望月春希の圧倒的なきらめきがここに Netflix映画『This is I』が肯定する“自分だけの居場所”

『This is I』が肯定する自分だけの居場所

 Netflix映画『This is I』が、2月10日の配信直後から国内における「今日の映画TOP10」で1位を獲得した。本作はタレントのはるな愛の半生を基にした実写作品。主人公のアイ役にはオーディションで選ばれた望月春希が抜擢され、後に“アイ”と呼ばれることになるケンジの半生が幼少期から描かれている。

 はるながブレイクした口パク芸に重ね、1980年代を中心とした歌謡曲に登場人物が口パクで踊る「“エア”ミュージカル」という手法がとられている点も独自性が際立つが、まず視聴者の心を掴むのは望月が見せる圧倒的なきらめきだ。

 物語の序盤、アイが初めてドレスを着て街に出た際、山下久美子の「赤道小町ドキッ」に合わせて大阪の商店街を生き生きと進む姿は、観る者を一気に物語へと引き込んでいく。また、幼少期に松田聖子の「夏の扉」を歌う場面からは、アイドルに憧れる純粋な思いが溢れ出す。しかし、何より圧巻なのはショーパブのステージで初めて歌う場面だ。中森明菜の「スローモーション」のイントロが流れる中、白いドレスで登場する望月は、デビュー当時の明菜が持っていた儚さと純粋さがそのまま乗り移ったかのように見えた。

 そんな望月の繊細さが発揮されていたのが、「私はいったいなんなん……」と自身の内面と向き合う“葛藤の演技”だ。「聖子ちゃんみたいなアイドルになりたい」と願うアイは、成長期に副作用の強いホルモン剤を飲んで性徴を止めようとし、激しい嘔吐症状に襲われる。そんな時、斎藤工演じる和田医師と出会う。当時は優生保護法の影響もあり、生殖機能を失わせる手術がタブー視されていた。しかし、アイは命を落とす危険もある性別適合手術へと突き進んでいく。とりわけ、手術後に恋人と結ばれた際の描写は印象的だった。本来なら大きな喜びに包まれるはずの瞬間に、アイは生まれつき性別に違和感を抱えていない女性に対する「嫉妬」を口にするのだ。これは当事者でなければわからない“リアルな感覚”だろう。

 木村多江演じる母親との関係性も印象的だ。高校入学と同時に、父親には自分の性について明かしていたものの、母親はその事実と向き合うことができないでいた。その後もギクシャクした関係であったが、陰ながら応援していた母親は、東京のケンジの家を訪ねる。そして「昔から女やったんやろ、隠さんでええ」と声をかけ、初めて「ケンジ」ではなく、「アイ」と呼ぶのだ。はるなの自伝によると、実際はもっと複雑で生々しいいきさつがあったようだが、映画では母子の絆が再生していく過程がはっきりと伝わるようアレンジされており、作中屈指の感涙シーンとなった。

 物語の後半にかけては、はるなの代名詞とも言える「エアあやや」の誕生が描かれる。松浦亜弥の喋り方の癖まで精緻に再現する望月のパフォーマンスは、観ていて鳥肌が立つほどだった。この誕生シーンで、ネタとして披露するのを勧めるバーの常連客役を演じているのが、星田英利(旧・ほっしゃん。)である。星田は実際、ブレイク前のはるなを女性だと信じ込み、本気でプロポーズした過去を持つ人物。またはるなを妹のようにかわいがってきた藤原紀香や、現在の所属事務所を紹介したMEGUMIも出演。こうしたゆかりのある人物がキャスティングされていたことも物語のリアリティを底上げしていた。

 アイが苦闘の末に見つけた「自分だけの居場所」は、観客が自分自身の在り方を肯定するための心強い道標となったに違いない。

■配信情報
Netflix映画『This is I』
Netflixにて世界独占配信中
出演:望月春希、斎藤工、木村多江、千原せいじ、中村 中、吉村界人、MEGUMI、中村獅童
監督:松本優作
脚本:山浦雅大
音楽:小瀬村晶
企画:鈴木おさむ
特別協力:はるな愛
エグゼクティブプロデューサー:佐藤善宏
プロデューサー:窪田義弘
ラインプロデューサー:保中良介
制作プロダクション:TOHOスタジオ
製作:Netflix

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