西野カナや東京女子流の楽曲提供でも話題 佐伯ユウスケが目指す“オーセンティックな音楽”

佐伯ユウスケが目指す“オーセンティックな音楽”

 J-POPやアニソンのクレジットを眺めていると、“佐伯youthK”という名前を見かけることが多いのではないだろうか。関ジャニ∞、西野カナ、May.J、西島隆弘(AAA)といったアーティストから、吉木りさに東京女子流といったガールズポップスミュージシャン、入野自由に柿原徹也、井口裕香といった声優アーティスト、果てはTHE IDOL M@STER……と、幅広いフィールドに渡り、ブラックミュージックを基調としたオーセンティックかつメロウなサウンドを提供し続けている、今注目すべき若き音楽家の一人だ。

 その彼が、「佐伯ユウスケ」というミュージシャンネームで活動しているのはご存知だろうか? 2012年頃に本格的にソロ活動を開始、ミニアルバム『7つのドウキ』、シングル『Step into the Stage』(配信限定)はブルーノ・マーズへ日本からの回答とでも言うべき、軽妙洒脱なサウンドをかき鳴らしていた。

 佐伯は約4年という雌伏の期間を越え、今年2月に『弱虫ペダル NEW GENERATION』(テレビ東京系)のエンディングテーマを含むシングル『ナウオアネバー』を発売。そして時を置かずして、5月17日に第2クールエンディングテーマを収録した『タカイトコロ』をリリースする。前作以上にエモーショナルなストレートなロックサウンドと言葉は、彼の音楽像に新たな芽を吹かせた。リアルサウンド初登場となる佐伯に、新作の話から、作家としての矜持について伺った。彼が音楽制作を続けるその裏に潜むとある作品の影響とは。(田口俊輔)

“NEW GENERATION”という気分で臨んだ「タカイトコロ」

ーーまず、『弱虫ペダル NEW GENERATION』のエンディングテーマに携わるようになったきっかけをうかがいたいのですが。

佐伯:ちょうど1年前まで大手事務所と契約していて、そこでアーティスト活動をしていたんですけど、あまりスムーズにいかなくなってしまって。そのタイミングで柿原徹也くんの楽曲制作などで長年お世話になっている音楽制作事務所のVERY GOOから、「『弱虫ペダル』のテーマソングの話があるけど、どう?」という話をいただきまして。もう、これだけ大きな話、二つ返事で返すしかないなと(笑)。

ーー前クールのエンディングテーマ「ナウオアネバー」は軽快かつ颯爽としたギターサウンドと前向きな言葉が並ぶポップな楽曲でしたが、今作「タカイトコロ」は、『弱虫ペダル』のレース世界を再現したかのように、さらに熱量を増したポジティブな言葉が所狭しに綴られ、ギターもドライブしまくる“エモい”ロックな作品になりました。

佐伯:おっしゃる通り、「タカイトコロ」はかなり作品世界を意識しました。「ナウオアネバー」は佐伯ユウスケというアーティスト像と、『弱虫ペダル』という作品とのバランスをどのように取るか、ということを考えて作った曲でして。ザ・アニソン!という曲を作ろうと意識して、自分らしさのない“それっぽい”曲を書いても、僕を起用していただいた意味がないですし、やるなら僕が作って歌うということに意味を持たせたいと思って、佐伯ユウスケと『弱虫ペダル』のバランスを考えて作ったんです。なので「タカイトコロ」は一切、そのバランスを考えずに、作品世界を思いきり意識して作ろうと思って。逆に自分にないワードチョイスを意識して使い力強く真っ直ぐな言葉が並んでいます。

ーーいつもと違う自分を出そうと強く意識されたのでしょうか。それとも制作スタッフからの提言があった?

佐伯:いい意味でちょうどその中間くらいだったんですよ。制作サイドからは第1クールの頃から“熱い曲が欲しい!”との要望があって、自分なりの『弱虫ペダル』の“熱さ”をMAXで出したのが「ナウオアネバー」だったんですけど、(制作スタッフから)「まだ行けるでしょ?」と言われまして(笑)。第2クールに入り、ストーリーがインターハイという“頂上”へと向かう中で、自分の中の殻を破らなくちゃ熱さは出せないなと思いまして。このタイミングでチャレンジングなことができるのは嬉しいなと、自分にない真っ直ぐな面を言葉と音、双方に思いきり出しました。ストレートなアプローチが「冒険」って、一体どんな音楽人生を送ってきたんだって感じですよね(笑)。

