歌広場淳×ゲームクリエイターじゃんきち対談 アナログ推理ゲーム・マーダーミステリーが与えてくれる「日常からの解放」

 大のゲームフリークとして知られ、ゲーマーからの信頼も厚いゴールデンボンバー・歌広場淳による連載「続・格ゲーマーは死ななきゃ安い」。今回は特別編として、歌広場がいま最も話をしたいというゲームクリエイター・じゃんきち氏との対談をお送りする。

 現在注目を集める、アナログ推理ゲーム「マーダーミステリー 」。プレイヤー全員が“殺人事件”に関係するキャラクターになり、協力しながら事件の真相を暴いたり、自分自身が抱える秘密を守り、個々人の目的を達成したり……という、会話による駆け引きが魅力のゲームだが、そのなかで、歌広場が「人生が変わる」というほど絶賛する傑作『ランドルフ・ローレンスの追憶』を手掛けたのが、じゃんきち氏だ。

 デジタルゲーム百花繚乱の時代に、なぜこの「マーダーミステリー 」が人を惹きつけるのか。その奥深さから、“ネタバレ厳禁”という制約のなかで魅力を伝える難しさ、『ランドルフ・ローレンスの追憶』の制作秘話まで、じっくり語り合ってもらった。(編集部)

「俺の人生にこんなことが起きるの!?」という衝撃(歌広場淳)

――歌広場さんがいま最も話をしたいゲームクリエイター・じゃんきちさんとの対談が実現しました。まず、お二人の出会いから聞かせてください。

歌広場:そもそもは僕が、じゃんきちさんが手掛けたマーダーミステリーのシナリオ『ランドルフ・ローレンスの追憶』をプレイしたのがきっかけです。ただそのとき、実はゲームマスター(GM)が別の方(マーダーミステリー専門店「Rabbithole」の酒井りゅうのすけ氏)だったんです。実際にプレイして、「これはヤバイ!」と感動に震えていたときに、「実は、このゲームを作った人がいま、東京にいるんですよ」と教えていただいて。「ぜひお会いしたいです!」ということで、そのあと食事にいかせていただいたのが、最初の出会いですね。

じゃんきち:私は福岡の人間なのですが、よく東京に出張公演をしに行っていて、たまたまタイミングが合ったんですよね。

歌広場:それからリアルで何回かお会いしたのですが、いつも興奮しています(笑)。

――逆にじゃんきちさんは、歌広場さんにどんなイメージを持っていましたか?

じゃんきち:もちろん、私は歌広場さんのことを一方的に存じ上げていたのですが、それは“ゴールデンボンバー・歌広場淳”としてというより、各分野の有名人が集まり、人狼ゲームをプレイする大型イベント「アルティメット人狼」で活躍されている姿が印象的だったんです。ゲームにおいても、エンターテイナーとして振る舞うことを意識されている方だな、というのが第一印象で、他の出演者との意識の違いが感じられて、とても感銘を受けたことを覚えています。一度、一緒にマーダーミステリーをプレイしたこともあるのですが、そのときも「じゃんきちさん、面白くしようね!」と言ってくださって、素晴らしいなと思いました。

歌広場:じゃんきちさんも、もともと人狼ゲームのプレイヤーで、福岡で人狼のお店をやっていたんですよね?

じゃんきち:そうですね。私の略歴を簡単にお話ししますと、普通に会社員として勤めた後に、ゲームプランナーに転職しました。そこでソーシャルゲームのガチャとか、キャラクターのパラメーターなどを設計する仕事をしながら、趣味で人狼をしていたのですが、一緒にプレイしていた人に「一緒にお店をやらないか」と誘っていただいて、雇われ店長になったんです。そこでオリジナルの人狼ゲームを作ろうという話になって、どの役職が何人いるのか非公開でゲームを始める『パンドラの人狼』というコンテンツを作ったのが、2年前くらい。そのなかでマーダーミステリーにハマって、シナリオを制作しようと考え、『ランドルフ・ローレンスの追憶』が初演を迎えたのが2019年の11月でした。

歌広場:そんなスピード感で、あの傑作が生み出されていたんですね……!


――まさに歌広場さんがマーダーミステリーというゲームジャンルにハマるきっかけになった作品ですね。

歌広場:いろんな人から「『ランドルフ』を一発目にやってしまったのは不幸だよね」と言われて(笑)。でも、あれが一発目じゃなければ、マーダーミステリーという文化にここまで興味を持たなかったと思うんです。最初に『ランドルフ・ローレンスの追憶』という物差しを手にしてから、他のシナリオをプレイできるというのは、結果的に幸運だったんじゃないかなって。これを言ってしまうと角が立つかもしれませんが、今のところ、『ランドルフ』を超える感動や興奮にはまだ出会えていません。

 マーダーミステリーって、本当に難しいんですよね。「ミステリー」という性質上、一度しかプレイできず、ネタバレは厳禁なので、その面白さを広く語ることができづらくて。世間話のレベルでも「未プレイの人が聞いていたら楽しみを奪ってしまうかも」なんて考えてしまうし、どうしてもクローズドな世界になってしまう。そういうものを広めようとしている人たちの挑戦は、本当に興味深いと思っています。このインタビューを読んでくださる方も、なんとなくその「すごさ」を想像して楽しんでもらえたらいいんですが。

じゃんきち:そもそも、歌広場さんはどんなきっかけで『ランドルフ』をプレイすることになったんですか?

