「ダンガンロンパ」生みの親・小高和剛にとっての“ADV創作”とは? 根底に流れる「自分の世界」へのこだわり

小高和剛にとっての“ADV創作”とは?

「自分の世界を表現したい」気持ちが強かった

――ここから、小高さんのゲーム作りにおけるルーツについてお聞きできればと思います。これまでアドベンチャーゲームを中心に制作されてきましたが、特に影響を受けた作品などを教えてください。

小高:僕は1978年生まれで、小学生のときにファミコンが全盛期でした。『スーパーマリオブラザーズ』が小学1年生にリリースされて「横スクロール」のゲームを初めて体験したときは、「すごい」と思った記憶があります。『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』の発売日はゲーム屋に並びましたね。中学生のころはゲームセンターブームで『バーチャファイター』や『鉄拳』をプレイしましたし、高校生のころはPlayStationや3DOで遊びました。そういう意味ではゲームの成長とともに思春期を過ごしたことになります。大学生になってからも、映画の勉強をしつつゲームのプレイは続けており、卒業後はいろいろあって就職はせずに、自主映画を撮りながらゲームショップでアルバイトをしていました。

 そもそも、映画作りが好きというよりは、「自分の世界を表現したい」という思いで撮っていたんです。ゲームショップで働いてたときに『moon』や『UFO -A day in the life-』をはじめとしたラブデリック系や『killer7』、アドベンチャーゲームで言うと『クロス探偵物語』のような個性的なゲームをプレイして、「ゲームでも自分の世界を表現できるんだ」と気づいたのが転換点でしたね。そしてそのころに知り合いから、アプリ版『探偵 神宮寺三郎』シリーズのシナリオの仕事を持ちかけられたので、「やります」と答えたのが、シナリオライターとしてのキャリアのスタートです。

――どのような経緯でアプリ版『探偵 神宮寺三郎』のお話が来たのでしょうか。

小高:大学を卒業してすぐのことなんですが、深作欣二さんがイベントCGムービーの監督として関わった『クロックタワー3』というゲームのモーションキャプチャーの撮影に、大学の教授の勧めで助監督として参加していたんです。そのときに仲良くなったゲーム会社の方から、『探偵 神宮寺三郎』のシナリオを依頼していただきました。

――アプリ版『探偵 神宮寺三郎』のシナリオを担当後は、どのような流れでスパイクに入社されたのでしょうか。

小高:アプリを手がけているときはゲームの仕事がたくさんあるわけではなく、シナリオを書きながら自主制作映画を作っていたのですが、友人の先輩の上映会に行ったらカメラを盗まれてしまったんです。 20数万円もするカメラで、当時の僕としては大ショックでした。「自主映画を好きな人たちが集まる場所でこういうことが起きるんだ……」と心が折れてしまい、賞に引っかかる作品は徐々に作れるようになってはいたのですが、映画作りに見切りをつけました。

 その時点で30歳に近かったので、働かないといけないとは思ったのですが、就職するにしても映画以外なにもしてなかったので、スキルがありません。可能性があるとしたら、シナリオを書いた経験があったゲームくらい。それでゲーム会社を受けようと思ったのですが、「自分の世界を表現したい」という思いがあったので、できる限りオリジナルゲームを作りたいと考えました。大手メーカーに入社してしまうとそれは無理だと考え、『喧嘩番長』や『爆走デコトラ伝説』など尖ったタイトルを手がけていたスパイクを受けた形ですね。

――たしかにスパイクは尖ったタイトルが多いですよね。

小高:当時素人だった僕でも、「どうしてこんな企画が通ったんだ」と思うようなタイトルがリリースされていましたから(笑)。

――そしてスパイク入社後に「ダンガンロンパ」シリーズを立ち上げています。その経緯を教えていただけたらと思います。

小高:もともとオリジナル作品を作りたいと思って入社したのですが、当時のスパイクの開発は基本的に受託案件となっていて、オリジナルタイトルは外注していたんです。僕はそれを知らずに入社し、半年ほど受託案件の手伝いをしていたのですが、そのあとに『名探偵コナン&金田一少年の事件簿 めぐりあう2人の名探偵』を担当しました。ある日、上司から「小高はシナリオ書けるらしいけど、『金田一少年の事件簿』と『名探偵コナン』のコラボシナリオはどうだ?」と言ってもらい、「書けます」と返事をしたら「それじゃ受けるね」と。いま振り返ると、入社半年の新人にそんな大仕事を任せるのはどうかなと思いますが(笑)、うれしかったですね。

