笹川真生が語る、創作と音楽機材への“柔軟な向き合い方” 「何を使うかじゃなくて、何を作るかでしかない」

笹川真生が語る、創作と音楽機材

『神椿市建設中。』とバーチャルシンガーという存在

TVアニメ『神椿市建設中。』ノンクレジットOP映像|V.W.P「歌姫」

――TVアニメ『神椿市建設中。』のOPとしてV.W.Pの新曲「歌姫」がオンエアされました。笹川さんとも関わりの深いKAMITSUBAKI STUDIOの、ある種集大成的な作品の主題歌ということになりますが、どのような経緯でオファーがあったんでしょう。

笹川:統括プロデューサーのPIEDPIPERさんから「ぜひ真生くんに」と言われたのが1年半ぐらい前ですね。『STRANGE POP』は2024年の11月から作り始めてるので、時系列的にはそれより前です。

――アニメの視聴前にストーリーを小説で予習したんですけど、主人公にとって大切な人が冒頭から命を落としたり、かなりシリアスな世界観で。そうしたらすごく軽快な曲がOPに来て驚いたんです。曲調に関しては、笹川さん発信のアプローチなんですか?

笹川:そうですね。常々自分が目指したいと思っている音楽のイメージとして、「明るいんだけど、死の匂いがある」みたいなものがあるんです。スピッツの曲なんかにもそれを感じるんですけど。以前V.W.Pに提供した「飛翔」という楽曲があって、トニックコードから始まるし、明るい印象があるんだけど、なんか切ないみたいなところを、プロデューサーがいたく気に入ってくれて。今回はいわば「飛翔2」を作ってくれみたいなオファーだったんですよね。

 その上で、これが世の中に出るのは1年半後ぐらいだというのはわかってたので、自分がその時に飽きないような曲にしようと思いました。1年半経っても、自分で聴いてわからないようなコード進行にしようと思って。だから、結構めちゃくちゃなことをやってます(笑)。実際、あの曲の理論的な説明はできないんですよ。でも当時はわかってた。そういう意味では自分の中で成功したなと思ってます。

――やっぱり5人もいると、ボーカルのディレクションをするのも難しかったりするのかなと思うのですが。

笹川:実はV.W.Pではディレクションはしてなくて。個別で録ったデータを送ってもらって、オケと合わせる形なんですよね。で、届いたボーカル音源を聴くと、やっぱりズレてるんですよ。関わり始めた当初は気になっていたんですけど、最近は、それを個性と捉えようという気持ちになってきて。場合によっては、ズレてても気にならないアレンジにその時点で変えることもあります。たとえばドラムがガシャガシャしてたら、1人ズレてようが気にならないじゃないですか。それが熱として捉えられるかもしれないし。今は何が来るのかわからないから楽しいと思ってやってます。

V.W.P

――バーチャルシンガーという存在について、それこそV.W.Pのメンバーは今、アニメにそのままの姿で出演しているわけですが、リスナー側の視線みたいなものって意識しますか? 「バーチャルシンガーだからこそ、音楽的にもこういうアプローチをしたほうがいいんじゃないか」とか。

笹川:それはまったくないんですよね。私は本人たちと会話もしますし、別に生身の人に提供するのと相違ないんです。そもそもどのお仕事でも、「こういうものだからこうしよう」ということはなるべく思わないようにしていて。理芽やV.W.Pに関しても、聴くお客さんがバーチャルのファンだからオルタナはやめとこうとか、シューゲイザーはわかんないだろうとか、音が歪んでたら怖いかなとか、そういうことは思わなくて。

 むしろ最近は、バーチャルシンガーという、よくわからないものを聴いている人たちのほうが、柔軟に未知の音楽にも対応するんじゃないかと思うんですよね。逆に「バーチャルシンガーって何?」って思っている人たちに対しては、「そんな身構えなくていいよ」「マジでただのアーティストだと思って聴けばいいよ」って思うし。ライブの演出がどうだとか、3Dモデルがどうだっていうのは、もちろんそれはそれで議論される部分ではあると思うんですけど。現状、音楽性のところでバーチャルだからこうあるべきっていう、ビコーズはないなと思ってて。

 そういう意味でも、カルチャー的にボーカロイドに近いのかなと感じます。今日本の音楽でどこが面白いですかって聞かれたら、ずっとボーカロイドって答えてますし。YouTubeやニコニコ動画とかで、若手の子の曲を聴いたりすると、刺激しかない。次から次へと、「なんじゃこりゃ!?」みたいな波が押し寄せてくる。で、それを支持している若い子たちがたくさんいるっていう……「今が一番面白い」というのを更新し続けていて、バーチャルシンガーというのは、そんなボーカロイドのシーンと親戚というか、ルーツが近いところもあると思うので。

「カルチャー」としての音楽と芸術性

笹川真生 3rd Album『STRANGE POP』

――『STRANGE POP』の資料に「ハイパーポップ」という言葉が使われてますけど、今のバーチャルの話と同じで、こういう音楽のジャンルに関しても思うところがあるんじゃないのかなと思ったんですが。

