本当は凄い「泉谷しげる」 今こそ聴きたい名作アルバムたち
昨年の紅白では、観客に毒づきながら「春夏秋冬」を歌い、一部で物議を醸した泉谷しげる。「春夏秋冬」は多くの人が知る名曲であるが、昔からのファンの中には「他にもいい曲があるんだけどな」と感じた人も多いかもしれない。泉谷しげるこそは、日本の音楽史でもまれに見るほどサウンドの探求に貪欲で、多くの実験的な作品を発表してきたミュージシャンである。
たとえばロックというなら、石井聰亙監督の映画『狂い咲きサンダーロード』にも提供した「電光石火に銀の靴」のギター・リフは、日本のロック史に残る出来。初めて聞いた人は鳥肌が立つかもしれない。
加藤和彦がプロデュースした『春・夏・秋・冬』(1972年)ではフォーク音楽だったが、サディスティック・ミカ・バンドを従えた『光と影』(1973年)などではファンキーな要素もあるウェストコーストサウンドにシフト。極めつけの名作は、加藤和彦プロデュースの『’80のバラッド』(1978年)だ。吉田建などの腕利きプレイヤーを招いて生まれた、同時期のルー・リードあたりにも通じる洗練されたロックサウンド。「波止場たちへ」「翼なき野郎ども」など、歌詞の面でも泉谷しげるの代表作と目される名曲が入った一枚である。
俳優活動中心の時期を経て、80年代後半には、仲井戸麗市(後に脱退)、下山淳、吉田建、村上ポンタ秀一らによるバンド「LOSER」を従え、U2などにも通じるダイナミックなバンド演奏を披露。『吠えるバラッド』(1988年)は、同時期の泉谷のバンドリーダーぶりが伝わる名作である。90年代のロックサウンド追求期を経て、近年では弾き語りライブを旺盛に行う一方、昨年カバー&コラボレーション・アルバム『昭和の歌よ、ありがとう!』を発表したり、1月8日には『突然炎のように!』(自主流通版)を再リリースするなど、今も攻めの姿勢を失っていない。
紅白で泉谷しげるに関心を持って「何か聴いてみようかな」と考えている方は、まずは1970年代の泉谷サウンドに触れていただきたい。