Key最新作『anemoi』は“2020年代の熱狂”を生み出せるか プロローグパーティーを見て感じたこと

2026年1月30日に発売される、株式会社ビジュアルアーツのゲームブランド「Key」の最新作『anemoi』。同作のプロローグパーティーが10月20日、秋葉原UDXシアターで行われた。
MCの松澤ネキによってイベントが進行されるなか、まずは壇上に辻倉朱比華役の平塚紗依、総羽愛乃役の長縄まりあ、淡雪陽彩役の千春、白渡小詠役の会沢紗弥、速川六花役の涼泉桜花が登場。ゲームの形式上、これまで声優同士が顔合わせすることがなく、5人はこの日初めて一堂に会したのだとか。また、5人のうち一人だけ過去のKey作品(Wright Flyer Studios × Keyによる『ヘブンバーンズレッド』のシャルロッタ・スコポフスカヤ役)に出演したことのある会沢は「今回は闇堕ちしないと思うので……」と会場の笑いを誘い、和やかな雰囲気のなかトークがスタートした。

冒頭で先日公開されたオープニングムービーが投影されたのち、キャスト陣からはオープニングテーマ「エタニクル」についての感想が語られたのだが、印象的だったのは長縄や涼泉の口から出ていた「風を感じる」ということ。まさに同作の舞台となっている真澄町は、大きな風車のある“風の吹く街”。そして牧歌的なイントロや疾走感のあるサビのいずれも切なさを帯びているのは、まさにKeyらしい音楽といえるだろう。
その後、ステージには株式会社ビジュアルアーツよりディレクターの佐雪 隼とシナリオ統括の魁が登壇。各キャラクターの紹介とあわせ、二人と担当声優が第一印象とのギャップについて語る一幕も。平塚は“口が悪い”という辻倉朱比華について「見た目は小動物のような感じで、この子がとても辛辣な言葉を言う感じには見えない。ディレクションで『もうちょっと冷たくお願いします』と言われることが多くて……」とこぼすと、魁は「特殊な作られ方をしているキャラ。ドSな部分は新島(夕)さんの仕事」と話したのち、平塚から「クソ虫」という朱比華の”ドSフレーズ”の一節を引き出した。
長縄は“自作の飛行機を作っている”という総羽愛乃について「最初の時はもう少し身長の高い子だと思っていた。実際は小さくて元気で好きなことにまっすぐな子」と話すと、魁は「結構アグレッシブでじっとしてない」と性格について明かし、佐雪はスチルの1枚を見せながら「飛行機を作っている女の子なのですが、なんで隣の席が空白なんだろうね……」と意味深なコメントを残し、会場をザワつかせた。

続いて千春は“自称偏差値8那由多”の淡雪陽彩について「“おもしれー女”だと思ったし、エキセントリックな部分もあり、幅のある感じ」とプロフィールに違わないキャラクターだったことを明かすと、佐雪は「淡雪は『anemoi』イチの問題児なので、千春さんには頑張ってもらって……」と含みを持たせる場面も。
また、会沢は町唯一の郵便屋である白渡小詠について「詐欺に引っかからないか心配なくらいピュアな子。口癖の『ぴぃ』はバリエーションをつけるのが大変だった」と話し、佐雪は「一人前になりたいという目標があり、これが彼女の願いであって呪いでもある」と語った。
最後に涼泉が演じる主人公・速川 麦の妹である速川六花について、魁が「最初に強調しますが、実妹です。義妹じゃないです」と高らかに宣言すると、同作が声優としてのデビュー作となったという涼泉は緊張しつつも「兄さん、ご立派です!」と六花のセリフを生披露。会場は大いに盛り上がった。
また、気になる本編の内容について、佐雪氏は「スローライフを謳っている」こともあり、「街中でいろんな人と関わりながら何かをすることが多い、それが作品の特徴かも」と語った。体験版のボリュームは「Key作品の中でいえば『終のステラ』より少なく、『LUNARiA -Virtualized Moonchild-』くらい」と明かされたのは、ファンにとっても想像がし易くなる貴重な情報だろう。
体験版は11月に配信されることも決定。一部の場面画像が公開されたのだが、町長&バーテンダー風の男性の存在が明かされており、「Keyでは珍しく、おじさんが何人も登場する」のだとか。ほかにもミニゲームの存在も公開されるなど、情報が盛りだくさんのパートとなった。

