BIGYUKIに聞く、"スパーク"する音楽の作り方 審美耳を養い、機材と向き合うことで「想像しえない場所に連れて行ってくれる」

BIGYUKI、スパークする音楽の作り方

 音楽家の経歴やターニングポイントなどを使用機材や制作した楽曲とともに振り返る連載「音楽機材とテクノロジー」。第13回はニューヨークを中心に活動し、自身の音楽だけでなく、ア・トライブ・コールド・クエストやJ・コール、Awichなど国内外のアーティストとのコラボレーションでも注目を集めてきたBIGYUKIが登場。

 3月にはバンドセットによる日本ツアーも決定し、いまやキーボード奏者としてシーンを代表する存在だが、意外なことにアメリカ留学まではピアノしか弾いたことがなかったという。そしてオルガンとシンセベースに出会って開眼、自分自身と音色をめぐる飽くなき探求が始まった。

 近年ではルーパーやリズムマシンを導入してソロパフォーマンスに挑むなど、さらなる地平を切り開いているが、どんな機材がこれまで彼のスタイルを彩ってきたのかは気になるところ。知られざるBIGYUKIと機材との関係を紐解くべく、本人に話を聞いた。

――やはり、最初に触れた機材はアップライトピアノですか。

BIGYUKI:「テック」といえばそうなりますね。クラシックで音楽を始めたので、コンクールなどに出ると現場毎に演奏するピアノが変わるじゃないですか。子どもながらにですが、触った瞬間にピアノの特性を察知していたと思います。上手く調整されているピアノや楽器を弾くと持っている能力が拡張される感覚があって「それにアダプトしなきゃ」と。

――では、初めて触れた電子楽器は?

BIGYUKI:アメリカ・バークリー音楽大学の練習室にあったHammond B-3です。留学当初は知見も興味も、クラシック以外の人と演奏する経験さえもありませんでした。自分の体にしっかりしたリズムのパルスやコンセプトもなくて、他人とプレイできなかったんです。特に人気者のベーシストに対しては「自分みたいな中途半端な奴が一緒に演奏してもらうのはおこがましい」と思っていて。

 だったら自分でベースをやろうと、左手でオスティナート(ベースラインのループ)を弾きながら、右手でメロディなどを弾いてみたり。あとは感覚を掴むために練習中のピアニストの人たちを訪ねて連弾させてもらったり。めちゃめちゃ鬱陶しかったと思いますけど(笑)、そういう図々しさはあったんです。

――YUKIさんの持ち味であるベースラインの原点ですね。

BIGYUKI:そうです。それからリズムとハーモニーを支配する「ベース」への興味が増してきて。左手でベースを弾きながら演奏する方法を探して、ジミー・スミスやドクター・ロニー・スミス、ラリー・ヤングらのオルガン奏者の作品を聴き始めました。特にメイシオ・パーカー『Life on Planet Groove』収録の「Soul Power'92」で弾いている、ラリー・ゴールディングスがカッコよくて「これがやりてぇな!」と。

BIGYUKI

 いま振り返ると、一緒にバンドをやっていたドラマーのお父さんが僕にKORG『Synthe-Bass SB-100』を譲ってくれたのも大きかったですね。ベロシティがないので慣れるのに時間がかかりましたが、存在感のある独特な音色に魅了されて今でも愛用しています。もはや自分の一部だなと感じるくらい。ピアノ以外の音色に興味が湧いてきたのは、オルガンとシンセベースとの出会いがきっかけなんです。

――留学した2000年当時は、どんな音楽を演奏されていたのですか。

BIGYUKI:当時流行っていたSouliveが僕の青春ですね。あのオルガンサウンドのレアグルーヴ・リバイバルがみんな大好きで、特にギタリストはオルガンと演奏したがっていました。だからオルガンを弾き始めた途端に人気者ですよ(笑)。まだゴスペルオルガンもヒップホップも知りませんでしたが「オルガンが俺の進む道なのかな」と。そこからいまの音楽性にダイレクトに繋がる布石が見えてきましたね。

 ほかに思い出に残っているのは、学校の友人たちとのストリートライブ。『Synthe-Bass SB-100』とKORG『CX-3』、キーボードスタンド、発電機をキャリーなしで運んでいました(笑)。高級ショッピング街・ニューベリー通りだったら、レストランが「ご飯と電気を出すから店の前で演奏してくれない?」と言ってくれるんです。向こうからすれば、タダで雇える客寄せパンダなんでしょうけどね。お互い利用し合っていた感じです。いいお小遣いになりました。

BIGYUKIと機材たち

――気合ですね(笑)。自分のスタイルが確立されていくなかで、ほかに思い入れ深い機材はありますか。

BIGYUKI:ヤマハ『MOTIF ES7』ですね。あれも青春。初代MOTIFもよかったのですが「ES7」は当時、圧倒的に音がいいと評判で自分も買いました。「ストリングスのパッチがこんなに良い音を出すのか……」と感動したのを覚えています。あとは自分が同世代で憧れていたDavy Nathanが、それを使ってカッコいい演奏をしていたんですよ。

 ジョー・ザヴィヌルやチック・コリアがもしヒップホップやR&Bを演奏していたら、というようなプレイ。そのときは伝統的なスウィング・ジャズを自分が演奏しても嘘くさいと感じた時期でもあって、彼が僕にキーボードのカッコよさの確固たるイメージを植え付けてくれた気がします。

 ひとりひとりがソロで魅せるよりも、集団でインプロヴィゼーションしていく、70年代のエレクトリック・マイルスのようなスタイルが僕は好きなんです。音楽がシーンチェンジする瞬間にどれだけ美味しいネタや音色、フレージング、リズムのアイデアを出して周りを巻き込めるか。しかも事前にストックしたものではなく、その場で起きたことからインスパイアされたもので。それが僕にとってのジャズであり、インプロヴィゼーションであり、ヒップホップなんです。

――なるほど。

BIGYUKI:あと、ニューヨークやボストンのシーンで自分の存在を異質なものにできたのはClavia『Nord Lead2』のおかげじゃないですかね。あのUIは、音色を演奏中のリアルタイムで変えていくアプローチに最適でした。それも先ほどのDavyがライブハウス「ウォーリーズ・カフェ」でプレイしていたのを真似したんですよ。

 彼は即興でRoland「Juno 106」でアルペジオをしながら、「ES7」でパッドを弾き、「NORD LEAD2」も駆使して2重・3重のレイヤーを作り出してました。それに触発されたバンドによってアンサンブルが広がっていく様がもう、めちゃくちゃ神懸かっていて。さらにそのバックで鳴っているジャズのダイナミクスと緊張感を保ちつつ、超ファンキーなビート。あの音楽体験の衝撃はもう同じレベルでは得られないと思います。

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