AIによる"ニセモノの声"が氾濫 日本やハリウッドの俳優たちが表明する危機感
TVアニメ『名探偵コナン』の主人公、江戸川コナン風の声で人気曲を歌う動画が注目を集めている。動画のタイトルには「AIに歌わせてみた」とあり、流れる歌声は生成AIによって生成された“にせものの声”だ。
機械学習でAIに人間の声を学習させると、その声を使ってボイスチェンジャーを作ったり、歌わせたりすることができ、学習用のデータさえあれば俳優や有名人にそっくりな“AI声”を作るのも難しいことではない。
こうしたコンテンツを作ることについては現状、具体的な規制が無いため、世界中で議論が巻き起こっている。
現在の法のもとでは「人の声」そのものには権利が発生しない
生成AIによる声の模倣は今年の4月ごろからたびたび話題になっており、その後も技術・精度が進化し続けている。かつては動作環境を作るための専門的な知識や技術的なハードルがあったものの、現在はその障壁もぐっと低くなった。
最近では有名人の声を模した声で既存の楽曲をカバーする「AIカバー」が人気を集めており、前述の「歌わせてみた」もこうしたもののひとつ。AIカバー音声を簡単に作れるスマートフォン用アプリケーションも複数存在しており、生成された歌を聞いてみるとすこし機械的な発音が残る部分もあるものの「AIによる生成物である」とわかっているから気づける程度の違和感だ。有名歌手の声を模した楽曲の動画を偶然見かけて、そこに「○○さんの新曲です」あるいは「○○さんの声真似してみました」などと書かれていたら、それがAIによる歌唱だと看破することは容易ではない。
こうしたAIを作るには、対象となる人物の声をAIに機械学習させることが必要であり、おそらく前述のAIカバーは江戸川コナンの声を大量に学習している。そしてこうした行動、つまり「人の声や既存の著作物をAIの学習ソースにすること」は著作権法によって認められている。平成30年に改正された現行著作権法第30条の4の概要によれば、
「例えば人工知能(AI)の開発のための学習用データとして著作物をデータベースに記録する行為等,広く著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為等を権利者の許諾なく行えることとなるものと考えられます」
とあり、これに照らすと前述の「コナン風のAI生成音声」や、その制作過程における「コナンの声を大量に学習させる行為」には違法性がないということだ。筆者の個人的な感覚としてはこうした行為がコナン役を演じる声優・高山みなみ氏の肖像権やパブリシティ権を侵しているように感じるが、いずれの権利も現在の法のもとでは「人の声」そのものには発生しないという。