 発売後も担当したシナリオが好評だったので、「このタイミングなら企画を立ち上げられるかもしれない」と、オリジナル作品の提案をはじめました。当時はPSPとニンテンドーDSという携帯機が主流の時代かつ、僕が得意なアドベンチャーゲームがあまり売れていなかったので、企画は何回も提出しましたが、「予算を安くしたとしても厳しい」と、そのたびに弾かれてしまっていました。そんなとき「ダンガンロンパ」の雛形となる“バトルロイヤル・推理モノ・高校生がデスゲーム”のシチュエーションを思いついて、企画書に落とし込んだら、チーム直属の上司が「すごく面白いから会社に上程してみよう」と言ってくれたんです。当時のスパイクはさまざまな部署が企画を見て判断をしていたのですが、「学級裁判のようなノリはいじめを助長する可能性がある」ということで、自信満々に上程したのに弾かれてしまいました。

 ただ、それでも諦められませんでした。当時の企画書にも犯人(クロ)は処刑されるというコンセプトを書いていたこともあり、説得力を持たせるために実際の処刑シーンがあった方がいいかもしれないと、次の提出用にモック映像を気合を入れて作りました。そのときに作ったのが、初代『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』の最初のオシオキで、製品版にもほぼそのままの演出で実装されています。僕らからすると、「かっけえ」「すげえ」と満足のいく出来だったのですが、プレゼンの場で披露したら「さすがにエグすぎる」と静かになってしまい、さらに実現から遠ざかってしまいました(笑)。

 僕のなかでは自信があったので、「次もダメだったらスパイクを辞めてどこかのメーカーに持ち込めば絶対通るだろう」と考えていたのですが、「それなら社長に直談判したらどうか」と進言を受けました。いきなり社長に企画を持っていくのは普通の会社ならタブーですが、「奥の手で1回やってみたらどうか」と言われて持っていくと、「いいんじゃない」とOKをもらえたんです。「そんなに軽く判断していいのかな」と思いつつ、開発に取りかかることになりました。とはいえ、アドベンチャーゲームが売れない時代だったので、低予算かつ少人数で、本当に勢いだけで作った記憶があります。

――『ダンガンロンパ』は小高さんの企画・シナリオがありつつ、「サイコポップ」というテーマを象徴する小松崎類さんのキャラクターデザインも人気が出た要因のひとつだと思いますが、小松崎さんが参加したきっかけはどのようなものでしたか。

小高:先ほどもお話したように、当時のスパイクの開発は外注が多かったのですが、僕も含め「オリジナルゲームを作りたい」社員もいたんです。そういう人は主に喫煙所で気持ちを吐露していたのですが、そこに小松崎もいて知り合いました。小松崎はゲームのエフェクトを担当していたのですが、造形の大学を卒業して絵が描けると聞いていたので、『ダンガンロンパ』の企画書を考えるときに頼みました。それまで彼はキャラクターデザインをはじめ絵を描く仕事は一切したことがなく、ポップなイラストを依頼したのですが、本人的には本来の画風とは全然違うので、当時は正直嫌だったらしいです(笑)。ただポップすぎずアニメにも寄せていない独特な絵柄で、いまでは僕らの作品になくてはならない要素ですよね。そんな感じで、初期「ダンガンロンパ」の開発メンバーは、スパイク内のアウトローが集まっていました。

――そうして発売されることになった『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』ですが、リリース前後の反響や当時の売れ行きはいかがでしたか。

小高:まずリリース前の話をすると、どこかのタイミングで「モノクマ」に大山のぶ代さんを起用してみたいと冗談の雰囲気で言ってみたら、当時のプロデューサーが、「もしかしたら音響会社のツテでいけるかもしれない」と言い出して(笑)。『ドラえもん』降板後に脳梗塞を発症されたあとのタイミングで、復帰作としてオファーした形になりました。その後、「気になるので、ぜひ話をおうかがいしたい」とスパイクにお越しになられたときは社内がざわつきましたね。企画の説明をして、モノクマのセリフの資料をお渡ししたら、その場で喋っていただいて、「ドラえもんだ……」と感動しました。「オシオキ」も大山さんが「処刑という言葉は嫌だわ」とおっしゃられたので変更したセリフですが、言葉をマイルドにすることでモノクマの怖さが増した結果になりました。

 そして、新規IPだったにもかかわらず、大山さんの復帰作という形でYahooニュースでも大きく取り上げられて、社内ではもしかしたらいけるんじゃないかという空気でしたが、発売初週の売上は良くなかったんです。当時のゲームはダウンロード版もなかったので、出荷初週で何パーセント売れたという結果を見て、販売店が追加発注をかける消化率を非常に気にしていました。『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』の消化率は低く、「アドベンチャーゲームはやはり厳しいのかな」という雰囲気でしたが、なぜかその後も毎週数千本が売れているんです。普通は発売初週から徐々に売上は下がっていくんですが、“ジワ売れ”が続く状況にありました。なぜだろうと思って調べると、有名なアニメクリエイターの方や作家さんが、Twitter(現X)で絶賛してくれて口コミで広がっていき、結果的には半年ほどで10万本を突破しました。

