Dios・たなか×Daokoはなぜ、ニコニコ動画に“帰ってきた”のか ルーツとしてのボカロ文化に再接近した理由

たなか×Daokoが語る、ニコ動とボカロ文化

新時代のボカロPたちから学びを得ることも

――新時代のボカロPたちと触れ合って、明確にこういうところが自分たちと違う、新しい時代だと思うことはあったりしますか?

たなか:違いみたいなものは、あまり感じないかもしれないです。ただ、単純に教材がめちゃくちゃ豊富なんだろうなとは思います。やっていることとしては結構似ているんだけど、洗練されていて、筋力が強いみたいな。

Daoko:洗練という意味では、プラグインの発達なども影響していると思いますね。AIで自動ミックスができるプラグインもあるし、Spliceであったり、自由に良い音源が使えるサービスも出ているし。それを調理するのがすごく上手いなと感じます。吸収力も半端ないと思いますし、サブスクでランダムに出てくる音楽ジャンルの感じが、そのまま音楽に反映されている感じがありますね。

――それはすごく分かります。

Daoko:それが“世代感”のような気がしていますね。

たなか:今の人たちは、制作環境も結構いいですもんね。

Daoko:スマホで録った音でも、処理の仕方によっては普通によく聞こえちゃいますからね。そういった意味でも、豊かでとてもよろしいと思います。私、ボカロPの方に会ったらめちゃくちゃ制作環境について聞いちゃうんですよ。DAWのプラグインから、最近聴いてる音楽、マイク、オススメの音源までなんでも(笑)。それがすごく勉強になって、特に若いボカロPの方と話すと考え方が違いすぎて目からウロコが落ちますよ。

 めちゃくちゃ好きなボカロPの方がいるんですけど、ミックスが上手だなと思って聴いていて。リファレンスにしたいくらいで、直接お会いしたときに使っているマイクを聴いたんですよ。そしたら“ゴッパチ”(SHURE『SM58』)なんですって。それはもう「えー!」みたいな。

ーーそれはたしかに驚きますね。定番の製品ではありますが、結構エントリー向けのイメージもありますもんね。

Daoko:そう(笑)。でも、それってすごく素敵ですよね。ミックスの処理も含めて、機材やソフトウェアを上手に使えている証拠なので。それで、私も久々にゴッパチを買いました(笑)。

たなか:面白い、ここにきて原点回帰したんだ(笑)。

Daoko:そうなんです。だから最近は「やっぱり58だよな」みたいな感じでウキウキしてます(笑)。

――Daokoさんは直近の取材でもボカロPについて語ることが多く、前回のボカコレにもSynthesizer V AI 重音テトを使用した楽曲「不可視天体」で参加しています。たなかさんも前回のボカコレに椎乃味醂さんとの共作で、自身の声を抽出したUTAU「彼方」を使った楽曲で参加しました。それぞれがこのタイミングでボカロ文化に接近しているのは何かの縁を感じずにはいられないのですが、そこにはどんなバックグラウンドがあるのでしょうか。

不可視天体 - 重音テトSV
ピリオド - 初音ミク・彼方 with たなか

Daoko:私はボカロPって呼ばれたかったからです(笑)。ずっとボカロPになりたかったし、人生に一度はボカロPの集いに呼ばれてみたい。

たなか:「同創会」ですよね。あの集まりは楽しそうでしたね。知り合いはいっぱいいるけど、自分自身は行く資格がないっていうのが残念でした。

Daoko:ああいうの、羨ましいですよね。ボーカリストが集まることってあまりないですからね。それと、ボカロPになった理由については個人的にDTMを上達させたいからというのもあって、「人目に触れさせていこう」という思いからルーキー部門に参加を決めました。

ーーある種、当時の憧れにふたたび近づくような感覚ですね。たなかさんはいかがでしょう?

たなか:僕は、自分のUTAUライブラリを作ってもらったのが参加のキッカケなんですよ。

Daoko:いいなあ……。

たなか:ボカコレの前に『大阪関西国際芸術祭』というイベントがあったんです。そこで椎乃味醂くんと一緒に作品を作ることになって、僕をUTAUのライブラリにしちゃおうということになって。その流れでボカコレも出ましょうとなった感じです。なので能動的に参加したというよりは、楽しく巻き込まれていったというような関わり方でしたね。ランキングという概念が懐かしくて、いいなと思いました。

Daoko:懐かしいですよね。私はめちゃくちゃランキング圏外でした(笑)。始まって少し経ってから、「ボカコレやってるじゃん! 今から参加するか!」みたいな感じだったので。

――途中参加というのもすごいですね。

Daoko:徹夜で作ってました。締め切りがあるって素晴らしいなと思いましたね。自分でミックスもマスタリングした作品を出すのは、このキャリアになってからははじめてのことでしたし、緊張したというか。動画投稿の仕方も忘れていて、タグ付けをしながら「こんなんだったっけ」と思って(笑)。寝てないし、震えて汗をかきながら投稿しましたね。昔はもっと気さくに投稿していたと思うんですけど、あわよくばランキングに入りたいとか、いろいろ考えちゃって。

たなか:邪な気持ちがね(笑)。

Daoko:そう(笑)。だから、手放しでは投稿できないようになってしまったんだな、とは感じましたね。昔は子どもの無邪気さがあったというか。

ーー参加してみてランキングを見る視点が変わったと。

Daoko:我ながら、絶対ランキングには入らないだろうな、という曲を投稿していたので、期待はしていなかったんですが……それでもチラチラ見てしまいましたね。あ、ちょっと上がった、とかこのタグでなら何位だ、とか(笑)。

たなか:僕は味醂くんに乗っかって参加させてもらった形なので、ランキングに入っても「やったぜ」というよりは「何位くらいになるんだろうなあ」という気持ちで、もう少し気楽でしたね。それでも、外から見ているのではなく自分ごととして参加できるのは楽しかったです。

――そうやってボカロ文化に関わったことで、あらためてボカロ文化を意識したり関心を持つようになったりということはありましたか?

たなか:やっぱり、知っている子や友だちが曲を出していたら聴くので、あらためてボカロ文化に接近し直せたみたいな気持ちはありますね。

Daoko:関心は知れば知るほどという感じですね。すごい人がどんどん出てくるし、すごい人の新曲を聴くのが楽しすぎて。私はもう、感涙しながら夜な夜な踊っています(笑)。

――新曲をディグることも増えてきた?

Daoko:そうですね。たまにめっちゃ琴線に触れる、「すごすぎ!」みたいな解像度が高くて若い才能に出会えるのも面白いです。それから、音楽的にいえば時代や世相が反映されているというか、みんなちょっと踊りたそうにしているなという印象で、クラブカルチャーとの融合を感じることもあります。それが私にとっても面白いし、嬉しいですね。

ーー少し前の時代がまた一周回って戻ってきている感じはありますね。それこそニコラップじゃないですけど、いろんな文化がミックスして相互に乗り入れている。

Daoko:あの当時の空気感、温度感みたいなものがリバイバルしていますよね。今は2000年代リバイバルが起こっているみたいな周期なのかな。灰色がイメージのダークな感じとか、ちょっとエッチな内容とか、そういうのって私にとってすごく懐かしいものなので、今が一番楽しいかもしれないです(笑)。前の文脈も知っているから、二度美味しいみたいな。

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