連載「音楽機材とテクノロジー」第10回:NSDOS
NSDOSに聞くインスピレーションの源 DIY的アプローチから生まれた"機材のハッキング"という手法
音楽家の経歴やターニングポイントなどを使用機材や制作した楽曲とともに振り返る連載「音楽機材とテクノロジー」。第10回は2022年12月に都内にて開催された電子音楽とデジタルアートの祭典『MUTEK.JP 2022』出演のために来日したフランス出身のトラックメーカー/プロデューサーとして活躍しているNSDOSが登場。
既存の音楽制作機材だけでなく、古いサウンドカード、エミュレーター、あるいは金属を溶接して作ったものを使い、自分だけの固有の媒体を作り出すほか、センサー、インタラクティブ端末やクリエイティブコーディングのプログラムを使用するなどテクノロジー系のツールをあえて歪曲した形で使用することで、機械と物質の間に新たなつながりを生み出しているこNSDOS。そのような活動スタンスから本国メディアからは「テクノ界のハッカー」と称されるNSDOSに音楽制作のルーツから、いまお気に入りの機材とプラグイン、そして、テクノロジーとの向き合い方などについて、じっくりと語ってもらった。(Jun Fukunaga)
ーーアーティストだけでなく、ダンサーとしてのキャリアも持っているが、音楽制作を始めたきっかけは?
NSDOS:元々はダンスから始めたっていうことが自分の中ですごく大きいんだ。ダンスをやっていたと同時にバレエの経験もあったから、ただダンスしてるだけだと自分の中でもったいないというか...。それにいろいろなことに興味があったし、音楽に対してそのアプローチを始めたことで、今のNSDOSとしてのアーティスト性が確立できたと思うね。
ーーダンスと関連したことで言えば、モーションセンサーを使った音楽制作にも取り組まれていますね。
NSDOS:それに関しては、まず父親がエンジニアだったこともあって、子どものころからガジェットとか、テクノロジーに触れる機会が多かったんだよ。その影響もあって、いろいろな機械のことが基本的にすごく気になるんだよね。
とはいえ、子どものころは機械の基板をいじったり直したりするだけで、なにかを自分で作ってみるという発想はなかったんだ。でも、成長していくうちに段々自分でも機械を作っていくことに興味を持ち出すようになってきたという感じだね。そういうこともあって、モーションセンサーを使って音楽制作するようになったんだ。
それと大抵のアーティストは音楽制作やライブをするときに、いろいろな機材のノブやフェーダーを使って機材を操作すると思うけど、それだと身体の動きはどうしても単調になりがちだ。そうなってしまうとメカニックな動きしか再現できないというか、僕の中ではそれがすごく制限に思えてしまって……。でも、モーションセンサーを使うことによって、自分の身体の動きをより細かく表現に反映させられるし、そこでなにが起こっているかをオーディエンスに対して、より提示しやすくなると思ったんだ。
ーーそうした「テクノロジーを使って音楽を作る」というアプローチの魅力はどのようなところにあるのでしょうか?
NSDOS:色々あるんだけど、たとえば、モーションセンサーを使うことに関しても、そこに至るまでには、いくつかの段階があったんだ。最初はゲーム機のジャイロセンサーに触れたことで、これは音楽制作にも使えるんじゃないかと思って、ゲーム機のコントローラーを分解することから始めたんだよ。それで「これはこういうふうに使えるんだな」とか、そういうことが段々わかってきた。
だから、子どものころのバックグラウンドも大きかったというか、自分の中で「テクノロジーと人間の対話」は大きな関心事だったんだよ。だから、テクノロジーを駆使するといっても、別に自分の身体を改造してサイボーグになるということではなく、身の回りにあるガジェット、あるいはテクノロジーと人間が対話することを重要視しているんだ。だから、モーションセンサーを音楽制作に取り入れているのもその一環という感じだね。
ーー音楽制作ソフトだけでなく、古いサウンドカードをカスタマイズした楽器やゲームボーイのエミュレーター、金属を溶接して作ったものなども音楽制作に取り入れていますね。このような方法を取り入れている理由を教えてください。
NSDOS:そもそも僕のDIY精神というのは、日本のノイズアーティストから影響を受けていて、彼らからは「既存の良い音楽機材を使わなくても、DIY機材や古いガジェットでも自分が求めている音は作れる」ということを学んだよ。そのことは僕の音楽制作の基礎の部分になっているし、彼らから受けた影響のおかげで僕の中にもそういう概念が出来上がったんだ。
たしかにこういうアプローチで音楽を作るのは音楽制作ソフトだけを使うよりも手間がかかると思う。ただ、そういったDIY的なものも僕にとっては音楽制作のインスピレーションを与えてくれるものなんだ。
ーー2021年のアルバム『Micro Club』はパンデミック下のロックダウン時にクラブに行けないことにインスパイアされたとのことですが、そういった状況からどんな影響を受けたのでしょうか?
NSDOS: まず、パンデミックという状況は僕にとっては興味深いものだったよ。なぜなら“パンデミック”というものは、ほぼ世界の終わりに近いものだと思ったし、それでもし世界が終わるのであれば、なにか新しいものを作った方がいいんじゃないか。そんな風に考えたんだ。
それと同時にロックダウンになってから考えたのは、以前は普通にクラブに行くことができたという懐かしさだね。それで、クラブでいつもどんなことをやっているのか考えた結果、友人たちとVRで簡易的なクラブを作ることにしたんだ。そういった新しいことに挑戦できたのは自分の中では良かったことだね。あとパンデミックになったことで、1度じっくり自己について考えることができたし、それによって自分をリセットすることができたよ。そのおかげで何度でも作ってみようという気持ちになれたことも大きかった。そう考えると、パンデミックは僕にとってすごくプラスになったと言えるね。
ーー先程、VRを作ったという話が出ましたがそのような状況下でも、テクノロジーはNSDOSさんの創作の支えになったということでしょうか?
NSDOS:そうだね。その話で言えば、日本のアニメ『AKIRA』とか『攻殻機動隊』が描くサイバーパンクの世界観は、僕が音楽を作る上で役立ったと思うよ。それとパンデミックになったことによって、テクノロジーの展開の仕方というか、実際にあるテクノロジーでなにができるのかということや、それがある状態・ない状態を考えたり、テクノロジーを使うというアプローチに対してすごく考えさせられたね。
ーー「BOTANIC GARDEN」のMVなど、これまで音楽とともに映像や画像を活用したハイブリッドな表現に取り組んでいますよね。そういった形の表現に取り組む目的を教えてもらえますか?
NSDOS:音とビジュアルを使った表現に取り組む目的は、いろいろな角度や尺度のほか、場所なども含めての見せ方だったり、それらを全部見せる事で自分の表現のコンセプトをオーディエンスに理解してもらいたいんだ。
僕としても自分の作品は全部見せたいし、どうすればオーディエンスが自分が表現するいろいろなものにアクセスできるかということを考えた結果、音とビジュアルを使うハイブリッドな表現に行き着いたということ。