続く「音楽セクショントークショー」のコーナーには、佐雪と音楽プロデューサーの折戸伸治、同じく音楽担当の大橋柊平が登壇。劇伴は「45曲前後」であり、作風は「アコースティック編成や落ち着いたものが多い」ことが折戸の口から明かされた。また、各キャラクターのテーマについても公開されたのだが、折戸のいうようにアコースティックな楽器にフォーカスがあたりつつ、風を感じさせる木管楽器の音色や、北国の音楽であるアイリッシュ~ケルト音楽的なスケールや進行が用いられていたり、大橋の手がけた淡雪のテーマではEDMっぽいサウンドが取り入れられているなど、どこか緯度でいえば北の方、具体的にいえばヨーロッパ~北欧的なサウンドの質感を強く感じた。
後半では「エタニクル」のボーカルを担当するASCAからの映像コメントと共に楽曲が19日より先行配信されることが知らされたほか、折戸から挿入歌は「結構多い」ことや、さらなる挿入歌の歌い手として大原ゆい子の参加が明かされた。
そして三人が降壇したあと、壇上にはサプライズでエンディングテーマの存在が明かされ、towana(fhána)が歌い始めるとともに、そのタイトルが「goldenfield」であること、作曲を大橋が、編曲をfhánaが担当していることが明かされた。実際の楽曲はfhánaのディスコグラフィーにないようなメロディーワークやテイストのものに仕上がっているものの、インタールードやサビ付近でのカットアップ風のアレンジメントなど、随所にはfhánaらしさも覗かせている1曲であり、複雑なボーカルワークをtowanaが何なく歌いこなしていることにも、改めて同バンドの凄さを感じた。

披露後はfhánaの3名がステージへ登壇し、kevin mitsunagaは「そもそもfhánaというバンドの成り立ちにKey作品が深く関わっているので、この場に立たせていただいて感無量です。『anemoi』もめちゃくちゃプレイします」と意気込みを語ったあと、佐藤純一は「fhánaとしてメンバーが作曲していない楽曲でKey作品に携わるのは初めてなんですけど、ビジュアルアーツ作品の大ファンとしてお受けさせていただいた。デモが上がってきたとき、Bメロの淡々としたリフレインなどにKeyの世界観を感じて楽しかった」とコメントした。
イベントの最後には当日の各出演者から一言ずつ締めくくりのコメントがあり、キャスト陣が共謀して「北海道に行きた~い!」とおねだりをする様子も印象的だったが、特に胸を打ったのは佐雪の言葉だった。
佐雪は自身のことを「Keyが好きすぎてこじらせている」と前置きしつつ、クリエイターとして上の世代、下の世代へ思うことを明かし、そのうえで「Keyはもう25年の歴史があって、当然2000年代のあの熱気をリアルタイムで浴びることはできない。今のコンテンツが伝播する大きな要因はライブ性や同時性が大事と言われるけれど、ビジュアルノベルはそれがどうしてもやりづらいコンテンツでもある」と2025年現在のシーンについて語り始めた。
そして今春の『Summer Pockets』のアニメを引き合いに出し「『サマポケ』のアニメは毎回トレンド入りして、熱を作ってくれた。我々に2000年代の熱は分からないけど、2020年代の熱は今ここから作ることができるじゃないですか。だからみなさんには、是非共犯者になって『anemoi』というコンテンツを一緒に盛り上げてくださるととても嬉しいです」と熱いコメントを残した。
佐雪が言うように、ビジュアルノベルと現代の拡散方法は決して好相性とはいえない。だが、インディーゲームの隆盛や先述したサマポケのアニメ化などもあってか、配信の有無に関わらずノベルゲームに対するシーンの熱がここ数年徐々に高まっていると感じるのは筆者だけだろうか。
もしかすると『anemoi』の発売は、その熱がよりわかりやすい形で表出する大きなトリガーになるかもしれない、とこの日のイベントを見て思った。11月の体験版で、その予感が確信に変わることを願いたい。





























