大手百貨店の社員が“VTuber運営”になるまで 大丸松坂屋百貨店「EchoVerse」担当者に聞く、プロジェクト始動秘話

大丸松坂屋のVTuberプロジェクト始動秘話

 インフルエンサー事業にメタバース事業と、百貨店にとらわれないチャレンジングな新規事業を展開してきた大丸松坂屋百貨店は、2024年11月にVTuberプロジェクト「EchoVerse」を始動。2025年春より、VTuber事業へ参入する。

 2024年11月29日から2025年1月24日にかけて実施中のオーディションでは、デビュー予定のVTuberデザインにイラストレーター・森倉円を起用。キズナアイや「アイドルマスター」シリーズ「vα-liv」のキャラクターデザインを手掛けた同氏を選択したところにも、大丸松坂屋百貨店の本気度がうかがえる。

 そんな「EchoVerse」の担当者に任命されたのは、松坂屋名古屋店の春田真里奈氏。松坂屋名古屋店の公式アンバサダー『松坂屋三兄弟』にも携わった同氏が、異例のVTuber事業に込める想いはどのようなものか。これまでの経歴と合わせて話を伺った。

大丸松坂屋百貨店・春田 真里奈氏

〈春田 真里奈〉

2015年 大丸松坂屋百貨店入社後、松坂屋名古屋店旅行センターに配属。2020年より松坂屋名古屋店のウェブ・SNS担当となり、2021年よりオリジナルキャラクター「松坂屋三兄弟」プロジェクトの企画・運営・制作を担当中。地元出身の漫画家・声優・俳優・ミュージシャン等のクリエイター陣と動画制作・楽曲制作を行い、地域の文化振興に取り組む。「大丸松坂屋百貨店発明アワードTOP20賞」入選。2024年より大丸松坂屋百貨店 本社 DX推進部とともにVTuber事業立ち上げに着手する。

二次元IP企画に参画したキッカケは「一人のオタクとして危機感を覚えた」から

松坂屋名古屋店公式アンバサダー・松坂屋三兄弟

――まずは、春田さんのご経歴からお聞かせください。

春田:2013年に新卒でゲーム会社に入った後、2015年に大丸松坂屋百貨店に入社しました。最初は松坂屋名古屋店にて、旅行を企画・販売する旅行センターにいましたが、その後コロナ禍などもあり、旅行そのものが厳しくなりました。そこで、もともとパンフレットの制作業務などをしていたこともあり、販促企画に異動し、ホームページやSNSなどの運用を担当するようになりました。現在も、勤務地は名古屋です。

――『松坂屋三兄弟』にはどのような形で関わっていたのでしょうか?

春田:イラストが立ち上がった時期には関与しておらず、途中より参画しています。もともと、2021年の秋に、松坂屋の創業410周年を祝うイベントで、館内のあちこちにアーティストの絵などを飾る企画がありました。その中で、名古屋出身の漫画家・藤原ゆか先生に松坂屋の本館、北館、南館を擬人化したイラストを描いていただきました。これが『松坂屋三兄弟』の原型です。

 その後、2022年1月に「せっかく素敵なイラストを描いていただいたので、何かに活用しないともったいない」と話が上がりました。そこで「女性向けにバレンタインデーの販促に使うと面白いのでは」とアイデアが出たところで、私が割って入る形で関わるようになりました。

 というのも、オタクじゃない人たちがアイデアを出しており、一人のオタクとしてちょっと危機感を覚えまして……(笑)。「ちゃんとやらないと危ないです」と声を上げ、キャラクター活用などを考えていった結果、プロデューサーのような形で関わることになりました。

――そこからさらに、今回「EchoVerse」に関わることになった春田さんですが、いち個人としてはVTuberはいつごろお知りになりましたか?

春田:黎明期の頃から存在は知っていました。もともと、ニコニコ動画などの文化が好きで、その流れでキャラクターやクリエイターが自分で面白い動画を出す文化が好きになり、VTuberもその枠組で見ていたんです。

 本格的にファンになったのは、2020年にプライベートで『VRChat』を始め、そこで出会ったVTuber好きなお友だちから布教されたのがきっかけです。

――『VRChat』のほうが先だったのですね。

春田:そうなんですよ。『Meta Quest 2』の発売日から『VRChat』で遊んでいました。

――となると、大丸松坂屋百貨店がアバター販売でメタバース事業に参画されたときには、なにか親近感を抱かれていたりしましたか。

春田:そうですね。自分が『VRChat』に入ってから初めて開催された『バーチャルマーケット』で、大丸松坂屋百貨店が初出展するのを知り、その後オリジナルアバターの展開も始まっていき、感動しましたね。うれしかったです。

――VTuberのお話に戻りますが、当時ご友人に教えていただいたVTuberはどなたでしたか?

春田:HIMEHINAさんですね。その友人は幅広くVTuberさんを見ている方だったので、HIMEHINAさんやぽこピーさんなど、いろいろと見せてくれました。

――深掘りとなって恐縮ですが、そこからご自身がハマったVTuberさんはどなたかいらっしゃいますか?

