UUUMはなぜゲーム事業を立ち上げたのか? Nintendo Store1位獲得の『青鬼』がつないだ、LiTMUS・北條誉之×ゲームスタジオ・岩立誠治対談

UUUMが“ゲーム事業”立ち上げた理由

クリエイター目線を意識した『青鬼』移植版の開発

ーー今回の移植版を開発するにあたって、LiTMUS社とゲームスタジオ社の間ではどのような経緯があったのでしょうか。

ゲームスタジオ・代表取締役 岩立誠治
ゲームスタジオ・代表取締役 岩立誠治

岩立誠治(以下、岩立):ゲームスタジオはハイエンドからカジュアルな作品まで、クライアントの要望をキャッチアップしながら取り組む受託開発を生業としています。北條さんとはゲームスタジオの関連企業であるウィットワン社を経由して繋がり、お互いのニーズがマッチした結果、『青鬼』のSteam/Nintendo Switchへの移植開発がスタートしました。

北條:岩立さんにお話いただいた経緯に加えて、「昔の『青鬼』を遊んでみたいけれど、そもそも自分のスマホを持っていない」という若年層ユーザーの多さに気がついたんです。両親のスマホを借りて遊ぶ子供たちも見られますが、全員が全員そうとは限りません。そこで「家庭用ゲーム機で『青鬼』を出すならどのハードが良いだろうか」と考えた際、第一候補として上がったのがNintendo Switchでした。

岩立:弊社にちょうどNintendo SwitchとPC向けの移植開発に強いスタッフが在籍している点も大きかったと思われます。

ーー20周年という節目にコンソール版とSteam版が発売されましたが、移植するにあたってどのような試みがありましたか。

岩立:新たな提案として、移植版では2つの要素を重視しています。

 YouTubeを始めとした動画プラットフォームでは、ゲームスピードを高速化して『青鬼』をプレイするゲーム実況が見受けられますが、今回は公式の機能として倍速モードを実装しました。今作では実況者さんだけでなく一般のユーザーの方々まで幅広く倍速モードを楽しんで頂ける様に15倍速まで調整できるようにしています。

北條:倍速モードに関しては、『青鬼』をプレイするクリエイターの観点から我々も監修させていただきました。と言うのも、最初は調節できるレベルが3段階ほどだったのですが、2倍速や3倍速だけというのも単調な印象を受けたんです。一方でクリエイターのゲーム実況に目を向けると、「作品の周年に合わせて倍速機能を使う」といった例が一定数見受けられました。

 やはり“結果に意味を持たせたい”ユーザーも多くいるので、移植版の開発にあたっては倍速レベルを1段階ずつ調整できるようにしようと。小さな話かもしれませんが、こういう小さな積み重ねで良いモノを作りたいと願い、ゲームスタジオさんとご一緒させていただきました。

ーー倍速機能を使った実況プレイは話題になりやすいポイントだと思われます。では、2つ目に重視した要素について教えていただけますか。

岩立:今回のNintendo Switch/Steam版では、新規シナリオとして「藍編」を収録しました。初代『青鬼』から登場する「美香」の友人として、移植版では「藍」という女性キャラが登場するのですが、藍編は洋館の内部が入るたびに変化するローグライク要素と3種類のマルチエンディングを取り入れ、プレイ体験の差別化を図っています。新要素の盛り込み方という点においてデバッグ工数やコスト面の兼ね合いを見つつ、「『青鬼』のローグライト化はやってみる価値がある」と判断し、導入へ至った次第です。

ーーありがとうございます。新要素の導入を含め、移植版の開発段階で感じたLiTMUS社とのシナジーについて教えていただけますか。

岩立:我々としましても、開発したゲームをどのように広めていくかという“パブリッシング”分野に関して悩みのタネがありました。その点、様々なコンテンツのプロモーションに長けているUUUMさんやLiTMUSさんとゲームを共同開発できたのは良い経験だったと思います。ゲームシステムからちょっとした画面のUI(ユーザーインターフェース)に至るまで、「クリエイター目線だとこうなるのか」という気付きがあったことに加え、北條さんのご助力のおかげで開発側とクリエイター両方の思考を上手く取り入れることができました。

「マーケティングを意識しすぎるとつまらないゲームに」ゲーム作りにおける“留意点”

ーー昨今ではゲーム実況だけでなく、リアルタイムで自身のゲームプレイを放送し続ける「ストリーマー」が 話題を集めています。ゲームプレイを視て楽しむ層が以前よりも増えたように思われますが、「実況映え」や「動画映え」を意識した場合、どのようなゲーム作りがベストだと思われますか。

