『クロノ・トリガー』の楽曲など手がける光田康典による“厳しめの”イヤホン・ヘッドホンレビュー そして語られる今日の音楽制作論

光田康典による音響機器レビュー

 日本のゲーム音楽を代表するコンポーザー/アレンジャー/プロデューサー、光田康典。彼は今日までに、スーパーファミコンの『クロノ・トリガー(1995年)』、プレイステーションの『クロノ・クロス(1999年)』、最近では『ゼノブレイド3(2022年)』や『Sea of Stars(2023年)』など、時代とハード、さらにはジャンルを超えて様々なゲームのサウンドトラックを制作してきた。『Sea of Stars』の制作元はカナダのSabotage Studioであることからも、その影響力はもはや海外にも波及していることが分かる。

 今回は、音楽リスナーとしても様々なジャンルに触れている同氏に、『SUPERIOR』(qdc)、『Signature PURE』(ULTRASONE)という2つのイヤホン・ヘッドホンについてインタビューを行った。また、本稿では今日の制作論にまで話が及んでおり、同氏がメインコンポーザーとして参加した『SOUL COVENANT』での“新たな挑戦”についても語られた。

「原点回帰であり新機軸」 光田が『SOUL COVENANT』で挑んだ“イメージの払拭”

ーーこれまでにあまたのゲーム音楽を制作し、様々なジャンルに対応してきた光田さんですが、リスナーとしても多様な音楽を聴いていると伺っています。今はどういったジャンルを聴かれていますか?

光田康典(以下、光田):最近はポストクラシカルを聴いてますね。それから、動画でいえば「Cercle」(※)をよく見ています。テクノやエレクトロニック系のDJを酒を飲みながらぼーっと眺めるというのが、最近の日課になりつつあります。昔からテクノは好きだったんですけど、最近再燃してきてますね。

【※Cercle……リオデジャネイロの山の上、パリのエッフェル塔や世界遺産など、世界中の絶景でDJプレイをおこないYouTubeやFacebookで配信するメディア集団】

ーー先日の『東京ゲームショウ2023』で展示されていたVRアクションゲーム『SOUL COVENANT』、光田さんはこちらの作品でメインコンポーザーとして参加されています。本作のティーザーにも、まさしくテクノ調の曲が使われていますよね。これまで光田さんが手がけてきた楽曲のイメージから離れているように感じたので、個人的には驚きました。

光田:そうですね。僕が作る曲ってオーケストラとか民族調のものが多いし、実際仕事でもそういう楽曲を求められます。でも実は僕、生まれた年代的にもエレクトロニック系の音楽がとても好きなんですよ。本来はシンセなどをたっぷり使って曲を書きたい方でして、今回『SOUL COVENANT』でそれができて本当に楽しかったですね。厳密には、本作の音楽はテクノとオーケストラが合体したような内容なんですけど。これまで自分のイメージもあってなかなかできなかったジャンルを、どうしてもこのタイミングでやっておきたくて。僕らの世代にとって、やっぱりエレクトリックなサウンドは重要なイメージソースなんです。

『SOUL COVENANT (ソウル・コヴェナント)』アナウンストレーラー

ーーVRというカッティングエッジなゲーム体験でありながら、光田さんとしては原点回帰的なところがあるんですね。ゲーム音楽のコンポーザーの皆さんは、ハードの進化と共にご自身の作家性を拡張してきた印象があります。作曲する上で、現在もハード由来の制約はあるのでしょうか?

光田:今はほとんどないですね。僕の感覚としては、任天堂の「3DS」の発売以降は自由にやれている気がします。ただ、“そのハードで鳴らせる最高の音を最初に実現する”、というのは現在も制作テーマとして考えていますね。僕はサウンドエンジニアからキャリアをスタートさせていることもあって、やはり“音質が良い”というところには強くこだわっています。それに関しては『クロノ・トリガー』のころから一貫しているつもりです。本作が発売された1995年は「スクウェア」という社名でしたが、そういった努力もあって当時のファンから“音の良い会社”というイメージを持ってもらえたように感じますね。

ーー『クロノ・トリガー(スーパーファミコン)』から『クロノ・クロス(プレイステーション)』へ移行する中で、使える音数が8音から16音に増えています。この段階ではそれほど変化はなかったのでしょうか?