ーー(笑)。今回は、本当にロードレースの世界を視覚化させる、仲間との絆や繋がりを感じさせる言葉が並んでますね。

佐伯:今回歌詞を書くに辺りレース中の部分を読んでイメージを膨らませました。そのスピード感が出ていると思います。ただ、僕は基本的に、誰かに向けてというより、マイセルフな歌詞作りが多くて。「タカイトコロ」も一見すると、すごく第三者的な目線が多分にありますけど、自分へ向けての言葉が結構あって。例えばAメロの<まだ需要がないようだ/僕の奥に潜むポテンシャルみたいなもん/それかもしくは努力が足りないね>という部分もそうなんです。11年ほど音楽活動をしてきて「なんでこんなに頑張っているのに多くの人に届かないんだ!?」という葛藤がありまして。だから苦しい現状……つまり「坂」を昇りきるためにガムシャラに踏み込むしかないという、己への叱咤激励をこめています。自分に向けて歌いつつ、『弱虫ペダル』の世界、作品を愛してくださる方にも共感できるような言葉を落としこんでいます。

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ーーそのスピード感、ガムシャラ感は歌い方にも表れています。佐伯さんは、バックボーンにブラックコンテンポラリーといったスムースかつアーバンな音楽がありますので、このようなロック的な歌い方をされるのは非常に驚きでした。

佐伯:いつもは淡々としたフロウを意識して歌っているんですけど、佐藤“jumbo”優さん(VERY GOO取締役)が、「違うアプローチをしたら?」と言ってくれて、自分なりの力強さを出そう! と挑戦してみたんですよ。そうしたらこれが難しくて! ロック的な力を込めた歌い方、声を荒げてみたりというアプローチも、人生初だから出し方がわからなくて。レコーディングはまさに「難産」でした。だから、「タカイトコロ」は、昔の僕を知っている人が聴くと、僕が歌っているってわからないかもしれませんね(笑)。でも、このトライはこのタイミングだからこそ。きっと、こういう形じゃなければ、永遠にやらなかったでしょうから。「タカイトコロ」に関しては全て新人気分で臨みました。これぞ“NEW GENERATION”(笑)。

ーー(笑)。『弱虫ペダル』を通じて、作風の新たな扉を開いたという感じですね。

佐伯:もう、痛いくらいこじ開けてもらいました(笑)。その甲斐もあって、「タカイトコロ」が完成した時の周りの反応が……予想通りだったんですけど、賛否両論でした。「カッコイイ!」と言ってくれる人もいれば、「ど、どうした?」と言う人もいて(苦笑)。その反応は正しいんです、ガラッと意識的に挑戦した曲ですから。でもそれが今、僕が成すべき音だと思った答えで、この経験が今後の作風にきっと良いものをもたらすと思っていますから。それに視野は広がったけど方向性は何も変わってない、と宣言しておきます。

ーー一方で、カップリングの「パノラマ」「たのしいよがとまらないよ」は、それこそ原点回帰と言いますか、佐伯ユウスケ節全開の、キャッチーなピアノポップスに仕上がっています。

佐伯:まさしく! この2曲は僕が昔に書いた曲で、「パノラマ」が6年前、「たのしいよがとまらないよ」が9年前の曲なんです。

ーー挑戦した楽曲のカップリングに、過去の曲を持ってくるというのは面白いアイデアですね。どういった経緯でこの2曲を選んだのですか?

佐藤“jumbo”優(以下、佐藤):ユウスケと仕事をするにあたり、一度今まで作った曲を全部送ってと頼んで、ドバッとアーカイブをもらったんです。その中で気になる曲に印を付けていって、「たのしいよがとまらないよ」も「パノラマ」も、ライブでやったら映えるなぁと思い、いずれ復活するだろうライブ活動のために選びました(笑)。

佐伯:かなり前の曲だから、きっと思うことがあるだろうなぁ……と思ってましたが、改めて録り直してもすんなりと聴けちゃいましたね。音だけでなく、歌詞に関しても一切変えてないんですよ。あぁ、俺って変わってないんだなぁと改めて気づきました(笑)。

ーー『弱虫ペダル』を通じて佐伯さんを知った方には、佐伯さんの普段の作風を知るには、もってこいの2曲ですね。

佐伯:カップリングも含めてしっかり聴いて貰えればうれしいですね。『弱虫ペダル』好きな方にもきっと刺さると思うんです。「パノラマ」なんて、冒頭から“自転車”が出てきますからねぇ。

ーーてっきりカップリングから全て『弱虫ペダル』の世界観が出た! と思ったら……。

佐伯:違うんですよね、これが(笑)。たまたまもたまたま。ちょうど「パノラマ」を作った頃、ママチャリ乗りだったので、それをイメージして作ったんです。

ーーまるで主人公の小野田坂道じゃないですか!

佐伯:再度言っておきますが一切狙っておりません!(笑)。

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