町田啓太の土方歳三は時代劇史に刻まれる 歴史の“名場面”を飛ばす『青天を衝け』の斬新さ

町田啓太の土方歳三は時代劇史に刻まれる

 『青天を衝け』(NHK総合)はことごとく意表をつく大河ドラマだ。「薩長同盟」が描かれても坂本龍馬の影さえ見当たらないし、「池田屋事件」が描かれても、新選組で描かれるのは土方歳三(町田啓太)だけ。さらには栄一/篤太夫(吉沢亮)、この動乱のピークのような時期にパリに行ってしまうのか。史実とは言え思わず突っ込んでしまいたくなるところである。

 しかし、それがまた面白い。多くの幕末ものの時代劇で描かれる「名場面」を悉く飛ばしていくこのドラマが重きを置いているのは、2つある。

 1つは、円四郎(堤真一)が篤太夫にわかりやすく語って聞かせていたような、彼らの生きている時代の大きな流れや仕組みである。幕府、朝廷、薩摩、長州それぞれの思惑に、どうイギリス・フランスが絡んでいったか。幕府の勘定奉行・小栗忠順(武田真治)、一橋家の勘定方・篤太夫、薩摩の五代才助(ディーン・フジオカ)といった、経済の知識が豊富な、これまでにいなかった優秀な人材が、それぞれの組織を強くしていったという視点も興味深かった。

 もう1つは、まるで近所にいるお兄ちゃんのように親しみやすい、何事も思うようにいかない日々にいつも悩んだりヤケになったり閃いたりしている、渋沢栄一(現・篤太夫)の等身大の人生である。家茂(磯村勇斗)が死に、慶喜(草なぎ剛)が徳川宗家を継ぐことになったため、せっかく充実してきた勘定方の仕事を手放し、一橋家を去り、これまで散々「幕吏」とけなしてきた幕臣に自らがなってしまったことに戸惑いを隠せない。世話になった猪飼(遠山俊也)に対し、涙混じりに一橋家を去る無念さを語る篤太夫の姿は、転勤族のサラリーマンの悲哀そのものである。

 また、俳優自身の魅力も忘れてはならない。初回における吉沢・栄一の登場シーンを観た時、『なつぞら』(NHK総合)、『GIVER 復讐の贈与者』(テレビ東京ほか)、映画『キングダム』等、これまで多くの印象的な役柄を観てきたにも関わらず、吉沢亮という俳優に初めて出会った、役が躍動感を以て生まれ落ちた瞬間を見たかのような気がした。

 また、第19回で、猪飼相手に、物産所の運用方法について考えあぐね、現状を滔々と語る様は、どこがとは言い難いが、数話前に命を落とした円四郎が乗り移りシンクロしているようにも見えて、その姿を遠目で見つめる慶喜の顔を見るにつけ、涙ぐまずにはいられなかった。このドラマは、そんな物語を越えた奇跡を目の当たりにすることができるドラマでもある。

 そして第20回において最も印象的かつ、俳優同士の掛け合いが何より魅力的だったのが、町田啓太演じる新選組副長・土方歳三と篤太夫の交流の場面だった。全くもって、なんと鮮烈な土方歳三だろうか。こんなにもしなやかに、軽やかに、一切の力みなく時代劇の中に溶け込んでしまうことのできる俳優をあまり見たことがない。

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