。でも誰がやってもある程度はこういうストーリーになるんじゃないかな?
 
さやわか:いや、どうかな? 例えば栗原さんが仰った時代のように、宮沢りえや観月ありさってアイドルの楽曲のディスクガイドに入ってこなくてもいいかもしれないじゃないですか? でも、この本はそこに文脈を込めて紹介していて、順番に読んでいくと「ああ、なるほどな」と思わされる。
 
ピロスエ:狭義のアイドルと広義のアイドル、という風に考えると、アイドルがすごく好きな人は前者を重視すると思うんです。安室奈美恵やSPEEDも微妙なところで、「アイドル」と言わずに「アーティスト」という言い方もできるし。そういうところは全て「広義のアイドル」と考えて全部入れました。
 
さやわか:さとう珠緒とか釈由美子も入ってますからね(笑)。
 
ピロスエ:最終的には「若い女の子が歌っていれば全部アイドルなんじゃないか」というところに行き着いちゃいますよねー。
 
さやわか:非常に明快な定義ですね。それと同時に、ディスクガイドということもあってすべてが「音楽」に紐つけられている。そういうやり方で扱う対象を広くできたからこそ、全体的な文脈がうまく築けたのかな、と思います。扱う対象が狭いと、必然的に自分の興味のあるアイドルの話になってしまいますから。
 
岡島:選盤や企画にあたって参考にしたアイドル関係の本はあるんですか?
 
ピロスエ:アイドル関係では昔の本をけっこうあたったんですけど、「これはいいな」というより反面教師が多かったですね(笑)。ある80年代アイドルの本は、最初の方にレビューがあって、80年代の10年間を150枚くらいで取り上げていたんですけど、そういう切り口だと本当に恣意的で浅いものにしかならなくて、やはりある程度の分量・範囲がないと面白くならないと考えました。そういう意味で影響を受けたのは、いくつかあるんですが一冊挙げると、2003年に河出書房新社から出た『テクノ:バイヤーズ・ガイド』という本です。あの本はテクノのアルバムや12インチを4000枚レビューしていて、頭おかしいなと思いましたが(笑)、やっぱりそういう方が面白くて美しいですよね。
 
さやわか:そうやって表紙がレコードのジャケットで埋まっているような90年代サブカルチャー的なディスクガイド本は、昔はいっぱいあったじゃないですか。でも今、流行っているグループアイドルのファンは、そういう網羅性よりもそれこそ「接触」のように現場中心で、作品よりアイドル本人の方が重視されていると思います。だから僕が『AKB商法とは何だったのか』という本を書いた2013年初頭には、結論として「もう楽曲にこだわることはあんまり意味がない」ということを書きました。この本はそれに抗ったというか、むしろこの本が成立すること自体が、少し状況が変わってきているのかなと思わされました。楽曲がどんなものでも構わなくなった結果、むしろいい曲を作ってもかまわない状況になっているというか。アイドルファンの中でも楽曲派、在宅派、現場派と分けたときに、楽曲派ってここ10年くらいマイナーな位置づけだった気がするんだけど、これだけアイドルブームが安定して広がってくると、楽曲は普通によくなってるし、こういう本が成立してもいいじゃん、という風潮になっているんじゃないかな、と思いました。
 
栗原:現場の数はもちろん市場規模が大きくなりすぎて、個々人でフォローできる状況ではなくなってきたことが、楽曲自体の存在価値を押し上げている面もあるかもしれないですね。楽曲が良い悪い以前に、もう何だかよくわからないという状況があるんだけど、すると受け手の尺度として逆説的に楽曲が浮上してくるというか。ピロスエさん主催の「アイドル楽曲大賞」でも、昨年末の2013年度インディーズ楽曲部門の1位が、福岡のローカルアイドル・青SHUN学園だったじゃないですか。発表された瞬間、会場はコアなヲタばかりなのに、「まるで想定外」「誰それ」みたいにどよめてましたよね。ピロスエさんも「青SHUN学園という名前は知ってるけど、この曲は聞いたことない」って漏らして。それが1位になるという。
 
さやわか:そうなんですよね。昔は単純にメジャーなアイドルがハイクオリティなものを作っていて、地下ではよくわからないチープな曲をやっている、というのがわりと普通だったんですけど、今は地下でも全然いい曲があったり、逆に地下の方が時間を掛けてクオリティの高いものを作っていたりします。そんな感じで、少なくとも楽曲で見た時にアイドルの質が一定になってきたからこそ、楽曲というものがアイドルを包括的に語る上でひとつの軸になれるんでしょうね。地下だろうとメジャーだろうと、全部を並列に並べて論じることができます。これは、こういう時代になったからこその強みかもしれません。後編【アイドルのあり方はどう変化してきたか  気鋭の論者が43年分の名曲群から読み解く】に続く
(取材・構成=編集部)

20140313-idol-zadankai-thumb.jpg左から、さやわか氏、ピロスエ氏、岡島紳士氏、栗原裕一郎氏。

■イベント情報
『アイドル楽曲ディスクガイド』出版記念トークイベント
日時:OPEN 11:30 / START 12:00
価格:前売¥1,800 / 当日¥2,000(飲食代別・要1オーダー)
※前売はローソンチケット、web予約にて3/1(土)より発売開始予定
【Lコード:33642】
場所:ロフトプラスワン
160-0021 新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2

【司会】ピロスエ、岡島紳士
【ゲスト】栗原裕一郎、坂本寛、さやわか、鈴木妄想、田口俊輔、DJフクタケ、 原田和典、宗像明将、岩切浩貴
【VJ】fardraut films

イベント概要:南沙織からAKB48まで。シングル850枚+アルバム100枚=950タイトル、徹底レビュー。70年代から現在までの女性アイドル史を捉えた驚愕の書『アイドル楽曲ディスクガイド Idol Music Disc Guide 1971-2013』を巡り、執筆者たちが集まって語ります!

詳細はこちら

■書籍詳細情報
ピロスエ・編『アイドル楽曲ディスクガイド Idol Music Disc Guide 1971-2013』
発売日:2014年2月27日
発行・発売:株式会社アスペクト
判型:A5判(オールカラー256ページ)
定価:2500円+税

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる