世界と自分を“アレンジ”する唯一無二の冒険 新感覚スライドパズルRPG『アレンジャー・ロールパズリングの旅』レビュー
道や区画を十字に動かし、行き止まりを回り込んでパズルを突破する新感覚RPG風アドベンチャー『アレンジャー・ロールパズリングの旅』をクリアした。
あまりにもユニークだが、そこまで難しくならない塩梅のスライドパズルと、王道だがちょっとズレているストーリーが魅力の本作。その出来は素晴らしく、すべてのパズルゲームファンとRPGファンにオススメしたくなるほどだった。
自分が動けば周りも動く! アイデアがてんこ盛りのスライドパズルを楽しむ
主人公のジェマは、不思議な体質を持つ子で、自分が動くと世界も同時に動いてしまうという、まるでローグライクの世界から飛び出してきたような少女だ。そのせいで住んでいる街から浮いてしまっており、ついに旅に出る決意をする(彼女が旅の準備をするだけで、街はしっちゃかめっちゃかになっていくのだが……)。
彼女が右に一歩動けば、その区画内の同軸に延びている道がズルッと右に動き、前後にある物体も同じ分だけズレる。上下左右すべて同じ作用が働き、区画の端に到達した物体は逆サイドからニョキッと現れる……まあ、実際に動画を見てもらうほうがわかりやすいだろう。
他人に話しかけようものなら、斜めから擦れ違うようにしてあいさつしなければ、永遠に辿り着くことができない。このギミックをトレーラーで見た時点で、筆者はこのゲームに惚れてしまった。
道中の冒険において魔物(本作では“よどみ”と呼ぶ)が道を塞いでいれば、落ちている剣でもって攻撃するわけだが、ここでもまず剣とよどみを同軸に動かし、剣を押すか引くかしてよどみにぶつける必要があるのだ。この何とも言えない手間がクセになる。
もちろん、作業感を覚える暇はなく、アイデアに満ちたパズルが山ほど降ってくる。
動かせないブロックを迂回するために、自身が逆サイドに回ったり、イカダをつなげて区画を無理やり広げて裏周りの判定を大きくしたり、主人公と動きが同期しているNPCにスイッチを押してもらったり、光っている虫の法則性を見抜いて隠し道を見つけたりと非常に多岐に渡る。
本編はたったの3ステージ+ラストステージで、およそ8時間強の冒険というタイトなボリュームでありながら、これでもかと多種多様なスライドパズルが詰め込まれている。
特に、鍵を使ってドアを開けるギミックは、逆サイドからドアに鍵をぶつけさえすればよいので、まるでこれから開けようとするドアを裏側から開けたかのように見えて、なんだかヘンテコな感覚を覚える体験だった。
特にアンドゥやリスタートといった機能はないが、その必要もない程度の難易度のパズルばかりで、腕組みして考えあぐねるよりもとりあえずガチャガチャしてたら閃けるのもちょうど良かった。多くのプレイヤーが成功体験を感じられるデザインなのは間違いない。
自分探しの果てに出会う、自分よりもヘンな人々……独特な角度のパロディRPG
本作にはストーリー面においても高評価を与えたい。
「守りの巨像」という像がよどみから人々を守っている村で、主人公のジェマはとても退屈していた。自分の体質もあってか、そろそろ外の世界(“大自然”と呼ぶ)を見てみたくなった彼女は、単身で大自然へと乗り出す。待ち構えていたのは、ちょっとだけ偏った性格や考えを持つキャラクターたちや、数多くのパズル、そしてよどみにまつわる真実であった……。
ロール・パズリング・アドベンチャーと題されている通り、本作は既存のRPGに対してのオマージュでもって作られているゲームである。しかしながら、いわゆるアンチRPG的なあからさまな逆張り表現を多用しているわけではなく、あるあると小ボケを微妙に織り交ぜた、なんとも言えない塩梅に仕上がっているのだ。
たとえば、ジェマは道中で守りの巨像を信仰するコミュニティに出くわす。彼らは長いこと巨像を信じることにこだわりすぎて、ひとりひとりの個性というものを排除していた。コミュニティ全体が凝り固まった考え方になっていたのだ。
そこにジェマが現れて、彼らの考え方に風穴を開けるというまさしくRPGのお約束的展開が用意されているのだが、いざジェマが彼らに対して「どれくらい長いこと信仰していたの?」と訊ねると「3ヶ月」という答えが返ってくるのだ(なお、このギャグを何度も天丼する)。
その他にも、町民を「有権者」と呼びたがる町長や、鳥型の配達ロボを作ったせいで引き籠りを生み出してしまった科学者や、自己肯定感を失ったお助けマンなど、愛らしいキャラクターがパズルのアイデアと同じくらいたくさん現れる。
独特なテキストセンスと適切な翻訳があいまって生み出されている会話劇は、どれもこれもスクリーンショットを取りたくなる出来だ。
最後はしっかりとRPGの王道へと集約し、良い話を読んだ気がしてくるのだから面白い。フリーダムになりすぎていない、抑制の効いた(だけどちょっと捻った)プロットやテキストが好きな人にはきっとたまらないだろう。
問題点があるとすれば、テキストを読んでいる最中にクエストが更新されるとポップアップが邪魔になったりだとか、メインクエストとサイドクエストの違いがわからなくなる瞬間があったりもしたが、その程度だった。
『Braid』のアーティスト(David Hellman)、『Carto』のライター(Nick Suttner)、『Ethereal』のデザイナー(Nicolás Recabarren)と、インディーゲーム業界ではなかなか名の通ったクリエイターたちが集結して作った本作は、彼らの才能をさらに如実に感じられること間違いなしの一本だった。
Furniture & Mattressの次なる作品にも大いに期待したい。『アレンジャー・ロールパズリングの旅』は、PC/PS5/Nintendo Switchにて発売中。
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