真部脩一が考える、“相対性理論”以降のポップミュージック「やり残したことがあると感じている」

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 かつて相対性理論でベーシスト兼コンポーザーを務め、現在は10人組のブルータル・オーケストラVampilliaのメンバーとしても活躍するポップマエストロ=真部脩一が、ついに“ポップス”へと舵を切り始めた。今回リアルサウンドでは、全メディア初となる真部への単独インタビュー取材が実現。あらためて真部のキャリアを振り返りつつ、彼がポップ・シーンで“やり残したこと”、相対性理論のコンセプトとその後の展開、さらには今後始めるという新プロジェクトの内容などについて、示唆に富んだ発言を聞くことができた。(編集部)

「既存のゲーム内でどう自分の誇大妄想を実現させようか、というワクワクが原動力」

――初の単独取材ということで、まずはキャリアについての質問をさせてください。そもそも真部さんが音楽を始めたきっかけとは?

真部脩一(以下:真部):幼少期の話をすると、父が音楽好きで家に楽器があるような家庭だったので、4歳から小学生の半ばぐらいまでピアノを習っていたんです。ピアノを辞めてからは全くのリスナーで、プレイヤーとして楽器を触ることはほとんどありませんでした。でも、19歳~20歳のときに、自分の映像好きが高じて、学校で出会った「進行方向別通行区分」というバンドのビデオ撮影をすることになって。その流れでギターとして参加するようになりました。

 そして、相対性理論というバンドを結成するにあたって楽器をベースに持ち替え、自主制作の音源『シフォン主義』を下北沢のハイラインレコーズに置いてもらって。思い出づくりのつもりだったのですが、たまたまお店を訪れたレコード会社の方から連絡をいただいて、プロとして活動するようになりました。

――リスナーとしてはどんな音楽を聴いていたのでしょうか。

真部:もともとはポップミュージックに興味があったわけではありませんでした。父はジャズ好きでしたが、僕は中学受験があって、あまり音楽を聴かせてもらえなかったんですよね。だから、家にあるレコードをこっそり盗み聴くだけでした。中学は山奥にある全寮制の進学校に決まって、そこで軍隊のような生活を送っていたのですが、月に一度の外出日で山を降りたときに、思い立って近くの商店街に一軒だけあるCD屋さんに入って。そこで「ロックが聴きたいんですけど、何がいいですか?」と尋ねたんです(笑)。そこで店主さんが持ってきたのがデュラン・デュランの『ウェディング・アルバム』と、クイーンの『グレイテスト・ヒッツ』だった。一時期は、この2枚ばかり聴いていました。

――ちなみに、どちらが好きだったんですか?

真部:デュラン・デュランですね。クイーンはアホな中学生には正直よくわからなかった(笑)。

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――真部さんは作編曲やプロデュースのほかに、斬新なレトリックを駆使する作詞家としても活躍してきました。この原点にあるものは?

真部:言葉に関しては、昔から技巧的なものがすごく好きでしたね。広告のコピーや映画のセリフの翻訳、古典演劇、漢詩など、レトリックのあるもの全般を好んで見ていました。

――書き手としてはどういう意識で歌詞と向き合っていますか。

真部:僕はもともと、音楽を通して個人的なメッセージを発信したり、共感を求めたりすることにあまり興味がなかったので、単純に “自分が聴きたい音楽を作りたい”という衝動と、“こういうものがあったらいいな”という欲求に基づいて制作しています。そういう意味で、自分にとっては、自分語りを特に必要とせずに言葉を乗せられるポップスが一番いい土壌でしたね。商品化、つまり市場を前提としていることも自分の興味を刺激しました。

 衝動と欲求で作ったものが均一にパッケージされ、実際に市場に出て、お金が動くというのは大きな感動ですし、売り上げの序列が生まれるのもおもしろい。そういった一連を目の当たりにして、制作するにあたり、既存のゲーム内でどう自分の誇大妄想を実現させようか、というワクワクが原動力になっています。

――現在の音楽産業が、真部さんの言う“既存のゲーム”なのだとすると、そのなかでどんなプレイをしようと考えていますか。

真部:既存のゲームを否定する、または縛りを設ける、ということではなく、あらかじめある制約の上にもうひとつ階層をつくりたいというか、チェス盤でチェッカーをやるような……同じフィールドを使って、全く違うコマやルールでゲームをしてみたいんです。言葉で説明できる枠組みの中に、言葉で説明できないパワーであったり、エネルギーみたいなものが投入されて変わっていく、という事象にとても惹かれますね。だから、そういう作品を生み出すチャンスがあればと思っています。

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