EDMの立役者アヴィーチーが語る、新たなビジョン「僕は既成概念を壊したい」
世界中を巻き込んだEDMムーヴメント以降、2013年の音楽シーンには様々な変化の兆しが見られた。1月にはビルボードが「Dance/Electronic Songs」なるEDMチャートを新設し、3月にはシーンを牽引し続けたマイアミの「Ultra Music Festival」でスウェディッシュ・ハウス・マフィアが解散を表明。そして、5月には8年ぶりとなる新作『Random Access Memories』(先日発表されたグラミー賞で見事5冠を達成)をリリースしたダフト・パンクが、ローリング・ストーンズ誌で「EDMは没個性的なサウンド」と評した。確かにEDMは加速度的な勢いがあってか、飽和状態と見られる節もあった。ムーヴメントが最盛を極め、オリジナリティの欠如したサウンドが溢れかえったが、そんな状況を打破したのがアヴィーチーのファースト・アルバム『True』だった。
アヴィーチーと言えば、フロア・アンセム「Levels」(2011年)を思い浮かべる人が多いだろうが、まず彼はこう釘をさす。
「確かに『Levels』で僕の名前を知らしめることができたから、とてもありがたいと思っているよ。でも、僕が作ったトラックはあれだけだと思い込んでいる人もいるんだ。この4~5年ずっとトラックを制作してきて、これまでに100曲はリリースしている。『Levels』が唯一の作品だと言われるのは腹立たしい。だから、『True』では新鮮で違ったことをやろうと決めていたんだ」
その第一歩にして鮮烈な衝撃を与えたのが、昨年6月(『Ultra Music Festival』でデモ・バージョンを初プレイ)にアルバムから先行カットされた「Wake Me Up」だ。“変えたい”という彼の思惑と先述したEDMシーンの閉塞感が、いまにして振り返ると奇跡的なタイミングで噛み合っていたのではないか。同曲はこれまでのアヴィーチー、引いてはEDMのイメージをガラッとひっくり返すプロダクションとなっていた。シンガーには、渋くブルージーな歌声で知られるアロー・ブラックを迎え、インキュバスのギタリストであるマイク・アイジンガーも参加。ジャンルと世代を超えて実現したこのコラボレーションで聴けるのは、4つ打ちを主軸としながらも、カントリー~フォークのアコースティック・ギターがかき鳴らされる、型破りで叙情的なサウンドだった。
「メロディは頭の中にあって、それをどうすればいいのかはちゃんとわかっているんだ。でも、自分ひとりでは何もやりようがないんだ。だって、僕は歌えないからね(笑)。マイクと僕とで『Wake Me Up』の制作に取り掛かっていたとき、アローがスタジオにやってきたんだ。彼はもともとラッパーだから、素早くリリックに対応してくれた。それを基に僕らは全体像を1時間足らずで考えて形にしていったんだ。コンテンポラリー・フォークのアイディアはマネージャーであるアッシュが出してくれた。僕は既成概念を壊したいと思っていたから、そのアイディアがすごく気に入ったし、実行するためのもっとも適した方法だと思ったよ」
「Wake Me Up」で見せた音楽志向は、驚きとともに熱狂的に受け入れられた。UKでは発売初日に8万8000ダウンロードを記録するなど、最終的にダフト・パンク『Get Lucky』、ロビン・シック「Blurred Lines」とともに2013年度で100万ダウンロードを越えたシングルとなった。さらにアメリカでもダブルプラチナ・ディスクに認定されるなど世界20カ国以上のチャートで首位を獲得し、彼自身をがんじがらめにしていた呪縛的ソング「Levels」を越える大ヒットとなった。従来のアヴィーチーのイメージとは異なるにも関わらず、このセールスを記録したことは、リスナーも現状のEDMに対して変化を求めていた証ではないだろうか。