連載:クリエイティブの方舟(第一回)
「動画クリエイターの裏方の地位を上げたい」水溜りボンド・カンタとArks・田口拓朗が語る“YouTubeに捧げた10年”
カンタが“盟友”を社長に指名した理由
カンタ:やっぱり、動画クリエイターの裏方って名前のない仕事じゃん。拓朗は俺と10年一緒にやってきてくれたわけだけど、その先になにがあるんだ? って考えることとかもあって。
田口:そんなこと、考えてたんだ。
カンタ:うん。それで、なんかすごい奴になってほしいなって思ったんだよね。
田口:なんかすごい奴?
カンタ:だって、こんなに熱量持ってやってくれる人いないと思うもん。それこそ、俺が100キロマラソンを走るときも、GoProの充電をしてくれてたでしょ? 充電をするために、近くのファミレスで徹夜してたって聞いたとき、びっくりした。だから、俺にとってはすごい恩があるの。会社を立ち上げるときに、拓朗が社長になるのは自然な流れだった。
田口:周りからは、「友達と会社を立ち上げるって大丈夫なの?」って心配されたりもしたけど、俺はカンタの性格を知ってるから、絶対に大丈夫だって思えたんだよね。無理やりブログを書かせてもらいながら、ここまで成長させてもらってきたわけだから(笑)。
カンタ:言い方!(笑)
田口:一昨年の末かな? 会社の立ち上げを聞かされたときは、自分自身に価値をつけないといけないなと思っていたタイミングでもあったんだよね。
カンタ:俺も正直、裏方の収益を水溜りボンドの収益だけでまかなっていくのには限界があると思ってて。ライフステージが変わっていくごとに、果たすべき責任も増えていくと思うから、年齢とともにみんなの給料を上げてあげたい。でも、動画クリエイターとしての活動だけでは、約束してあげることはできない。たとえば、「炎上したから給料払えないわ」とか、10年もついてきてくれたメンバーにしたくないし。
田口:カンタは責任感が強いから。
カンタ:それが、俺のなかで、重荷になっていた部分もあったのかもしれない。たとえば、案件とかも、「よく分からないけど、みんなのために受けとくか!」とか思うようになっちゃって。
田口:それは、ダメだね。
カンタ:でしょ? インフルエンサーとしても、健全ではないなって思ったの。そもそも、拓朗もそのほかのメンバーもそんなことは求めていないし。だから、会社を設立して、「みんな、出航だ!」って。
YouTubeが天職だったからこその“弊害”
カンタ:昨年の年始にArksのメンバーに、叶えたい目標をプレゼンしたよね。
田口:うん。2時間くらいかな。スライド7枚くらい作ってくれて。
カンタ:そしたら、昨年の目標は見事に達成できた……っていうか、1年先くらいまではできちゃったんじゃない?
田口:そうだね。最近はカンタが紹介してくれたわけじゃない人からの依頼もくるようになったし。そのおかげで、みんなそれぞれ自覚が出てきたなって思ってる。
カンタ:テニスにたとえるとしたら、いままでは俺がプレイヤーで、みんなは玉出しをしてくれてた感じなんだけど、会社を立ち上げてからはみんながプレイヤーになったなって思う。みんなで汗をかいている感じがいいよね。
田口:みんながブログを書いてる感じ(笑)。
カンタ:そうそう(笑)。なんか、みんなでカッコいい大人になっていけてるのが、すごくうれしい。
田口:ただ、いまはまだ“水溜りボンドのカンタ”が信用されていることによって、成り立っている会社だと思っている。だから、提供するサービスも、しっかり信頼されなきゃいけないなって。むやみやたらに大きくするというよりは、じっくり時間をかけて、大きくしていきたいんだよね。
カンタ:そうそう。俺も1年や2年で大きくしようとは思ってない。だから、オフィスも……。
田口:オフィスはもっと大きくした方がいい! パンパンだから(笑)。
カンタ:俺の性格上、最初から大きなオフィスを借りるのが怖かったんだよ。粛々と朝練をして、夜練して、大会で結果を出しても喜ばずにすぐに帰って、トレーニングをするぞ! みたいな。そんな生き方をしてきたから。
田口:カンタイズムね。
カンタ:ただ実はみんなを見てて、考えが大きく変わったことがあって。これまでは「絶対にバズらせます」って言葉を信じてなかったの。10年も動画クリエイターをやってたら、絶対にバズるなんて無理だってことが分かってたから。
田口:まあ、そうだね。
カンタ:でも、絶対にバズるのは無理だけど、確率を上げることはできるんだなって思うようになってきた。
田口:たしかに、俺もそこを目指して頑張っていきたいと思ってる。
カンタ:そういえば、毎日投稿をしていたころとかはさ、毎日会ってるのにプライベートの話とか一切しなかったじゃん。
田口:カンタの口から、YouTube以外の話が出てこなかった(笑)。
カンタ:つい2年くらい前まで、YouTubeの話ってみんな楽しいもんだと思ってたんだよ。だって、俺がこんなに楽しいし、24時間ずっと聞きたいでしょ? って。
田口:まったく(笑)。
カンタ:でも、最近違うんだって気づいたの。人のことを考えられるようになりました(笑)。
田口:カンタはストイックなんだよね。しかも、YouTubeが大好きじゃん。まさに、天職だったんだと思う。
「動画クリエイターの裏方の価値を上げていきたい」
カンタ:拓朗はこれから会社をどうしていきたい?
田口:公式サイトにも記載してあるけど、やっぱり社会貢献はしていきたいと思う。会社がいまよりもっと成長して、余力ができたらになってしまうかもしれないけど。SNSには、社会を動かす力があると思うんだよね。たとえば、出来の悪かった野菜を売るために、SNSでプロモーションをしてみたり。
カンタ:たしかに。特に俺たちは、SNSの力を感じてきたもんね。
田口:あとは、動画クリエイターの裏方の価値を上げていきたいと思う。やっぱり、大規模のチャンネルになってくると、みんな俺みたいな裏方がついていると思うんだよね。その人たちにとっての道標にもなりたいな。
カンタ:それは、俺も思ってる。動画クリエイターは裏方の仕事に支えられている部分が大きいから。
田口:ところでカンタ、アメリカはいつ行くの?(笑)
カンタ:言ってるだけになってるよね(笑)。
田口:本当だよ!
カンタ:30代って、長いじゃん。次、どこを目指して走るかで、大きく変わると思うんだよ。
田口:たしかにね。
カンタ:手前の方で目標を立ててたら、そこで止まっちゃうだろうし。ただ、バズらせ続けないとやばいとか、そういう時代ではなくなってきてるんじゃないかと思ってる。だから、海外に行ってもいいじゃん! って気持ちになるかもしれない。実際、俺がYouTubeを始めたころよりも、動画クリエイターが有名になりづらくなっているじゃん?
田口:俺もそれは感じてる。
カンタ:ショート動画が流行している影響もあると思うんだよね。初期のころは10分の動画がデフォだったのに、ショート動画って1分でしょ? 1組の動画クリエイターを知る時間で、10組を知れる時代になってる。“推し”と言われる人が10倍に増えているとも考えられるから、競争率が上がるのは当たり前だと思う。
田口:たしかにね。
カンタ:僕と同じ焦りを10倍の人が感じるようになっているから。10年間も動画クリエイターをやってきた身として、悩んでいる若手には手を差し伸べてあげたいし、理想像であり続けたいなと思ってる。
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10年間「映像とプラットフォーム」に向き合い続けた水溜りボンド・カンタならではのスタンスや、映像制作会社を設立した背景、“You…