「ダンガンロンパ」生みの親・小高和剛にとっての“ADV創作”とは? 根底に流れる「自分の世界」へのこだわり

小高和剛にとっての“ADV創作”とは?

 リアルサウンドテックの連載「ゲームクリエイターの創作ファイル」では、“ゲーム作り”にフォーカスしてクリエイターたちにインタビュー。その真髄に迫っていく。

 第3回は「ダンガンロンパ」シリーズで知られ、2023年に発売された『超探偵事件簿 レインコード』のパワーアップ版や、先日発表された新作『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』の発売を控えた小高和剛氏に、シナリオライターになったきっかけや手がけた作品のエピソード、そしてアドベンチャーゲームに対する熱い思いについて聞いた。(SIGH)

開発思想から異なる『超探偵事件簿 レインコード』と『ダンガンロンパ』

――直近でリリースされた『超探偵事件簿 レインコード』が2023年6月に発売され、1年ほど経ちましたが、発売後の反響から振り返っていただいてもよろしいでしょうか。

小高和剛(以下、小高):『超探偵事件簿 レインコード(以下、レインコード)』は「ダンガンロンパ」シリーズとは毛色が違う、新しい推理アドベンチャーを作りたいという思いから生まれたものです。その結果、似ているという声も全然違う体験だという声もありましたが、作品としてはおおむね好評をいただいたので良かったですね。

――代表作と言えば「ダンガンロンパ」シリーズと考える方も多いと思いますが、先ほどもお話に出た『レインコード』と「ダンガンロンパ」シリーズとの違いについて、詳しく教えていただけますか。

小高:「ダンガンロンパ」シリーズは2D、いわゆる絵をメインとするゲームです。シリーズ第1作の『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』は予算も時間もあまりない状況で作らなくてはならなかったので、そういう形になったという経緯があります。「ダンガンロンパ」も終わったシリーズではないと僕は思っているのですが、新しいゲームを作るにあたって3Dでリッチなゲーム体験が味わえるタイトルを作りたいなと考えて、『レインコード』の企画をスタートさせました。同じ推理アドベンチャーのジャンルですが、開発への意識がまったく違います。

――2Dと3Dではゲームの作り方自体が異なると思います。特に制作時に感じた違いを教えてください。

小高:2Dではテキストで説明しないと絵が動きませんが、3Dの場合はキャラクターを動かすことで文章が不要になります。たとえば誰かを殴った場面があったとして、2Dだとセリフや地の文で状況を説明しないといけませんが、3Dだとテキストにしなくても表情やキャラクターの動きで演出することができます。3D作品で事細かにテキストに書きすぎてしまうとテンポが冗長になってしまうこともあり、どちらかというとゲームよりアニメのようなイメージでした。

――シナリオを執筆する際は、キャラクターが発するセリフの“間”も意識されると思いますが、そちらも変わりましたか?

小高:2Dの場合は、基本的にテキストウィンドウに出てくる1つのセリフを1つの表情ですべて言い切らなくてはいけません。たとえば1行目では怒って、2行目は笑うという演出は難しいんです。一方、3Dの場合はセリフごとに表情を変えられるので、テンポ感や“間”の表現は意識しましたね。

――これまでミステリー作品を多く手がけられてきましたが、特に考案するのが大変だった、苦労したというシナリオやトリックについて教えていただけたらと思います。

小高:トリックを考えるのはいつも大変ですが(笑)、最近は僕ひとりではなくて、推理小説家の北山猛邦さんと一緒にトリックを作っています。主に北山さんが物理的なトリックの方法を考えて、僕がそれに付随するドラマや謎の解き方を組み立てていく形ですね。また、トリックの描き方も2Dと3Dで異なっています。2Dの場合は一見不可能そうなトリックもテキスト表現を工夫すれば成立させられるのですが、3Dだとグラフィックとして事件現場が再現されるので、距離感や人の立ち位置が嘘臭くならないようにしなくてはならないんです。トリックがプレイヤーに「本当にできるのかな」と疑われないように、すり合わせに結構苦労しましたね。

――「ダンガンロンパ」シリーズはポイント&クリック形式のアドベンチャーでしたが、『レインコード』はプレイヤー自ら歩き回って調査をおこなう形でした。

小高:トリックを考案しても、3Dゲームだと事件現場における距離感で不可能になってしまうこともあるので、オブジェクトの配置や背景の描き方を調整することも多かったですね。基本的にゲームの通路はアクションができるように現実よりも広めに作られているのですが、通路が大きくなりすぎてしまうと密室が作れなくなるなど、推理ものではシナリオに支障が出てしまいます。キャラクターがスムーズにアクションできるような広さを確保しつつ、トリックが成立するリアリティを担保できるように気を遣いました。 そしてこれは「ダンガンロンパ」のころからそうですが、物語終盤のトリックは事件の謎としてもドラマとしてもクライマックスなので、それまで積み上げてきたハードルを超える展開を生み出すのは大変ですね。

