クリスチャン・スコットに聞く、R+R=NOW結成の経緯 「全員がこの時代のバンドリーダーだ」

 ロバート・グラスパー(Key/Rho)、テラス・マーティン(Sax/Vocod/Key)、クリスチャン・スコット(Tp)、デリック・ホッジ(Ba)、テイラー・マクファーリン(Syn)、ジャスティン・タイソン(Dr)という6人が集まった革新的プロジェクト・R+R=NOWが、新作『Collagically Speaking』をリリースした。

 「Reflect+Respond=NOW」、つまり「時代を反映させることはアーティストの責務である」というニーナ・シモンの有名な言葉にインスパイアされたバンド名の通り、個々人の豊かな音楽性やバックグラウンドが存分に発揮されている同作。リアルサウンドではクリスチャン・スコットにインタビューを行い、R+R=NOW結成の経緯や各メンバーの特徴、豪華客演陣も参加したアルバムの制作背景について話を聞いた。(編集部)

 「ロバートがもっと評価されてしかるべき点は、リズムを取り扱う能力」

ーーまずは昨年の『SXSW』で初めてR+R=NOWの6人が集まったときのことを振り返っていただけますか?

クリスチャン・スコット(以下、クリスチャン):あのときはめちゃくちゃ楽しかったな。「クリエイティブなコレクティブ(集合体)をつくって、最強メンバーで新しいサウンドを人々に届けられたらクールだよね」なんて話をみんなでしていたんだけど、実際にそれを『SXSW』で叶えられて本当に楽しかったし、エキサイティングだった。またとない瞬間だったよ。でも実は僕、その前日に親知らずを2本抜いていたんだ(笑)。すごく痛かったよ。だから、ギグの間中もずっと口のなかにガーゼを入れていた。親知らずを抜いたところを縫ってあったんだけど、あまりに激しく吹いたら糸が切れちゃってさ(笑)。みんなには「あんまり無理すんなよ」なんて言われていたのに、ついついうれしくて興奮しちゃって口のなかは血だらけだった(笑)。そういう意味でも思い出深い一日だったね。

ーーすでに『Soul'd Out Music Festival』に出演するなどライブ活動も積極的に行っているようですが、6人のケミストリーはセッションを重ねていくにつれてどのように変化してきていますか?

クリスチャン:Soul’d Out Festivalのほかには南アフリカのケープタウンでもショーをやったよ。一緒に演奏するたび、お互いプレイヤーとしての理解が深まっている感じはするね。それに、一緒に演奏することがより快適になってきている。それぞれのプレイヤーの癖とか、彼にはどんなスペースが快適でどんなスペースで冒険しようとしているかとか、そういうことがわかるようになってきたんだ。お互いにバランスを取りながら、クールなサウンドをつくれるようになってきているね。今後一緒に演奏を続けていったらどんな進化を遂げていくことになるか、すごく楽しみだね。

ーーでは、R+R=NOWの各メンバーの魅力や持ち味をあなたから紹介していただけますか? まずはロバート・グラスパーから。

クリスチャン:ロバートは音楽史のなかでも特に魅惑的なプレイヤーで、同時に素晴らしいコンポーザーでもある。でも彼の才能で僕が最も素晴らしいと思っているのは、コミュニティを築く能力なんだ。ロバートはコミュニティの才能をまとめて、彼らが共存しつつお互いに交わることができるような骨組みを最高のかたちでつくってくれる。そして、全員にそれぞれのスペースを与えてくれるんだ。そんなことができる人を僕は見たことがない。人々をまとめて全員の才能を活性化させて、それをひとつの屋根の下にうまく収めるという、彼のあの才能は傑出しているよ。普通はできることじゃない。最高峰レベルのアーティストを集めてそれをやってしまうんだからね。そういったアーティストはだいたい自分でつくった特定の環境のなかにいるものだけど、彼はそんなアーティストが実力を十分に発揮して心地よく音楽を制作できる環境をつくることができる。

 あと、ロバートがもっと評価されてしかるべき点は、リズムを取り扱う能力。彼は音楽と演奏のなかにリズミックなスペースをつくる能力がすごい。ピアノが実際は打楽器だということを理解していて、まさにそんな感じで演奏するんだ。リズムを駆り立てて前面に押し出していく彼のピアニストとしての能力は、ずっと人々に語り継がれていくと思うよ。

ーー続いて、テラス・マーティン。

クリスチャン:テラスと一緒に仕事ができて楽しかったよ。彼はスーパープロデューサーだ。音の聴き方から演奏の仕方にいたるまで、すべてに関してね。テラスはトップレベルのアーティストと仕事をしてきて、そこで学んだことを多彩な音楽的コンテクストで受容してきた。彼はそのバックグラウンドからヒップホップ系のスーパープロデューサーと捉えられることも多いけど、実際一緒に仕事をしてみると本当の才能はあらゆるカルチャーから魅惑的で豊かな音楽をつくることができる点にあると思ったね。彼は音楽に関して、突き抜けた知識を持っているんだ。だから、テラスの仕事を間近で見ることができたのは今回のプロジェクトをやっていて特に楽しい経験だった。素晴らしいプロデューサーで素晴らしいアルトマン(アルトサックス奏者)で素晴らしいソングライターであることに加えて、彼はあらゆる環境を上手に渡り歩ける人間でもあるんだ。テラスが音楽を通じて話そうとするとき、僕はいつも瞬時に魅了されたよ。彼のやっている音楽はスピリットとソウルにあふれていたからね。テラスは最高峰のアーティストのひとりだよ。