歌広場: 人狼倶楽部オーナーのいがこさんという、僕にとっては「人狼でこの人が言うことを聞いていれば間違いない!」という人に誘ってもらったことがきっかけですね。マーダーミステリーというものが流行り始めているのはなんとなく感じていたものの、「マーダーミステリー」という言葉を聞いて、「はいはい、殺人が起きて、犯人を見つけるんでしょ?」と高を括ってしまっていて、踏み出せなかったんです。これもネタバレを避けて伝えるのが難しいのですが、そこで『ランドルフ』をプレイして、「俺の人生にこんなことが起きるの!?」と衝撃を受けた、という流れでした。

じゃんきち:少しだけお話しすると、普通、マーダーミステリーには、シナリオに「誰々がこういう状況で殺害されていた。犯人はいったい誰だ?」という説明書きがあるのですが、『ランドルフ』には、最初に誰が殺されているという説明がないんです。いろんな意味で”死角から殴ってくる”タイプのシナリオなので、より楽しんでいただけたのかもしれないですね。

歌広場:『ランドルフ』には本当に熱いファンが多くて、みんなその熱をどうやって発散しているのかな?と思います。僕は自分が好きなものを人に紹介するのが生きがいのようなもので、本当は「『ランドルフ・ローレンスの追憶』、いいよ!」と言いたいのに、その前にマーダーミステリーについて説明しなければいけない、という歯痒い状況だったりします(笑)。

アナログゲームの最大の魅力は「会話」(じゃんきち)

――TRPG(※テーブルトークRPG。ダイスなどを用いて行なう、マーダーミステリー同様“会話型”で進めるロールプレイングゲーム)の流行もあり、マーダーミステリーのネット配信も増えていて、認知度は徐々に高まっていますね。

歌広場:僕、もともとTRPGが好きなんですよね。これは格闘ゲームが好きな理由でもあるんですけど、押し付けられる部分が少なく、自由度が高いじゃないですか。コンピュータゲームのRPGにも、もちろん自由な部分はあるけれど、基本的には用意されたものをクリアしていくという感覚があって。その点、格闘ゲームだったら「技は用意したから、あとは自由に戦ってね」ですから。僕は中学生くらいの頃、よく友人と集まってTRPGをやっていて、僕がGMとして「あなたたち勇者一向は新しい村に着きました。どうしますか?」と進行すると、友人は「村人に斬りかかる」とか言うんですよ(笑)。それはやりすぎかもしれないけれど、村人から勇者に手痛い反撃をさせて軌道修正したりしながら、そういうぶっ飛んだプレイをさばくのがまた楽しくて。デジタルだとやれることとやれないことがはっきりしていて、釈然としないことが多いんですよ。川の向こうの目的地に行けなくて、「そんな距離、泳げよ!」と思ったり(笑)。

――マーダーミステリーも、シナリオや、キャラクターそれぞれに与えられる「目的」がありますが、自由な発想でプレイすることができますね。あらためて、よく知らない人にその魅力を伝えるとすると?

歌広場:どうすればマーダーミステリーというものに興味を持ってもらえるかと考えてきたのですが、その魅力を一言でいうなら、「秘密」だと思うんです。基本的にマーダーミステリーには、プレイヤー全員で解決しなければいけないメインミッション(主に殺人事件)の他に、それぞれが「秘密」を抱えていて、目的を達成するというサブミッションがあって。普通に生きていると、誰にも知られてはいけない「秘密」なんて持ちにくいじゃないですか。マーダーミステリーはゲームの性質上、スタートした瞬間から非日常を味わうことができるんです。

 例えば、あなたは殺人犯です。あなたには秘密の恋人がいて、アリバイをうまく証明して無実にしてくれそうだけれど、そうすると、二人の関係がバレてしまう。そんなとき、あなたならどうやって自分と恋人を守るか……と。これまで考えたこともなかった問題に対して、用意された選択肢ではなく、自由な発想で最適解を導き出そうとするのが本当に面白いんです。じゃんきちさんはどうですか?

じゃんきち:私は小さい頃からテレビゲームを遊んでいて、アナログなゲームは、デジタルなゲームよりできることが少ないと思い込んでいたんです。アナログゲームにはグラフィックもないし、ド派手な魔法のエフェクトもない。けれど、アナログゲームにしかない魅力の最大のポイントとして、「会話」というものがあって。デジタルなゲームにもボイスチャットなどはありますが、敵のキャラクターと自由に会話することはできません。会話は人間にとって最大の娯楽だとも言われていて、いつの時代も井戸端会議で長い時間を潰しているように、「話す」のって本当に楽しいことなんです。

 そして、人狼ゲームやマーダーミステリーは、その「会話」に目的を与えてくれるツールとして非常に優れています。普通のRPGだったら「たたかう」のコマンドを押すところが、「あなたはこういう行動をとっているので怪しいと思います」と言葉で指摘することが攻撃になる。「ぼうぎょ」もアリバイを組み立てて相手の指摘をかわしたり、周りの人を説得するということになります。ただコマンドを押すよりものすごく頭を使うし、それがとても面白いところなんです。

歌広場:そうですね。人狼ゲームをしていると、早い段階で死んでしまったプレイヤーが手持ち無沙汰になる、ということがあって。そうすると、同じく早めに脱落した人たちとずっと話していたりするのですが、実際にゲームをしている時間よりゲーム後の雑談の方が楽しかったな、と思うことがあるんです。目的を持った会話ももちろんですけど、ゲーム内外での「雑談」も促進してくれるんだから、これだけおしゃべりな僕は、それはハマってしまいますよね(笑)。

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