『VRChat』旋風と、去就が続いたVTuber業界――激動の2024年のバーチャル業界を振り返る

“激動の2024年” バーチャル業界振り返り

 2024年も、バーチャル業界には様々な出来事が起きた。とりわけ今年は『VRChat』の躍進が熱く、VTuber業界は去就の報告が相次ぐ激動の一年だった。

 本連載「Weekly Virtual News」は、そんな2024年の業界の動きを年間にわたってお伝えしてきた。年の瀬に執筆中の本記事では、筆者が特に注目したトピックを10個選出。その後の動きも含めて、振り返っていく。

スタンミきっかけで吹き荒れた『VRChat』旋風

VRChatで仲良くなった謎の生命体と、夏休みを過ごすスタンミじゃぱん【VRChat】

 やはり、今年を語るうえで外せないのは、ストリーマー・スタンミの『VRChat』上陸と、それをトリガーとした空前の『VRChat』人口増加だろう。筆者のコラムでも解説したが、彼の配信によって「日常を過ごす場」としての『VRChat』や、そこに生きる多様な才能の持ち主や文化へ大きな注目が集まり、主要な交流場のトラフィックは急増した。

「メタバース」が2024年に“本当にバズった”理由と経緯 識者がデータを交えて徹底解説

スタンミ、ホロライブ、VAULTROOM……2024年に入ってから、予想だにしない方面から、ソーシャルVR『VRChat』へ乗り…

VRChatの世界にやって来たk4senに、最高のワールドを紹介するスタンミじゃぱん【VRChat】

 その後は、弟者、のばまん、やみえん、けんきなど、様々なストリーマーが『VRChat』を訪問。つい先日には、k4senがスタンミ、弟者とともに『VRChat』を楽しむ配信も実施された。ストリーマーコミュニティのVAULTROOMも、公式ワールドとともに上陸するなど、ストリーマーの広大な遊び場となる可能性が見えてきた。その他の著名人枠でも、三浦大知が配信で訪問する一幕があった。

【 #vket2024winter クリエイターインタビュー】みんなで作るVR【火威青 】#hololiveDEV_IS #ReGLOSS

 VTuberの上陸例も一気に増えた。特に、2019年からのベテランプレイヤーだったホロライブの火威青は、深めの『VRChat』カルチャー発信に積極的に取り組み、さらに宝鐘マリンや白上フブキも『VRChat』での配信をスタートするなど、事務所内にも大きな影響を与えた。そして、本人の夢でもあった『バーチャルマーケット』出展を叶え、タイアップ配信まで実施するなど、「VRChatを愛するVTuber」として存在感を大きく強めた一年だった。

「ビビデバ」スマッシュヒットと、100万登録到達者に見る、VTuber業界のさらなる広がり

ビビデバ / 星街すいせい(official)

 年始の段階では「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」が1億再生に届けば十分だろうと思っていたが、今年は星街すいせいが強かった。言わずもがな「ビビデバ」のスマッシュヒットだ。3月に公開され、11月に1億再生を達成。現時点における、VTuber史上最速記録だ。そして「ビビデバ」に限らず、武道館ライブ決定や、PARCOのコーポレートメッセージへの起用など、星街すいせいはVTuberシーンを超えて大躍進を遂げた。

 そして今年は、様々なVTuberが大台――YouTubeチャンネル登録者数100万人に届いた。ホロライブでは姫森ルーナ、ロボ子さん、AZKi、FUWAMOCO、鷹嶺ルイ、風真いろは、儒烏風亭らでんが、にじさんじでは剣持刀也、不破湊が100万登録を達成。二大事務所以外でも、花譜、新兎わい、犬山たまき、HIMEHINA、結城さくななどが、この大台へ到達している。

 ここまで数が増えると、100万人登録の達成者に送られる“金盾”の価値も比較的落ち着いていく予感はあるが、VTuberという活動形態がひとつの基準点に届き得るジャンルとして確立されつつあることが、この一年で示されているように思う。特に、大手事務所以外からも達成者が徐々に増えていることは見逃せないポイントだ。

多くのVTuberが立ち去った2024年のVTuber業界

 この一年は去る者も多かった。先日公開された鼎談記事でも触れられているが、業界の各所で活動終了に至るVTuberが多く見られた。

 とりわけ、にじさんじ1期生の勇気ちひろや鈴谷アキ、2期生の鈴鹿詩子、ホロライブ2期生の湊あくあなど、2018年から駆け続けてきた古株が活動にピリオドを打つケースが目立った印象だ。なかでも200万登録に届いていた湊あくあの卒業に驚かされた人は多いだろう。