北條:まずは分かりやすいジャンルとして、アクションゲームやバトルロワイヤルゲームは勝ち残るために何回もトライし、最後に「頑張って生き残った」というフィナーレがあるので、ゲーム実況ならびにゲーム配信と相性がすごく良いですね。その要因として挙げられるのが、「同じ展開が起きにくい」という部分。あとは「クリエイターのスタイルに合ったゲーム」という点も大事になります。クリエイターのスタイル(得意な見せ方)とゲームジャンルは上手くマッチさせる必要があるのではないでしょうか。

岩立:難しい質問ですね(笑)。配信者さん目線というのは経験の浅い所ではありますが、基本的に配信者さんも熱心なゲームファンであるという前提で考えれば、我々が通常のゲーム開発でも常に意識している、ターゲットユーザーに向けて面白い作品を作るという基本的な意識がまず1つ目にあります。配信者さんに「そうそう、自分たちはこういうゲームを求めていたんだ」と思ってもらえる、ゲームの本質的な部分を見出すのも我々の仕事だと考えています。その上で『青鬼』移植版は、勉強不足な部分をLiTMUSさんのご助言を受け止めながら丁寧に作り上げたつもりです。

 先ほど話題に出た倍速機能のUIに関しても、ゲームスタジオの案では当初「縦方向にページをスクロールするタイプの画面」を作っていたんですが、LiTMUSさんからご提案いただいたのは、「1ページ完結のスライダー形式のUI」でした。理由を聞いてみると「画面にぴったり収まる方が画面映えも良く分かりやすい」とのことで、見落としがちな所にもクリエイターのニーズを意識したゲーム開発というのはゲームスタジオとしても参考になる部分も多く、今後も相互に意見を交わしながら開発に臨んでいく所存です。

ーーUIの変更も含め、クリエイター目線を意識したゲーム開発にあたってはどのように研究されているのでしょうか。

北條:クリエイターが投稿する様々な動画から学ぶことが多いですね。基本的には「このゲームが好き」という情熱を武器に実況プレイや配信に臨む方が多い一方、マーケッター志向と言いますか、「再生数が伸びるゲームをプレイする」というクリエイターも数多く見られます。そういった方々は動画のサムネイルから公開タイミングまで色々と研究されているので、それらを分析するだけでも潜在的なニーズだったり仮説を見出すことができるんです。

ーー徹底的にクリエイター目線を追求されている印象を受けました。改めてお伺いしますが、LiTMUS社の今後の展望について教えていただけますか。

北條:今回は実績の豊富なゲームスタジオさんと手を組み、歴史ある『青鬼』の移植版を開発させていただきました。この先もたくさんの方々に楽しんでいただけるようなコンテンツ作りを心がけるのはもちろん、その上で”『青鬼』シリーズのIP展開”というフェーズも真剣に考えています。

ーーつまり、展開次第ではジャンルの異なる『青鬼』作品も生まれるかもしれない……ということでしょうか。

北條:可能性としてあり得ると思います。ありがたいことに『青鬼』Nintendo Switch版は当初の目標売上本数を突破しておりまして、『青鬼』シリーズの成長を見据えるにあたり、他のゲーム会社さんとは違う視点やクリエイター独自の切り口を活かしたいと考えています。

 ただし注意しておかなければならない点が1つあって、それは「あまりにマーケティングを意識し過ぎると、かえってつまらないゲームになってしまう」ということです。

ーー詳しくお聞きしたいです。ゲーム開発に必要不可欠なクリエイティビティが失われるということでしょうか。

北條:そうですね。違った例もあるかもしれませんが、開発現場とマーケティング事業部において、双方のやりたいことがズレてくるのは珍しくないと思います。

 マーケティングサイドは「いかに集客できるか・いかに売上を伸ばすことができるか」、そういったロジカルな方向に向かいがちです。ユーザーのニーズをすくい上げて組み立てていく反面、完成品を見ると“想定内”のレベルに仕上がっていることも多い。もちろんクオリティが高ければまとまっているのも悪くないのですが、ファンのなかには想定内ではなく“想定外”、驚きをもたらすゲームを求めている方々もいます。

 一方の開発側は、やはり「どれだけ面白い作品を作ることができるか・自分たちが納得いく作品とは?」というクリエイティブな目線を重視します。そうした情熱は弊社としても尊重している部分でして、ゲームスタジオさんの開発陣が秘める熱量を受け止め、互いに刺激を与えながら今後も良いゲーム開発を続けたいと考えております。

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