光田:いや、実際は全然違いましたよ。文字通り倍になりましたし、ソフトに入れられる容量も増えたので、スーファミからプレステに移行する時には音楽の幅が広がりましたね。ただ、僕はひねくれ者なので、あえて「音色を狭めた」んですよ。当時、多くのゲームメーカーがハードの性能をフル活用するために色々なサウンドを詰め込んでいたんですけど、僕はミニマルな方向に行きたくて。だから『クロノ・クロス』ではギター1本やピアノだけで曲を書いたりしました。1音1音をちゃんと聴かせるようなサンプリングを、あえて当時はやってみたかったんですね。

ーー私が『クロノ・クロス』で最も好きな楽曲が「回想 〜消せない想い〜」なので、まんまと術中にハマっていました(笑)。それにしても、どうすればあのような美しいメロディが思い浮かぶのですか?

光田:やっぱりイメージが大事ですね。どういう状況か分からないと、むしろ全然書けなかったりします。だから「好きな曲を書いてください」みたいなリクエストだと困るという(笑)。イラストや説明があって、そのキャラクターが置かれている状況やシーンの詳細が分かるとアイデアが出てきやすいです。「回想 〜消せない想い〜」もそうでしたね。そこでどういう会話がなされているのか、全部テキストで共有されていました。

ーーメロの美しさは直近の『Sea of Stars』にも顕著です。本作はカナダのSabotage Studioが制作するゲームですが、言葉は違えどやはりイメージ先行で作曲されたのでしょうか?

光田:そうですね。この作品に関してもキャラクターのイラストやシナリオが先にありました。ただ『Sea of Stars』の場合は「90年代前半のスーパーファミコンのサウンドを再現する」というテーマもあったんです。それが意外と難しかったですね。今だと96kHzで録音したりサンプリングしたりするところを、意図的に32kHzぐらいまで落とさないといけないんですけど、それだけだとスーパーファミコン風にはならないし不十分なんです。8音という制限を加えたり、独特なエコーを付けたりします。

ーー再現しきれないんですか? ハードの制約と共に音楽も進化した感じですね。

光田:僕ら世代のコンポーザーって、おっしゃるようにハードウェアと一緒に成長してきたところがあるんですよね。なので、色々なことができるようになった今の状態から昔風の曲を作ろうとすると、精神的な意味で噛み合いが悪いんです。今の僕が気に入っているフレーズやコード感を昔のハード風に転用しようとすると、8音しか使えないスーパーファミコンの仕様だとそもそも音数が足りないんですよ。コンポーザーとしてできることが格段に増えた反面、昔でしか考えつかない発想や未熟だったから出来た部分というものがあり、良い意味でも悪い意味でも昔の自分にはかなわないところって確かにあるんだなと。……まぁでも、実際に出力するのは現在のハードなので、どんなに音を悪くしても昔より良い音になってしまうんですけどね(笑)。

ーーそういった要素が重なり合った結果、ファミコン世代のカナダ人が光田さんに辿り着くという事実に、個人的にすごく共感するんですよね。言葉も文化も違う人のはずなのに、一緒に育ったような感覚を持ってしまうというか。

光田:僕もうれしいですよ。自分では細々とやってきたつもりなんですけど、『Sea of Stars』のような作品に関わらせてもらえる機会をいただけるのは光栄です。本作は内容も面白いんですよ。シナリオもそうですけど、サウンド面のギミックもすごく良くて。昼から夜に変わるときに音楽もシームレスに切り替わったり、面白い試みがたくさんあります。

Sea of Stars | Coral Cascades (Mitsuda's first guest track!)

ーー『Sea of Stars』の「Serenade of Respite (Day) 」は懐かしさを感じさせつつ、どこかモダンな雰囲気に仕上がっていると思います。

光田:そうですね。今の「新しさ」って、ユーザー側の体験をデザインすることで生み出されるものでもあると思うんです。シチュエーションの組み合わせやストーリー次第で、様々なものを面白くできる気がしています。たとえば僕がインドネシアに行ったときの話なんですが、ホテルのロビーでガムランが鳴っていました。それが本当に素晴らしく感じられ、帰り際にCDまで買ったんですけど、東京で聴いてみたら何か物足りなくて(笑)。ブロック塀に囲まれ、飾り物がたくさん置いてあり、お香が焚かれたインドネシアのホテルの空間で聴いたから、あの音楽が魅力的に感じられたのだと気付きました。それと同じことが、表現としての音楽にも言えるように思います。