――ご自身が手がけられてきたタイトルで、特に自信がある、手ごたえを感じているシーンや作品を教えてください。

小高:これまで作ってきたタイトルは、全体的に良かったと思っています(笑)。ただ、ひとつ挙げるとしたら、僕がスパイクに入社して最初に手がけた『名探偵コナン&金田一少年の事件簿 めぐりあう2人の名探偵』(2009年)でしょうか。「週刊少年サンデー」と「週刊少年マガジン」の創刊50周年企画の一環で制作されたゲームで、珍しいトリックを使っているのですが、一部のミステリファンがいまだに取り上げてくれることも多いので、うれしく思っています。

――逆に、手がけられてきた作品での心残りや、いまだからこそ言えることはありますか。

小高:発売後の反響を見ると、「こうしたら良かったかな」と反省点が浮かび上がることもありますが、毎作で僕に可能な範囲でベストを尽くしているので、それは次の作品に生かしたいと思っています。「ダンガンロンパ」シリーズの初期など、昔は誤字があると「しまった!」と思っていましたが、いまはパッチやリマスターを制作した際に直すことも可能ですし、自分が作った作品をマイナスな気持ちでとらえることはありません。

 ただ、『デスカムトゥルー』という実写ゲームは、2~3時間でプレイできて値段も映画と同じ価格帯の1980円で「行動を選べる映画」がコンセプトでしたが、『428 〜封鎖された渋谷で〜』のようにもっと長くプレイしたかったという反応がありました。しかし、そうすると「映画」というコンセプトから外れてしまいますし、販売価格や長期間撮影スケジュールを押さえる都合上、出演俳優も変わってしまいます。心残りというわけではないのですが、ゲームという媒体で展開する以上、映画と同等の価格であっても映画として受け止められないのかな、と思った記憶がありますね。

ADVは少人数の力で大作ゲームに肩を並べるほどの感動をプレイヤーに与えられる

――数々の名作アドベンチャーを生み出してきた小高さんにとって、ゲーム制作をおこなううえで最も大切だと考えていることを教えてください。

小高:いまはPvPゲームやeスポーツが流行って、ゲームがコミュニティの場になる流れが主流になってますが、いまのところ僕はシングルプレイのタイトルにこだわっているんです。現実世界でクラスになじめなかったり、ひとりで過ごすのが好きだったりする人は、「どうしてゲームのなかでもコミュニティを作らなきゃいけないんだ」と思いますよね。僕はゲームの向こう側に人間がいるのが嫌で、オンラインゲームやPvPのようなゲーム内で人に関わるタイトルはまったくプレイしていないんです。『孤独のグルメ』ではないですが、“孤独のゲーム”のようなイメージでプレイしたい気持ちが強い。シングルプレイのタイトルを好きな人に僕たちのゲームを買ってほしいと思っていますし、そこにこだわりを持ってゲームを作っています。

――それでは、今後もシングルプレイのタイトルにこだわってゲームを制作されていくと。

小高:オンラインゲームやPvPゲームにはプレイヤーとして接していないので、そもそもどうやって作ったらいいのかもわからないですからね。将来的には考え方が変わるかもしれませんが、いまは作りたい気持ちもありません。アカツキゲームスさんからリリース予定の『TRIBE NINE』は、世界観設定やキャラクターデザイン・サウンドをトゥーキョーゲームス(※)が担当していますが、実際にゲームの中身を作っているのはすべてアカツキゲームスさんです。運営型のモバイルゲームについて無知な僕らでは、「こうするべき」という答えが見つからないので、『TRIBE NINE』についてはアカツキゲームスさんを信頼してお任せしています。僕がディレクションをしてシナリオを担当するタイトルは、やはりシングルプレイのゲームにこだわっていきたいですね。

※…2017年に設立し、小高氏が代表取締役社長を務めるゲーム開発会社。

――小高さんの手がけられたアドベンチャーゲームは、ひとりで遊ぶからこそ楽しいのだと感じます。

小高:最初から人間とつながるのではなく、ひとりでゲームで遊んでいろいろな気持ちを抱えて、偶然同じ趣味を持つ人間が出会って思いを共有できたら楽しい。それはゲームの古い楽しみ方かもしれませんが、僕はそれを本当に良いことだと思っていますし、僕が作ったタイトルがそういった場を作れていることを誇りに感じています。

