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ユーミンのメロディはなぜ美しく響くのか 現役ミュージシャンが“和音進行”を分析

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 東京を拠点に活動するバンド、トレモロイドのシンセサイザー・小林郁太氏が、人気ミュージシャンの楽曲がどのように作られているかを分析する当コラム。今回は1972年のデビュー以来数々の名曲を世に送り続け、昨年も宮崎駿監督作品『風立ちぬ』に「ひこうき雲」が主題歌として起用されるなど、日本のポップ史における「生ける伝説」と呼ぶべきシンガーソングライター、ユーミンこと松任谷由実の楽曲に迫る。(編集部)

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参考4:モーニング娘。楽曲の進化史ーーメロディとリズムを自在に操る、つんく♂の作曲法を分析

 作曲家には多かれ少なかれ、その人の型や癖があります。例えば以前このコラムで扱ったaikoさんや桑田佳祐さんの楽曲は誰が歌っても彼らの曲とわかるような特徴があります。そういう意味では、ユーミンの楽曲にはアクの強さはありません。しかしユーミンの繊細で情緒豊かな曲世界が「ユーミンにしかできない」オリジナリティを持っていることは確かです。それはどのようにして作られているのでしょうか?

 彼女の楽曲の大きな特徴のひとつは、自然体のメロディが自然に美しく聞こえるための技巧的な和音進行です。スピッツやaiko、椎名林檎井上陽水などが参加した『Queen's Fellow』のようなトリビュートアルバムで、アレンジが変わっても歌い手が変わっても楽曲の美しさが変わらないことが、メロディと和音の関係、という曲の芯の完成度が高いことを表しています。「ルージュの伝言」「14番目の月」「中央フリーウェイ」「CHINESE SOUP」など、フォーマットがある程度はっきりしているような楽曲も、ただのジャンルミュージックではなく「ユーミンの曲」として聞こえるのも、彼女の作曲技術の高さの表れです。

「やさしさに包まれたなら」の音世界

 さっそくその実例を「やさしさに包まれたなら」で見てみましょう。まさにタイトル通りの感情を聴き手に与える、いわゆるエバーグリーンな名曲です。強い情緒に訴えることなく、しかし広がりのあるドラマチックな展開を持つこの曲には、ユーミンの圧倒的な作曲技術の要素がたくさん詰まっています。まず、和音進行について最初の一節「小さい頃は神さまがいて」を解説します。原曲はF#(ファのシャープ)でわかりにくいのでC(ド)に変えて書くと下のようになっています。

| C | D | Bm7 Em7 | Am7 |
(| ド ミ ソ | レ ファ# ラ | シ レ ファ# ラ ミ ソ シ レ | ラ ド ミ ソ |)

 この4小節に対して、ベタなポップスのコード進行をつけると以下のようになります。比べて弾いてみると如何にこの曲のコード進行が美しいかよくわかりますし、ベタな進行では繊細なメロディが活かせず、曲世界の広がりが全く出ないことがわかります。

*よくあるコード進行*
| C | Dm7 | G | Am7 |
(| ド ミ ソ | レ ファ ラ ド | ソ シ レ | ラ ド ミ ソ |)

 鍵は2つ目のD(レファ#ラ)と、それに続くBm7(シレファ#ラ)です。2小節目のD(「小さいころは」の「ろは」)でフワッと伸びやかに歌が舞い上がる感覚になります。それ自体はよく使われる展開でもあるのですが、すごいのは3小節目のBm7(「神さまが」の「神」)で、コードだけで考えるとキーであるCの中では本来ものすごく違和感が出るはずなのですが、とても自然に聞こえます。これは前のコードのDの和音構成をほとんど変えずにベースだけB(シ)に移っているからです。このBm7は、前のコードDで、Cに対して全音上げて一気に展開を動かし、それに続く和音として今度はベースだけ動かすことに意味があります。コードの名前や単体の響きではなく、そのつながり方に意味がある好例です。「よくあるコード進行」の例のようにCにとって5度の関係にある安定的なG(ソシレ)にいくこともできますが、そうすると| C | D | G |というメジャーコードの3連続になり不自然に明るくなってしまいます。Bm7はマイナーコードになるので切なさや湿り気を与えています。

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