ーーそれはまさに「ゲーム」ならではの魅力だと思います。『クロノ・トリガー』しかり『クロノ・クロス』しかり、知らない世界を観光する面白さもありましたし、訪れる街々にそれぞれのBGMが用意されていて、先ほどの光田さんのお話にもあった“インドネシアでガムランを聴く”ような体験ができたり。

光田:そうなんですよ。しかもゲームの場合はビジュアルやテキストで場面や舞台を補完できるし、デフォルメだってできます。音楽で過剰に民族性や固有性を出さなくてもいいし、出してもいいんですよね。それゆえにサウンドに幅を持たせられる。ゲーム音楽の面白さはそういうところにあって、ポップミュージックを含めた「これからの音楽」にも応用できる考え方だと思います。『SOUL COVENANT』はVR作品でもありますから、またさらに深みのある表現ができそうです。「東京ゲームショウ」で展示されていたものよりも、完成版は音楽に少し手を加えるので、ぜひご期待ください。

「こんなに褒めるつもりはなかった」という光田 思わず褒めざるを得なかった2つの製品

ーーここからは光田さんによるイヤホン&ヘッドホンのレビューをお聞かせいただければと思います。まずは中国・深センに本拠地を置くブランド「qdc(キューディーシー)」のイヤホン『SUPERIOR(スーペリア)』の使用感からお伺いしてもよろしいでしょうか?

光田:僕はオーディオについては評価が厳しい方なんですが、これはちょっと褒めざるを得ません。とんでもないイヤホンだと思います。

ーー光田さんにそこまで言わせますか。

光田:それはもう。僕ら作曲家は家で使ってる音響機材がプロユースなので、カスタマー向けの製品とは値段に大きな開きがあるんです。でも、このイヤホンはそういうハイエンドなモデルと性能がほとんど変わらない。これが税込みで13,000円は安すぎるとさえ思います(笑)。

ーー具体的にはどういった部分が衝撃的だったのでしょう?

光田:とにかくバランスが良いですね。ローエンドの音って、普通の音響機材だと人間の耳に届かないんですよ。重低音はどちらかというと“体感する”サウンドなんですが、このイヤホンはそれが表現できているんです。音楽的な“ロー”がしっかり出てる。

ーー「qdc」は元々プロユースの製品を作っている会社で、『SUPERIOR』は同社初のカスタマー向けイヤホンなんです。

光田:なるほど……。しかしこれがエントリーモデルだとするならば、プロユースの製品は一体どんな音が聴こえるんでしょうか(笑)。僕が今使っているイヤホンは自分専用機としてオーダーメイドで作ってもらったものなんですが、それとほとんど変わりません。しかもそれがローエンドだけじゃなく、中高音すべてに言えます。せっかく自分用のイヤホンは耳の型までとってもらったのに……(笑)。

ーー大絶賛ですね……!

光田:いや、本当にこんなに褒めるつもりはなかったんです! 自分のためにも言っておきたいんですが、機材に関してはうるさいつもりなんですよ。それでもこのイヤホンは、「たしかに良いけどねえ……」みたいなレベルではないんです。

ーーちなみに、どんな音楽に向いているサウンドだと思われますか?

光田:僕はこれまで様々な種類の音楽を聴いてきましたが、おそらくこの製品はオールジャンルに対応していると言えるでしょう、ポップスもジャズもプログレも、全部良い音で聞かせてくれると思います。繰り返しになりますが、それをこの値段で実現できてしまうのは驚異的ですよ。

ーーBluetoothのイヤホンが多い中、本製品は有線です。個人的にはその点にもオーセンティックな魅力を感じました。

光田:そうですね。音質重視で聴きたい場合、僕も今のところは有線のほうが優勢だと思います。Apple Musicが「ロスレスオーディオ」の配信を始めましたが、Bluetoothの製品だとハイエンドモデルでもその恩恵を受けづらいんです。将来的には分かりませんが、よりリッチな音楽体験を求めるのなら、僕も今は有線をおすすめしたいですね。