――近年はアドベンチャーゲームの話題作も多く、ジャンル自体が勢いを取り戻している印象です。そうした現状に関して、どのようにとらえていらっしゃいますか。

小高:僕もいちアドベンチャーゲームファンとして、近年のタイトルは多くプレイしています。面白くて特徴的なアドベンチャーゲームがリリースされるのはうれしいですよね。 大手メーカーに所属していなかったり、あるいは自分の力に挑戦したいと思っていたりするクリエイターがトライしやすいジャンルであり、少人数の力で大作ゲームに肩を並べるほどの感動をプレイヤーに与えられるのが、アドベンチャーゲームの良さだと思います。ただ、僕の意見としては、そういった小規模なアドベンチャーゲームで成功した人の次のステップとして、次回作はより大きなスケールで才能を発揮してほしいですし、大手メーカーもアドベンチャーゲームにもっと予算をかけてほしいと考えています。そうしないとまたアドベンチャーゲームが廃れる時代が来てしまうのではないかという懸念があります。

 インディーという規模におさめずに、世界的にも受け入れられるリッチな体験を追求して、プレイヤーに文字を読ませるだけではないさまざまな表現にトライをするアドベンチャーゲームが増えてほしい。『レインコード』も“国産の『ライフ イズ ストレンジ』”のようなゲームを作りたいという思いで制作しています。現在、アドベンチャーゲームはインディーに偏っているように感じていますが、同時に大規模タイトルも増えていったら、それこそジャンルが真に潤うということですし、健全な形かなと思っています。

――現在アドベンチャーゲームが元気なのは、小高さんたちが作られてきた「ダンガンロンパ」シリーズが裾野を広げたおかげという側面も大いにあると思います。トリロジーパックなどの発売で、作品にアクセスしやすくもなっています。

小高:ありがとうございます。テクノロジーは日々進化しているので、PlayStation Portable(PSP)で出たゲームをいまプレイしようとしても厳しいことが多いのですが、「ダンガンロンパ」は基本的に物語が密室空間で進行し、時代の古さを感じにくい。10代のプレイヤーにスマートフォンでプレイしていただくことも多いですし、ありがたいことですね。ただ、10年以上前のタイトルでありながら、作品のコアであり一番こだわった部分の「高校生たちの掛け合い」はいまでも通用すると、自分でも客観的に思います。アドベンチャーゲームの良い点もそこにありますし、おそらく現在のアドベンチャーゲームを10年後に振り返っても同じでしょう。

――アドベンチャーゲームは、時代によって体験が変化しにくいゲームジャンルだなと思います。

小高:そうですね。そもそもストーリーがメインという、ゲームとして省略化された表現だからこそ体験が古びないし、面白さの質がテクノロジーに大きく左右されることもありません。そのおかげで長く楽しんでいただけているのかなと思います。

――ちなみに近年のタイトルもプレイされているということですが、面白かったアドベンチャーゲームや、今後発売される作品で気になる作品はありますか。

小高:『NEEDY GIRL OVERDOSE』や『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』、『コーヒートーク』はもちろん面白かったですが、特に印象的だったのは相手の言葉を推測して物語を読み解いていく『7 Days to End with You』でした。これから発売するゲームで気になるのはそのままのタイトルですが、『立ち絵が変なポーズの恋愛アドベンチャー』で、あれはPVを見た瞬間に笑ってしまいました。推理アドベンチャーだと『ファタモルガーナの館』を制作した「NOVECT」さんの新作に大注目しています。

――『プロジェクトコード“M”(仮題)』でしょうか。

小高:はい。発売日は決まっていないようですが、グロそうな感じや滑らかに絵が動くところなど、勝手ながら初期の「ダンガンロンパ」シリーズを感じて期待していますね!

――それではゲームに限らず、小高さんの手がけられることが多いミステリージャンルで好きな作品はありますか。

小高:個人的にミステリーとしてベストだと考えている作品になってしまいますが、東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』が心に残っています。ミステリーにおけるトリックはパズル的な要素になってしまいがちで、「どうしてわざわざこんなことをするんだろう」と思ったりドラマが希薄になってしまったりするのですが、『容疑者Xの献身』はトリックとドラマが本当に高い次元で融合しているんです。自分もトリックを解くことで人間関係や感情が浮き彫りになるドラマを目標にしていますが、ミステリー作るうえで目指したい境地だなと考えています。

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