ワン・ダイレクションと嵐の共通点とは? メンバー間の関係性から読み解く
そこで改めて思うのは、彼らの圧倒的な“普通さ”である。イギリスにかかわらず、どこの国にもいるような、ごく普通の生活を送っていたティーンエイジャーから、全世界トータルで3500万枚もの売り上げを誇る、当代きっての世界的なボーイズ・グループへ。そんな彼らの存在に重ねられた「たった3年で人生は変わる。」という言葉の持つ説得力は、実に圧倒的なものがある。実際に彼らは、たった3年で激しくその人生が変わってしまったのだから。これを“夢”と呼ばずに何と呼ぼう。ファンのみならず、多くの人々を惹きつけてやまない「物語」が、この短いCMのなかに描き出されているのだ。さらに、そのCMに絡めてもうひとつ指摘しておきたいのは、CMのオフショット風景などからもうかがい知ることのできる、メンバー同士の「仲の良さ」である。
いまやイギリスが誇る世界的なグループとなった彼らだが、その“キャラづけ”は思いのほか明確になされていない(公式ホームページにも、個々のプロフィールは載っていない)。それどころか、その“並び順”ですら、明確には定められていないように見える(写真によってメンバーの並びはマチマチ)。あるメンバーを“センター”として打ち出すのではなく、むしろ5人全員が集まったときの和気あいあいとした雰囲気や、メンバー同士の仲の良さを前面に押し出しているように思えるのだ。突出したメンバーがいるわけではなく、メンバー5人がフラットに位置するようなボーイズ・グループ。そこで想起されるのが、日本の人気アイドル・グループ、嵐との共通性である。あらかじめ設定されたキャラクターではなく、5人が一緒にいるときの様子を見ることによって、ファンの側から個々の関係性やキャラクターを読み解いて行く楽しさ。そんな嵐とも共通する魅力を、ワン・ダイレクションの5人は内包しているのではないだろうか。
4月からは、南米、イギリス、ヨーロッパ、北米など、現在発表されているだけでも約200万人の動員を見込むワールド・スタジアム・ツアーを行うことも決定しているワン・ダイレクション。現時点では、まだ日本公演のアナウンスは無いものの、彼らが再び来日したときには、果たしてどのような状況になっているのだろうか。5人の個性とその関係性を読み解きながら、ひとつじっくりと“長い目”で、その動向を見て行きたいと思う。
(文=麦倉正樹)