ーー続いてヘッドホンですが、こちらはドイツのブランド「ULTRASONE」の「Signature」シリーズの最新モデル『Signature PURE(シグネチャー・ピュア)』です。DJユースに特化している製品で、まさに現在の光田さんのモードにも合致するのかなと。

光田:たしかにこちらは特定のジャンルにフォーカスした印象を受けました。これを装着して曲を書いてみたんですけど、すごくローが出るんですね。どちらかというとハイはあまり出ていない感じです。シンセを弾いてみると顕著に分かります。テクノやDJ系の音楽などは気持ちよく聴けるでしょうね。

ーーすでにDTMユーザーから好まれる傾向にあるようです。

光田:そうでしょうね。まさしくそういったテーマ性を感じました。ジャズも聴いてみたんですが、中域も出ているのでヴォーカルもはっきり聴こえます。目の前で歌っているような迫力があるので、ヒップホップやR&Bを聴く人にもうってつけですね。

ーーリスニングはもちろん、制作にも使っていけそうですね。

光田:それと、このモデルは密閉型のヘッドホンなのでL-Rの抜けがないんです。その分、音がセンターに寄ってくるんですよ。アンプか何かをかまして音の位相を調整するヘッドホンもあるんですが、このモデルはそれが必要ない。何もしなくてもスピーカーが正面にあるように感じられるので、音楽が自然に聴こえます。それと、このヘッドホン、見た目から想像されるより軽く感じました。それによって作業中の疲れが軽減されるので、かなりありがたいです。

ーー先ほどのイヤホンとはまた用途が分かれていて、違った使い道がありそうですね。

光田:そう思います。両方買ったとしても、それぞれのニーズに合わせて使えるのが良いですね。

■製品情報
qdc『SUPERIOR』
ドライバー:ダイナミック型(10mm径シングルフルレンジ)
ドライバー数:1DD / 1ドライバー(片側)
形式:密閉型
周波数応答範囲:10 – 40,000Hz
入力感度:100dB SPL/mW
インピーダンス:16Ω
外音遮断:26dB 
ケーブル/プラグ:高純度無酸素銅4芯ケーブル(約120cm)※ブラックカラーPVC被膜使用。
コネクター:カスタムIEM 2pin、プラグ(金属スリーブ使用ストレート):3.5mm3極
付属品:SUPERIOR Cable 3.5mm3極アンバランス、ソフトフィットシリコンイヤーピース:3ペア(S/M/L)、 ダブルフランジシリコンイヤーピース:3ペア(S/M/L)、クリーニングツール、オリジナルキャリングケース
生産国:中国
メーカー保証:本体1年 / ケーブル・付属品6ヶ月

〈品名・EAN・型番・希望小売価格〉
『SUPERIOR Piano Black』
EAN:4549325070078
型番:QDC-SUPERIOR-BK
希望小売価格:税込14,300円

『SUPERIOR Vermilion Red』
EAN:4549325070450
型番:QDC-SUPERIOR-RD
希望小売価格:税込14,300円

『SUPERIOR Cable 4.4-IEM2pin』
EAN:4549325070788
型番:QDC-SUPERIOR-CABLE44
希望小売価格:税込5,500円

SUPERIOR 製品ページ:https://www.aiuto-jp.co.jp/products/product_4660.php
SUPERIOR Cable 4.4 製品ページ:https://www.aiuto-jp.co.jp/products/product_4667.php

『Signature PURE』
型式:密閉ダイナミック型ヘッドホン
独自技術:S-Logic ® 3 テクノロジー/電磁波低減 LE テクノロジー
ドライバー:50mmマイラー
インピーダンス:32Ω
再生周波数帯域:8 – 35.000 Hz
マグネット:NdFeB
出力音圧レベル:114B
重量:約294g(ケーブル含まず)
付属品:2m着脱式カールケーブル 3.5mmプラグ、6.3mm変換プラグ(ネジ式)、 イヤーパッド(スエード製/装着済み)、キャリングバッグ
保証期間:2年
生産国:ドイツ

〈EAN・型番・希望小売価格〉
『Signature PURE』
EAN:4043941170100
型番:ULT-SIG-PURE
希望小売価格:税込 33,000 円

Signature PURE 製品ページ:https://www.aiuto-jp.co.jp/products/product_4587.php

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