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『東京β』『東京どこに住む?』著者、速水健朗インタビュー

映画は東京をどのように描いてきたか? 速水健朗が語る、東京と映画の不幸な関係

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hayamizu-01th.jpg速水健朗氏

 ライター、ラジオのパーソナリティー、テレビのコメンテーターなど多くの分野で活躍、リアルサウンド映画部サイトオープン時からの寄稿者の一人でもある速水健朗氏が、この春に2冊の本を上梓した。一つは単行本『東京β: 更新され続ける都市の物語』(筑摩書房)。映画やテレビドラマや小説やマンガといったフィクション作品において、これまで東京がどのように描かれてきたかを検証しながら、スリリングかつ、時にアクロバティックな視点で都市論を展開していく一冊だ。もう一つは、新書『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』(朝日新書)。『東京β』が自由自在に過去と現在を行き来する「東京論」だとすると、こちらは東京の現在に焦点を絞ったその「実践編」と言うべき趣を持った一冊。いずれもいわゆる「映画本」ではないが(特に『東京そこに住む?』にはその要素はまったくない)、東京に新たな視点を投げかけている点において、映画好きやドラマ好きにとっても、非常に刺激的な本になっている。速水氏とは現在『NAVI CARS』というクルマ雑誌で対談の連載をしているのだが、今回はインタビュアーという立場(最後の方は対談みたいになってしまったけれど)から、新刊2冊についての話を訊いた。(宇野維正)

「『東京β』は、日本のフィクションの作り手たちが、いかに東京に悪意を向けてきたのかということの羅列になっている」

hayamizu-02th.jpg『東京β: 更新され続ける都市の物語』

――今年4月に『東京β: 更新され続ける都市の物語』、5月に『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』と、立て続けに東京にまつわる著書を刊行した速水さんに、今日はリアルサウンド映画部ならではの角度で話を訊いていきたいんですけど。

速水健朗(以下、速水):たまたまどっちも東京にまつわる本なんですけど、この2冊はあまり関係がないと言えば関係がないんですよ。

――でも、併せて読むと、今の東京に関して速水さんの抱えている問題意識がすごく立体的に見えてきてとてもおもしろかったです。

速水:『東京β』は2009年頃に始めた長期連載をまとめたもので、『東京どこに住む?』は、近年の関心事を一気に書き下ろしたもの。タイムスパンがまったく異なるとはいえ、結果的に視点が重なっている部分は多いですかね。

――『東京β』は、映画をはじめ、テレビドラマ、小説、マンガといったフィクション作品の中で、これまで東京がどのように描かれてきたのかについて論じた本ですが、そこで近代における東京の変化の過程を辿っていったりするのではなく、速水さんが興味を持っている地域やテーマに寄り添った作品がチョイスされています。

速水:東京を舞台にした作品は膨大にあるので、網羅をするのは土台無理な話なんですけど、その中でちゃんと東京を描いている作品、「これは東京の映画ですよ」「これは東京のドラマですよ」と言い切れるものって、実は結構少ないなと思っていて。

――あぁ、そうかもしれませんね。

速水:例えば『ローマの休日』でも『ティファニーで朝食を』でもいいですけど、外国映画には特定の大都市を魅力的に描いてきたという歴史があって、ウディ・アレンのなんかも「自分にニューヨークを撮らせたら、誰よりもいい場所を知っているよ」という「どうや!」みたいなところがあるじゃないですか。「ラストシーンはここ!」みたいな。東京で、そういう映画の撮り方を継続的にしてきた監督というのは、ほぼいないと思うんですよ。で、なぜかというと、おそらくウディ・アレンのようにニューヨークが好きで好きでしょうがないみたいな映画作家が、東京にはいないからだと思うんですね。

――近年でこそアレンは海外でも映画を撮るようになりましたが、これまで「ニューヨークの外に出た途端に気分が悪くなる」とか「ニューヨークを夢の国のように撮りたいという強い願望があった」とかの有名な発言があります。

速水:そういう意味では、どちらかというとこの『東京β』は、これまで日本のフィクションの作り手たちが、いかに東京に悪意を向けてきたのかということの羅列になっているかもしれません。映画だと、特に60年代以降の「東京を描いている作品」の多くは、批判的に東京を捉えている作品ばかりで。もう、『Always 三丁目の夕日』以外はほとんどみんな東京を憎んでいるんじゃないか、というくらい(笑)。もちろん川本三郎が書いた『銀幕の東京』だとか『ミステリと東京』だとかは、自分が最も影響を受けていると言ってもいいくらい大好きな本なんですけど、そこに書いてある東京って昭和30年代くらいまでの東京で、つまりこの辺までの東京だけが、みんなが愛せていた東京なんですよね。

――『東京β』では第1章、本の導入部分で、1962年の川島雄三監督『しとやかな獣』を取り上げています。

速水:『しとやかな獣』は当時の最先端だった晴海の高層住宅から始まるんですけど、急速にアメリカ化、都市化していく生活環境への批判、ダメになっていく日本人のとしての家族が描かれる。同じく東京の湾岸地域を描いた作品だと、80年代の森田芳光監督『家族ゲーム』にしてもかつてのよき共同体から切り離された郊外の家族の苦悩がモチーフ。00年代の黒沢清監督『叫』になると、開発に失敗した場所としての湾岸がテーマ。とにかく、日本映画においては、東京湾の湾岸地域って、失敗した場所という物語しか描かれてない。

――その3本を並べて語る人は、速水さん以外なかなかいない(笑)。

速水:そういうところに僕の物書きとしての手癖が出てると思います。よく言えば、接続のアクロバティックさ。いや、これはむしろ重要な自分に課しているテーマでもあるので、声を大にして言いますけど、軽薄なんです。一部の映画好きの人や、映画評論家的な視点の映画が苦手で、むしろ語るべき映画史の正史からアブれたものの方がおもしろく思える。例えば、『踊る大捜査線』シリーズを大まじめに分析したりするのが僕の仕事だと思っています。それこそ以前、『団地団』という団地をテーマにした共著本で川島雄三と「デジモン」を並列に評価した本を出したときは、キネマ旬報社から出した本にもかかわらず、キネ旬本誌で自社広告を打ってもらえなかった(笑)。いまだに老舗にその手の矜持があるっていうのはむしろ素晴らしいことですけど。

――(笑)。

速水:作家性みたいなものを自分で主張させてもらうなら、傍流のものをたくさん観て、読んでいるというのが僕の強みです。例えば、加山雄三の『若大将』シリーズは、基本全部観てます。例えば『東京β』では、ガメラが東京に上陸してあらゆるインフラを破壊してまわるコースが、『南太平洋の若大将』でハワイから来た前田美波里演じる女の子を、東京ガイドに連れて行く観光コースと同じということを書いてます。これは、自分の世代では誰も気づかないことだろうし、まあふつうはどうでもいいことだろうなって(笑)

      

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