石田ゆり子、刹那の“キスシーン”に心奪われるワケ 『コントレール』は恋愛ドラマの傑作となるか

 この春スタートしたドラマをいろいろ観ていて思うのですが、今クールはいつにも増して“恋愛ドラマ”の印象が強いです。嵐の大野智と波留が共演する『世界一難しい恋』(日本テレビ)や、中谷美紀が主演する『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』(TBS)、あるいは松下奈緒主演の『早子先生、結婚するって本当ですか?』(フジテレビ)など、そのものズバリ男女間の“恋愛”をテーマとしながら、それをコメディタッチで軽やかに描いたドラマはもちろんのこと、その行く末は未知数ですが、福山雅治と藤原さくらの関係性が物語の中心となっている『ラヴソング』(フジテレビ)。あるいは、映画『ゴーン・ガール』さながら“極限の夫婦関係”といった趣きもある、伊藤英明主演の『僕のヤバイ妻』(フジテレビ)も、広い意味では“恋愛ドラマ”と言うことができるでしょう。さらに、深夜ドラマに目を向ければ、前田敦子の身体を張った艶やかな演技がファンのどよめきを誘っている『毒島ゆり子のせきらら日記』(TBS)、4月29日からスタートした栗山千明主演の『不機嫌な果実』(テレビ朝日)など、まさしく“恋愛ドラマ”が百花繚乱の様相を呈しているのです。

 しかし、それ以上に筆者が驚いたのは、この春のドラマ全般に見られる“キスシーン”の多さです。通常の“恋愛ドラマ”では、物語の終盤近くに登場することの多い“キスシーン”が、なぜか今クールは序盤早々、あちらこちらで頻繁に見受けられる印象があるのです。冒頭に挙げた『世界一難しい恋』や『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』のような“恋愛ハウツーもの”的なニュアンスのあるドラマにこそあまり登場しませんが、前田敦子が毎回複数の男性と熱い抱擁を重ねる『毒島ゆり子のせきらら日記』をはじめ、主人公の友人役を演じる橋本マナミが序盤早々若い愛人と熱いくちづけを交わし、初回の終盤では栗山千明も、元カレ役の成宮寛貴に唇を奪われるという『不機嫌な果実』。ちなみに、『僕のヤバイ妻』では主人公である伊藤英明が、その愛人役の相武紗季と毎回のようにチュッチュやっており、『ラヴソング』では、藤沢さくら演じる主人公の幼馴染み役の菅田将暉が、意表を突いて藤原さくらの唇を奪うという急展開になっているのです。

 なにやらこの春、いつになくデフレ傾向にある気がしないでもない、ドラマのなかの“キスシーン”。そんな状況下にあって、筆者が最も心奪われたのは、金曜日に時間帯を移動したNHK総合「ドラマ10」枠で放送中の『コントレール~罪と恋~』で、主演の石田ゆり子と井浦新が見せた、刹那の“キスシーン”でした。かつて、『セカンドバージン』で“不倫愛”を真正面から描いた脚本家・大石静のオリジナル作品である本作。ひこうき雲(フランス語で“コントレール”)が鮮やかに映える晴天好日の午後、無差別殺人事件によって夫を失った主人公(石田ゆり子)と、犯人を取り押さえる際に過ってその夫を死なせてしまった男性(井浦新)の“許されざる恋”を描くという、その“あらすじ”を最初に見た時点では、正直「ちょっと重そうだな……」と思っていた本作ですが、これが意外とそうでもないのです。

 物語の舞台となるのは、“事件”から6年後の世界。街道沿いで小洒落たドライブイン“コントレール”を経営する主人公(石田ゆり子)は、事件当日に妊娠が発覚した長男を女手ひとつで育てるシングルマザー。一方、事件のショックによって“声”を失ってしまった男(井浦新)は、将来を期待された弁護士という職業を捨て、現在は長距離トラックの運転手を生業としています。ふとした偶然から、お互いが何者であるかを知ることなく、互いの内面に通ずる深い“孤独”と“絶望”によって、急速に距離を縮めてゆくふたりは、初回のラストでいきなり熱いくちづけを交わすのです。なんという急展開。“攻め”の石田ゆり子と“受け”の井浦新。悲劇によって抑圧され続けてきたふたりの“生”は、ここぞとばかりに燃え上がります。周囲に波風を立たせながらも、逢瀬を重ねるごとに、よりいっそう激しく燃える男と女。その様子は、さながら恋に浮き立つ少年と少女のようですらあるのです。

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