連載「音楽機材とテクノロジー」第11回:starRo
starRoが語る、最小限の機材でアウトプットを最大化する“二元的創作論”
音楽家の経歴やターニングポイントなどを使用機材や制作した楽曲とともに振り返る連載「音楽機材とテクノロジー」。第11回は第59回グラミー賞の最優秀リミックス・レコーディングにノミネートされた経歴を持つ音楽プロデューサー・starRoが登場。
彼は2019年に拠点としていたロサンゼルスを離れ、東京に活動の軸を移した。しかし、ほどなくして訪れたコロナ禍。それを機に新たなスタジオを郊外に構えたという。ここには多くの楽器や機材がある訳ではない。過去の移動の回数を考えれば、それも頷けるが、今は特別にミニマムな状態なのだという。
あのクールな音像が少ない手持ちのなかで生み出されていることが驚きだ。そしてキャリアのなかで一貫している「シンセサイザー×ラップトップ」というスタイルも気になるところ。所有しない境地に至った彼だからこその機材や技術に対する考え方に迫りたい。(小池直也)
ーーシンプルなスタジオですね。
starRo:東京の中心に近い場所から、2年ほど前に引っ越してきました。きっかけはコロナ禍ですね。DJも制作仕事もピタッと止まって収入的も厳しく、都心にいる理由もなかったので外れの方に出たんです。今の場所は以前と間取りは似ていますが、一軒家で日光が入るし、チルな雰囲気。これが音響よりもバイブス重視な僕には合っていたんですよ。生活費を下げるためでしたが、実際に住んでみると経済以上のメリットがありました。
ーー見える限りですと、機材も多くない印象です。
starRo:そうですね。日本に帰ってきた時から変わってません。アメリカでの13年に渡る生活で集まった機材は、フェンダーローズも含めて全部置いてきました。そういえば、アメリカから日本に来るのも生活費を下げるためでしたね。LAは世界でも家賃が高い場所ですから、音楽を続けるとなると稼ぐための音楽制作になるんですよ。それが嫌で。
当初は往復するイメージだったんですけどね。コロナ禍になってしまって、結局戻れず、楽器は知り合いが持って行ってしまったと思います(笑)。大事にしていないという訳でなく、物に執着がないんですよ。日本国内でも移動が前提のライフスタイルだったので、たくさん楽器を持っているのは現実的じゃないし、帰国する時もPCとスピーカー、ギター関係を4つくらいのスーツケースで2往復しただけです。
いま使っているスピーカー『YAMAHA HS8』は安くてコスパがいいし、使っている人も多いですよね。マイクは『Townsend Labs Sphere L22』。あとはシンセは、microKORGなどライブで使うものばかりで制作には使っていません。
ギターはフェンダーのストラトキャスターです。最近はギターで作る曲が多くなってきたので、買っちゃいました。日本で新規購入した楽器はこれ1本くらいです。