Dios・たなか×Daokoはなぜ、ニコニコ動画に“帰ってきた”のか ルーツとしてのボカロ文化に再接近した理由

たなか×Daokoが語る、ニコ動とボカロ文化

ふたりの故郷・ニコラップが持っていた“特異性”

――ニコラップはHIPHOPカルチャーのなかから見ても特異な文化だと思うのですが、どう捉えていますか?

Daoko:独特ですよね。流行りのフロウみたいなものはあったような気がするけれど、結構みんな各々ニコラップ内のスタイルにおけるご本家みたいなのがいらっしゃって。電波少女とかトップハムハット狂さんとか、明らかにすごい人は既にいたので、各々キャラクターがありつつも、界隈みたいなのがある……みたいな感じだったと思います。結構身内ネタも多いですし。

たなか:多かったですね。しかし、あらためてニコラップについて語るのって、自分が入っていた部活を神格化して語る、みたいな気恥ずかしさがありますね(笑)。

Daoko:ティーンエイジャーでやってますもんね。でも振り返ってみて、ニコラップがどういう現象だったのかは気になります。全然オタクじゃない人とかも普通にいましたし。

たなか:いましたね、いわゆるオタクカルチャーに染まっていない、HIPHOPの人。そう考えると、当時一定数聴きたい人がいて投稿する人もいる、みたいな動画サイト自体、ニコニコ動画くらいしかなかったんじゃないかなとは思います。そういう受け皿としても機能していたのかなって。

Daoko:クラブのノリとはまた違う雰囲気ではあるよね。現場に出ているラッパーはまた違う雰囲気があるんですよ。ニコニコ動画にはオタクもいたし、多種多様な人間たちが入り混じっていた(笑)。もう10年前とかのことですし、当時の独特な、古のインターネット環境ならではのような気もしますね。ボカロPさんの中にも、元々バンドをやられていた方も結構いましたし、その感じに近いのかなと思います。バンドをやられていたけど、宅録にシフトしていくみたいな。

――そういう宅録的なものが進化していく過程のひとつでもありましたよね。

Daoko:そうですね。当時は機材もちゃっちいのを使ってましたけど、今の人たちはそうではなさそうですし。

――今は最初からハイファイな機材を使ったり、最小限の機材でも良い音で作ることのできるボカロPも増えてきました。初手から音源のクオリティが高くなっているというのを考えると、どんな機材でも気軽にアップできたあの時代は逆に通っておいてよかったのかなとも思います。

Daoko:今だったら、聴けない音質だもん(笑)。ほとんど消しちゃってるけど。

たなか:あと当時のニコラップと今とで違うところは、コミュニティが全員“ほぼ顔見知り”くらいの規模感だったことだと思っていて。ちょうどいい大きさだったんですよね。当時、プレイヤーだと1000人いないくらいですよね。

Daoko:100人もいないんじゃないかな。私は100人くらいの感覚でいます。

たなか:多分、知名度とかを加味せずにニコラップ全体でいうと1000人くらいはいると思うんですけど、どちらにせよ規模感が学校くらいのイメージ。「何年の○○さんって怖いらしいよ」みたいな、そんな空気感でしたね。

Daoko:たしかに、絶妙に先輩・後輩みたいな空気、ありましたよね。意外とちゃんと縦の関係性があったというか。あの文化を持ち込んだのはオタクじゃない人たちだと思っていますけど、そういうのがあったのは個人的には良かったのかなと思っています。私自身も学びになったし、全員がオタクじゃないっていう、いろんなジャンルのミクスチャーな感じが当時は珍しくて、面白かったですね。

――そんなニコニコ動画を中心にした活動を経てお互いにメジャーデビューをし、充実したキャリアを築いてこられたかと思います。どういう距離感でボカロPたちのことを見ていましたか?

Daoko:私はボカロ曲からは影響を受けまくっているので、ずっとボカロPは神だと思っていましたし、今も思っています。wowakaさんをはじめとするすごい方たちがいて、映像制作などを含めてマルチにやられる方も多いから、みんなすごい特技を持っている人たちだなって。

――上の世代のボカロPが神のようだとすると、今は下の世代もたくさんいるじゃないですか。世代の移り変わりによって見え方も変わってきましたか?

Daoko:世間的にもアンダーグラウンドじゃなくなっていったし、インターネットのあり方の違いは感じますよね。実際にボカロPさんとお友達になったり直接お話ししたりするようになったのは最近なので、そういう変化もありました。すごく勉強になりますし、全然違う人生を歩んできた人たちだなと思いますね。

――たなかさんはいかがでしょうか。ボカロ曲やボカロPとの距離感はキャリアを経て変わってきましたか?

たなか:メジャーデビュー以降、2016年辺りからは最新の流行は全然追えてなくて。当時好きだった人の曲は未だに聴くんですけど、その他はめっちゃ流行ってる曲がディグらなくても流れてくるくらいで、世代が変わってすごいなという気持ちで見ていたくらいでした。でも最近は急にボカロ関連の人とご一緒する機会が増えて。自分の作ってきた音楽に影響を受けているという人も結構いて、僕にも音楽的な親となる存在がいますけど、僕の子どももいるじゃんっていう。“受け継がれていく生態系に組みこまれたい”っていう思いはあったので、実際にそれを体感してすごいなと思っています。

Daoko:その感覚、わかる! 音楽の教科書に載れればいいなと思っていますね。

たなか:いいですね、音楽の教科書。自分の曲を聴いて作ってくれている曲をあらためて聴いて、「おお、こういう感じになってるんだ、すごい」と驚かされることも多いです。そういう人たちと一緒に曲を作ったりするのがすごく面白いですね。

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