笹川:もちろん自分も人間なので、新しい音楽を掘る時に便利だと感じることはありますけど、名前をつけることで失われるものもあるんじゃないかとは思ってますね。

 たとえばクラシック、ロック、ジャズ、フュージョンみたいな、もう当たり前に定着したようなジャンルは共通言語としてあっていいと思うんですけど、これだけ音楽が飽和して、誰でもDTMをしてる……というのは言いすぎですけど、それが可能になっている状況の中で、いろんなパッチワークの曲が出ていくわけじゃないですか。名前が付いちゃって体系化されちゃったら、それは「ハイパー」な「ポップ」とは言いがたい。ジャンルではなく、あくまでカルチャーとして認めてあげるべきじゃないかなと。

笹川真生 - 不細工 / Mao Sasagawa - First Bite

――こんなに変な音を出すのも「アリ」なんだ、といったような、新しい基準を認め合うカルチャーが生まれていることが大事だということですね。

笹川:そうですね。たとえばヴェイパーウェイヴだって、名前がつかなかったら謎のカルチャーとして残ってたかもしれない。今ヴェイパーウェイヴと言った時に、カメラアプリのフィルターみたいなものになっちゃってると思うんですよ。勉強するのに最適なBGMという意味で「ローファイ・ヒップホップ」という言葉が使われたりするのも同じだと思う。つまり機能性だけが重視されているってことで、自分は音楽になるべくそういう風になってほしくないんです。

 そういう意味でボカロのシーンは対極で、「こうあるべき」みたいな常識をいろいろ取っ払って、若いクリエイターが同世代の「それいいな」っていう技を盗み合って、どんどんどんどん違法建築みたいな“新しくて怖いもの”ができていってる。その怖いものをリスナーも楽しんでいて、素晴らしいなと思ってます。

――過去のインタビューで「音楽には芸術性を残していきたい」とお話しされていましたが、今もその思いはありますか?

笹原:ありますね。今は特に、AIが作る音楽のクオリティがかなり高くなっていて、それこそチルMixのような耳なじみのいいBGMは、もう人間が作らなくてもよくなってきている。

 自分はAIに対して懐疑的ではないんです。モノマネし、学習し、アウトプットするというプロセス自体は、私たちが日々やっていることと同じですよね。そもそも細胞レベルで見れば毎日入れ替わっているし、「自分らしさ」だと思っているものも、実際にはいろんなメディアからの影響を受けたパッチワークでしかない。

 だから、「芸術性=自分らしさ」とは必ずしも言えないんですが、それでもそういうものはずっと大事だと思っています。こういう時代だからこそ、「この人に頼みたい」と思ってもらえる理由を、制作者自身が持っていなきゃいけないと思うんですよね。

――やる気さえあればみんな音楽が作れるようになって、マニュアルやツールも豊富な時代だからこそ、何から始めればいいのか身構えてしまう人もいると思うんです。今日のお話を聞いて、笹川さんからこれから音楽を作りたい人に向けたお話をお聞きしたいなと思いました。

笹川:なるほど。ちょっと回り道になるかもしれないんですけど……このあいだSNSで「高校に入学したお祝いでカメラを買ってもらいました」という投稿に対して、カメラ玄人みたいな人たちが「そんなのでいい作品なんて撮れねーよ」みたいなことを寄ってたかって言ってるのを見て、すごくいやな気持ちになったんですよ。それもあって、最近のライブでYAMAHAのPACIFICAというギターを使ったんです。

YAMAHA Pacifica611VFM TBL

 初心者向けのモデルとして、『ぼっち・ざ・ろっく!』の主人公が使ってることでも有名なんですけど。曲がりなりにもプロですし、自分を見て音楽をやりたいと思ってくれる人もいるかもしれない。そういう人たちに勇気を与えたいと思って。結局は何を使うかじゃなくて、何を作るかでしかない。本当に何でもいいんだぞと。SNSでも特に発信はしなかったので、そういうメッセージがあったんだとこの場を借りて言わせてください(笑)。

 とはいえ、何を選んだらいいか迷ってしまうということはあると思うので、そういう場合は自分の好きなミュージシャンの真似をすればいいと思います。たとえば私のファンだったら、『Studio One』なり、『Ableton』なりを使えばいいと思うし。

 あと、「1曲完成させるのが大事」という話がよくあると思うんですけど、そのために「ある程度のところで切り上げる」ことが大事だってことも伝えたいです。たとえばボーカル録音の際、自分が歌う時でも、ディレクションする時でも、3回以上は録らないようにしてて。「そこをこだわるのがプロじゃないの?」という意見もあるかもしれませんけど、私は3回以上録って詰めても、自己満足の領域になってしまって、最終的にリスナーには違いがわからないんじゃないかと思うんですよね。何より、そこに時間を費やすくらいだったら、その曲は早く終わらせて、新しい曲を作ったほうがリスナーにとっても幸福だと思うんです。

 だから、DTMを始めたいと思ったら、今作ってる曲を10時間頑張るより、それを2時間で切り上げて、10時間で5曲作ったほうが君の曲はよくなるよってことを伝えたいです。始めたことを終わらせるって勇気がいることなんですけど、かっこいい曲を作りたいのなら、スパッとその曲を切り上げるのが大事ですね。

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