――『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』のリリース翌年には、星海社から『ダンガンロンパ/ゼロ』が発売されていますが、こちらはいつごろスタートした企画なのでしょうか。

小高:星海社さんからは、リリースから1〜2か月ごろに声がかかりました。僕自身は発売後もプロモーションの仕事で、「ダンガンロンパ」に関するテキストを書いていたのですが、ほかの開発メンバーはまた外注の仕事に戻されていました。そのままチームが解散して「ダンガンロンパ」が終わることを避けたかったので、 会社に「この依頼があった小説の仕事をどうしてもやらせてほしい」とお願いして、半年ほど粘っている間になんとか売上10万本を達成して、ギリギリ続編制作にこぎつけられた形ですね。

トゥーキョーゲームス立ち上げ、そして“全ベット”の最新作へ

――『ダンガンロンパ』開発初期のお話を伺いましたが、現在小高さんはスパイク・チュンソフトから独立され、トゥーキョーゲームスを立ち上げられました。立ち上げの経緯や理由についてお聞きできればと思います。

小高:まず、スパイク・チュンソフトが嫌いになって辞めたわけではありません。実際に退職後も『レインコード』で一緒に仕事をしていますしね。これについては、ゲーム以外にもアニメや漫画など、さまざまな仕事を同時進行でやってみたかったという点に尽きます。

――自分たちのやりたいように活動していくために、トゥーキョーゲームスを立ち上げたということですね。

小高:もともと、巨大な開発チームを持とうとは思っておらず、もし会社が潰れてもみんなフリーランスで生きていけるだろうというくらいの軽い気持ちで、少人数だけを抱えています。いまは働き方改革で残業をするのが会社勤めだと厳しくなり、自分がもっと働きたくても働けない環境になっているのですが、僕や音楽の高田(雅史氏)やシナリオの打越(鋼太郎氏)、キャラクターデザインの小松崎は、役員なのでいくら働いてもいいんです(笑)。働きたいだけ働けて、やってみたい作品を片っ端からやれています。もちろんその分大変なとこはありますが、僕たちにはそういう働き方が合っていたのかなと思いますね。

――トゥーキョーゲームスは「Nintendo Direct 2024.6.18」で、新作『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』を発表しました。発表直後で難しい部分はあると思いますが、可能な範囲でお話いただければ幸いです。

『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』ティザーPV(Nintendo Switch™/Steam®)

小高:『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』は、トゥーキョーゲームスの総決算・集大成のようなタイトルになっています。まだトレーラーしかお見せできていないので、作品の触りしか伝わっていないと思いますが、プレイしてみたら度肝を抜かれること受けあいです。我々の全精力を狂気的なまでに注ぎ込んで作っています。また、僕と打越鋼太郎という2人のシナリオライターが、初めて同じ作品でシナリオを書いているので、いったいどのようにして2人が書き分けてるのかも注目してほしいです。

――『HUNDRED LINE』への思いも含め、小高さんの今後の創作活動で目指したいことについてお話いただければと思います。

小高:『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』は、待望のトゥーキョーゲームスがはじめて原作権を持っている自社IPです。「ダンガンロンパ」シリーズや『レインコード』は当然スパイク・チュンソフトさんのものですし、『TRIBE NINE』はアカツキゲームスさんのものですが、『HUNDRED LINE』は“僕らのもの”なんです。その代わりパブリッシャーであるANIPLEXさんと製作費を出し合って作っていて、トゥーキョーゲームスの身の丈に合わないほどの金額をかけていますから、なんとか完成させて世に出さないといけません。死ぬか生きるかの瀬戸際なので、あまり先のことは考えられない状況ですね。一般的な会社なら現実的なラインで制作すると思いますが、僕らはいつ倒産しても構わないので、『HUNDRED LINE』に“全ベット”しました。ユーザーのみなさんには、僕たちが散るか生き残るか、見届けるチャンスだと思ってもらえれば(笑)。

――最後になりますが、リリース済み最新作『レインコード』のパワーアップ版である『超探偵事件簿 レインコード プラス』が7月18日に発売予定です。小高さんの作品を応援しているファンに向けて一言お願いします。

小高:『レインコード』はカナイ区の独特な街並みを自分で操作して歩き回って、さまざまな人とやり取りするという探偵としての面白さを楽しめる作品だと思っています。移植するにあたって、ゲーム性に手を入れるのではなく、あくまでビジュアルや快適さを改善しており、ロード時間が非常に短くなったり、グラフィックが綺麗になって住民の数も増えたりしているので、『レインコード』で味わった感覚はそのままにパワーアップしたゲーム体験をお届けできると思います。『レインコード』の世界観を楽しんでくれる人が増えてくれたらうれしいですね。

■HUNDRED LINE -最終防衛学園-
https://hundred-line.com/

■超探偵事件簿 レインコード プラス
https://www.spike-chunsoft.co.jp/raincode/plus/

■TRIBE NINE
https://tribenine.tokyo/

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