ーー次はテイラー・マクファーリン。

クリスチャン:テイラー……僕は彼に会うとうれしくなっていつだって興奮してしまう。というのも、彼は僕たちが楽器を使ってやることを声で成し遂げてしまうわけだからね。テイラーはさまざまな環境をその声でつくることができるんだ。彼はいろいろなスキルを使ってプロデュースを行っているわけだけど、特に自分の声を使ったパフォーマンスを目の当たりにすると唯一無二の存在だって確信できる。もしなにか音楽をつくろうとしているときに楽器がなかったら、僕は誰よりも先にテイラーを呼んで自分のアイデアを彼の声で音楽にしてもらうと思う。彼は音楽世界の構築者だ。テイラーも一世代にひとり出てくるかどうかってくらいのアーティストだと思う。

ーージャスティン・タイソンはいかがでしょう。

クリスチャン:ジャスティンの名前を聞いてまず思い浮かべるのは、彼のあの手だ。 ジャスティンのポケット(グルーヴ)は凄いだろ? それに、彼にはいろいろなスタイルを継ぎ目なく融合する才能がある。僕は自分のバンドでつくっている音楽をストレッチミュージックと呼んでいるんだけど、これはさまざまな音楽的コンテクストをひとつのコンテクストにまとめている音楽のことで、ジャスティンはそれをひとつの楽器でやり遂げてしまうんだ。だから彼の演奏を聴いていると素晴らしいトラディションがすべて入っていることがわかるんだけど、ジャスティンはすべてをスムーズに取り入れる手法を身につけている。どれかひとつが突出することなく、でもそのすべてがひとつのスペースに収まっているだけではない、これまでとはまったく違ったタイプの音楽になっているんだ。ジャスティンの持つこのスキルがこれからどのように発展していくのか、それを見届けるのが本当に楽しみだよ。彼は本当に素晴らしいプレイヤーだ。あのプレイには容赦がないよね。すごいパワーを感じるだろ? 演奏中、ずっとあのパワーが観客に伝わるんだ。

ーー最後はデリック・ホッジです。

クリスチャン:デリックは僕のお気に入りのミュージシャンだ(笑)。それ以外、言い表しようがないよ。彼はあらゆることを最高のレベルでやれる上、細部に至るまで注意が行き届いているし、演奏も観察眼も機微があって洗練されているんだ。デリックは触るものすべてを根本から理解している。彼がこのプロジェクトに参加していなければ、僕たちが音楽的にやろうとしていたことは達成できなかったと思う。というのも、デリックは接着剤のような人間なんだ。さまざまな声を結ぶパイプ役だったのさ。彼はとてつもないスキルを身に着けていて、僕たちがスタジオで曲をつくっているときもなにかを一回聴いただけですべてを書き起こすことができるんだ。5分間の曲であれ、彼は一回聴くだけですべてを覚えているんだよ。クレイジーだろ? これまで僕が会ったなかでも圧倒的にすごいミュージシャンだね。僕は音楽を始めて24年、ツアーをやるようになってからは22年になる。その過程ではプリンスやトム・ヨークとも仕事をしたことがあるけど、デリックのスキルとミュージシャンシップはどんなミュージシャンをも圧倒するものがある。彼はなにをやっても最高だし、ジャズ史のなかでも最高峰のベーシストだということに異論もない。もし反対する人がいたら、そいつはきちんと音楽を聴いていないってことだね(笑)。

 デリックは最高のベーシストのひとりだと思うよ。素晴らしいコンポーザーであり、素晴らしいミュージシャンであると同時に、他の付加的なスキルも持っていて勤勉さでも突出しているんだ。彼はどんなステップも飛ばしていない。近道をせずに、ミュージシャンとしてすべてのステップを踏んで成長している。この点でも僕は彼に共感できるんだ。僕のミュージシャンとしてのプロセスも、デリックに通じるところがあるからね。彼は決して楽な道を探そうとはしない。そもそも、なにかを知っているということと理解しているということは違うんだ。たとえば空は青いということは誰もが知っているけど、なぜ空が青いかについてはきちんと説明できないだろ? デリックの演奏からは、知っていることと理解していることの違いを感じとることができる。すごく高いレベルで演奏して、洗練された作品をたくさん残しているミュージシャンでも、音楽を理解している人は少ないんだ。でもデリックは、僕が生まれてこのかた出会ったミュージシャンのなかでも最高のレベルで音楽を理解している。究極の凄腕ミュージシャンといえば、デリック・ホッジ。僕はそう考えているよ。

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