春田:特定の誰かに限らず、企画や方向性、世界観など、クリエイターさんやチームの表現したいものがズバッと出ている方が好きですね。HIMEHINAさんならば、Studio LaRaさんの世界観がグイグイ出てきているところが好きですし、ぽこピーのお二人ならば「ぽこピーランド」、にじさんじさんなら「にじさんじGTA」といった企画などが好きです。

――タレント性だけでなく、表現やクリエイティブ性みたいな部分に惹かれていらっしゃるのですね。

春田:はい。そうした活動を見ると好きになりますね!

VTuberの枠を超えて魅力を発信するプロジェクト

大丸松坂屋百貨店「EchoVerse」

――あらためて、「EchoVerse」がどのようなプロジェクトなのか教えてもらえますか。

春田:「EchoVerse」は、「Echo(共鳴し広がる)」と「Verse(物語)」をプロジェクト名に掲げていて、VTuberの成長ストーリーで共感と感動を生み、その魅力を世界中に“響きわたらせたい”という願いを込めたプロジェクトです。そして、プロジェクトが目指すのは「長く愛され、魅力が広く響き渡っていくVTuber」です。

 ファーストステップは、まずはVTuberファンへ魅力を発信し、「◯◯系VTuberならこの人だよね」と認知いただけるようになるのを目指します。そこから、例えば「シンガーソングライターといえばこの人」とまで言っていただけるような、VTuberという枠組みにとらわれず、それを超えていける存在を目指します。

 最終的には、世界中の様々なジャンルのクリエイターとコラボできる存在になって、その中心で新しい価値を生み出していくような発信源を目指していきたいです。

――デビューされるVTuberの得意なことなどを魅力・フックとし、そこを起点に領域を横断できる魅力を持つ、マルチタレントのような存在を志向されているのですね。

春田:マルチタレントとして活躍できたらいいなと思いますし、たとえば音楽に限っても、多種多様なジャンルとのコラボのように、ものづくりの面でも横断的に面白いものを世界に発信していければいいですね。

 歌手のAdoさんも、最初は「歌い手」という枠からスタートされていますが、いまや世界的に愛される歌手として活躍されています。そして、Adoさんについて話している中で「実は出身は歌い手なんだよ」といった、出発地の情報を逆輸入してもらうこともあるような、枠を飛び越えていける魅力を発信できたらと思っています。

――「枠を飛び越える」が一つのキーワードである「EchoVerse」ですが、本プロジェクトはどのような経緯で大丸松坂屋百貨店で始動し、春田さんがご担当者になったのでしょうか?

春田:大丸松坂屋百貨店では、2021年からインフルエンサー事業やメタバース事業などに取り組んでおります。コロナ禍を経て、「実店舗にとらわれないコンテンツの発信」を目指した結果、こうした新規事業が生まれてきたのですが、インフルエンサー、『VRChat』を中心としたメタバースを経て、「次はVTuberだろう」と本社で考えられていたそうです。

 そこに、たまたま私が「松坂屋三兄弟をVTuberにしたい!」と提案したことから、「名古屋にVTuberをやりたいやつがいるらしい」と本社にうわさが届いたようです。

――春田さんのポジションはどのようなものになるのでしょうか?

春田:このプロジェクトの現場責任者として、いわゆるVTuberの“運営さん”を担っていくことになりますね。ここに、各種事業でもご協力いただいている株式会社Vさんから、ディレクターとプロデューサーを1名ずつ派遣いただき、チームで運営していく予定です。

――『松坂屋三兄弟』は松坂屋名古屋店に根ざしたプロジェクトでしたが、「EchoVerse」も大丸松坂屋百貨店との連携を想定されていますか? どの程度企業色を出していくのかは、応募者の方も気になるのではないかと思っています。

春田:店舗との連携は、基本的には考えていないです。『松坂屋三兄弟』は松坂屋名古屋店の魅力を発信するために運用していたキャラクターでしたが、「EchoVerse」はあくまでも「エンタメを届けていくこと」が趣旨のプロジェクトであるためです。

 もちろん今後、案件のような形で店舗商品の情報を発信してもらったり、店舗でイベントやポップアップショップを行ったりすることはあり得ますが、「大丸松坂屋百貨店の広告塔」というタレントにはしません。社長からも「当社にこだわらず、全国展開している他業種などと組んだ方が良いなら、それも積極的に考えていくべき」とお話をいただいています。

――百貨店自体にもこだわらず、その枠をも飛び越えて愛されるプロジェクトを目指すのですね。そして本プロジェクトの大きなポイントとして、デビューされるVTuberのデザインに、イラストレーターの森倉円さんを起用されています。この起用経緯はどのようなものだったのでしょうか?

春田:プロジェクトが目指す「長く愛され、魅力が広く響き渡っていくVTuber」を、「王道」と解釈したのが決め手です。そして王道とはなにかと考えた時、叶えたい夢がある原石のような方が、キラキラと夢を追いかけながら、ファンといっしょに達成していく成長ストーリーが当てはまると考えました。

 そして森倉先生のイラストには、ある意味どこにでもいそうだけど、目が離せなくなる魅力がある女の子が多く描かれています。上記のようなストーリーを発信し、元気を与えていくうえで、森倉さんはこれ以上ないほどぴったりの方だと考えていたので、ご依頼が叶い本当に感謝しています。

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