 一方で、新たな試みも見られた。現状のVTuber業界では、「活動終了」とは「そのVTuberの動きの全停止」とほぼイコールである。漫画における掲載終了と大差なく、一般的なタレントの芸能活動終了とはやや性質が異なる。この寂寞感に現場も悩んでいるのか、ホロライブプロダクションでは「配信活動終了」という新たな離籍形態を設けた。芸能活動は終了するが、将来的なゲスト出演などの可能性は残す。“存在の継続”を指し示す新たな門出だ。

 とはいえ、大手事務所に所属し、多くのチャンネル登録者を得ていても、VTuberの活動が永遠に続くとは限らないのだと、今年の多数の活動終了報告は告げているように思う。100万登録という大台を目指すのか否か、目指す場合、その数値をもってなにをするか、といった目標設定が今後さらに重要になっていくだろう。

湊あくあ、鈴谷アキ、成瀬鳴……人気VTuberの卒業が相次ぐ今こそ考えたい、“ピリオドの受け入れ方”

2024年前半を過ぎ、ホロライブ・にじさんじの2大プロダクションを筆頭に、活動休止・卒業・契約解除の知らせが相次いでいる。

広がりが生まれるVTuberたちの所属事務所・企業

 2024年後半に目立ったのは、プロゲーミングチーム・REJECTへのVTuber加入だろう。以前より天鬼ぷるるやdtto.などが所属していたが、乾伸一郎を皮切りに、複数名のVTuberが一気に所属を発表し、VTuber勢力として比較的大きな勢力へと変じた。さらに、プロゲーミングチーム・Crazy Raccoonにおいては赤見かるびの所属が発表され、これも大きな話題になった。実力あるストリーマーとして、VTuberが注目され始めているのだろう。

【重大発表】就活成功⁉とある企業とタッグを組むことになりました【ChumuNote】

 また、個人勢のChumuNoteはレメディ・アンド・カンパニー株式会社とタレントマネジメント契約を締結した。意外な方面への“就職”となったが、医療・ヘルスケア領域をメインに据えながらも、「VTuberが持つ“人の心を癒し、温める力”」に感銘を受けて始動したバーチャルエンターテイメント事業を有する企業であり、納得のいく就職だ。

事務所の解散で名前と姿を一新した人気VTuberが、再び企業と手を組むまで ChumuNoteが語る「VTuberの就活」

個人VTuber・ChumuNoteが企業とタッグを組むことを発表。意外な業界への“就職”に、驚いたファンも多いだろう。なぜ医療…

 「VTuberが所属する先は、VTuber事務所」――そんな固定観念が、どこか頭の片隅にあったことを筆者も感じる事例を見かけた一年だった。古くは「広報系VTuber」も存在していたので、実は突飛な血脈でもないが、特化業界の活躍を見てきた目には新鮮な展開として映ったのも事実だ。

「BOOTH」の成長と、新たなマーケットプレイスの芽生え

 『VRChat』向けアイテム市場の定番となった「BOOTH」では、2023年の3Dモデルカテゴリ取扱高は約31億円と、前年から向上した。注文件数なども増加しており、年間支出額も高額帯が一定数存在し、熱量の高さが伝わる。そして前段でも触れた通り、今年は空前の『VRChat』人口増加が起きた。筆者の身の回りでも「アセットがよく売れる」と口にするクリエイターが何人か見られた。来年の白書の発表も楽しみだ。

 一方で、新たなマーケットプレイスも名乗りを挙げた。SUZURIはバーチャルファッション領域への強化を掲げ、3Dモデル取り扱いだけでなく「3Dグッズ作成機能」や、オリジナルアバター『墨澄』をリリース。アパレル業界ではアダストリアがバーチャルファッション特化EC『StyMore』を発表し、独自販売アイテムや、アバター制作アプリ『MakeAvatar』との連携により、存在感を発揮した。

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 「BOOTH」運営のピクシブも手を緩めることはなかった。大きな目玉は、アバター制作ツール『VRoid Studio』の新機能「XWear・着せ替え機能」発表だ。アバターと衣装を独自規格に変換し、読み込むことで、簡単にオートフィッティングができるというものだ。アバターの人気が対応衣装数に比例する現状への解決策として提示し、より多くのクリエイターへ光を当てようという姿勢が垣間見える動きである。

 また、アバターを用いたショート動画作成アプリ『VEAT』も先日リリースされた。自前のアバターを持ち込むこともできるが、プリセットとして「BOOTH」の人気アバターがいくつか同梱されている。手軽なスマホアプリから、『VRChat』カルチャーへのタッチができるPR施策も兼ねていそうだ。

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