“異色”の音ゲー『サンバDEアミーゴ』はそもそもVR向きだった? プロデューサーに聞く「決まりから外れた楽しさ」を面白がる制作スタンス

異色の音ゲー『サンバDEアミーゴ』の過去と現在

オルタナティブを突き詰め、細分化が進んだ昨今のポップミュージックに切り込む

 

ーーVR版ということで、ハード・ソフト側でもこれまでと違う制約があったかと思います。

中村:分かりやすいところでいうと「VR酔い」でしょうか。最初は色々なところからタマが飛んできて、「どこからでもかかってこいよ!」というつもりで開発を進めていたのですが、いざ色々試してみると、緻密に譜面やステージを設計しないと酔ってしまうことが分かりました。

 VRはたしかに革新的で、我々の想像を超えてくれるんですが、まだ試行錯誤が必要な段階でもありますね。本作にも「ビルが上に移動する」演出があるんですが、チームの中には「私はこれで酔っちゃいます」と言う人もいました。我々もVRの開発は初めてだったので、やはりその点でも手探りだったんですけども、制作側としてはそういう状況も楽しいんですよね。制約をいかにして乗り越えていくかは、クリエイターの腕の見せ所でもあると思います。そういう意味では、「制約」は良くも悪くもなにかをもたらしてくれるものです。

ーーそういった制作を、世代間を超えたチームで実行できているのが素晴らしいと思います。今後はVRが当たり前の世代も増えていくでしょうし。

中村:先ほど話に出た『サンバDEアミーゴ(Ver.2000)』と同世代の企画スタッフも、実はVRで酔いやすい体質だったんです。その点でも彼の意見や感覚は貴重で、色々と研究を重ねられました。

ーー個人的にも、『ソニックアドベンチャー2』世代としては、「Escape From the City」の実装が心から嬉しかったです。本作では、他にもさまざまな層にリーチできるギミックが施されていますよね。ゲーム内スキンに『ぷよぷよ』や『スーパーモンキーボール』、『スペースチャンネル5』のデザインが採用されるなど、私はもう胸がいっぱいです。

中村:特定の世代にアピールしようという意図はなかったんですが、仰るようにセガがこれまでに発表した楽曲は、皆さん個々人の思い出に入り込んでいるものが多いようなんですね。どの曲が素晴らしいというよりは、“どの曲もそういった存在になりうる可能性”を秘めていると思っているんです。

 特定の思い出や感性はその世代に遊んでいたユーザーのものではあるものの、そのようなコンテンツが世界にたくさんあります。それらをできるだけ多く取り入れようとしたのが、本作です。そしてそのコンセプトは、セガの楽曲に限りません。

ーー『サンバDEアミーゴ(Ver.2000)』はラテンミュージックにおける古典的楽曲が多かったのに対し、今作ではより幅広く選曲されてますよね。まさにその開発思想に基づいた楽曲ラインナップだと感じます。

中村:当時は「こういうものです」というトレンドを作ると、そこにみんなが集まるような流れがあったと思うんです。たとえば、あるドラマが流行ったらみんながそれを見る、みたいに。けれど、いまは「俺はこれが好きだからこれを楽しむけど、そちらは詳しくないです」というような、さまざまなユーザーがさまざまなジャンルのさまざまな曲を自由に聴くという状況がある気がするんです。

 今回の場合は「ノリがいいもの」という抽象的な指標を設けて、その中に『ソニック』や『スペースチャンネル』が入ってきたという感じですね。現状にあわせて、できるだけ我々もそれに対応しました。

Escape From The City ... for City Escape

 それから、ユーザーはアミーゴに扮してプレイしていただくわけですが、設定としては20年前の世界観を引き継いでいます。時を経たいまの彼の立ち位置は、ラテンの世界から羽ばたいて世界規模のフェスのステージ上にあります。「いまは何でもイケるぞ!」と。「どんな曲でも俺が盛り上げてやるぜ!」というノリで全体を語れるように調整しています。今後も楽曲の数は増やしていく予定です。

ーー具体的な選曲はどのようにして行われているのですか?

中村:基本的にはチーム内の合議制ですね。先ほど言った「ノリ」についてなんですけども、海外と日本の音楽ではそこへの考え方が若干違う気がしています。ゲームデザインとしては、起伏に富んだ楽曲の方がやりやすいんですよ。そういった抑揚がある楽曲って、私の感覚では日本のほうが多いんですよね。海外のスタッフや、洋楽に詳しい人にも協力してもらったんですが、海外の音楽の中からそういう構成を持った楽曲を探すのに苦労しました。

ーーたしかにメリハリのある構成の楽曲は、音ゲーとしての快楽を追求する上でも必要な要素ですよね。

中村:そうなんです。本作にサウンドディレクターとして幡谷尚史が参加してるんですが、彼は『スペースチャンネル5』などの音楽を作ってきた人間でして。そんな彼がよく「キメ」という言葉を用いてリズムについて説明するんですけども、このゲームではそれが「ポーズ」として実装されてます。

 一般的な音楽ゲームで「キメ」はそれほど重要でないのですが、サンバの場合はダンスの要素も追求する必要があるので、本作においてはコンセプトとして大切な部分なんです。実はこの「ポーズ」は、初代『サンバDEアミーゴ』でも本当は実装したかったんですが、当時は経験も浅く制作期間も短かったので、技術的に難しくて。しかも、ポーズって静的な表現なので、“音ゲーの流れを止めちゃう”ような設計なんですよね。やはりリズムゲームにおいては当時からルールの外側にあった考え方だと思います。

ーー音ゲーとしてオルタナティブを突き詰め、細分化が進んだ昨今のポップミュージックに切り込む……企画の段階で相当な難しさがあったのではと推察します。

中村:いや、実際その通りでしたよ(笑)。ただ、過去のIPや作品にフォーカスするのって、そもそも個人の思い出にゆだねられる部分が多々あるんです。その点で、本作は昨今のリバイバルブームに合致するところもありました。セールス的に見ても音楽ゲームって難しかったりもするんですが、『サンバDEアミーゴ』にはパーティ要素があります。企画を通す際、社内の人たちにはいわゆる“音ゲー層”以外にも訴求できる可能性を説明することで納得してもらえました。

ーー試遊させていただいた感触としても、パーティゲームの要素を大いに感じましたね。リズムゲームとして新たな挑戦をしつつ、『マリオカート』や『Fall Guys』にも似ていると言いますか。

中村:我々が目指したのは、とにかく笑顔で楽しんでいただくことですね。正直うまくプレイしていただくのは二の次でいいかなと思っています。初代のアーケード版は難易度が高すぎて、不慣れな方だと序盤でゲームオーバーになってしまうこともあったんですが、今回は家庭用なので長く付き合っていただけるかなと。どう楽しむかはユーザーの皆さんの自由ですが、ゲームの上手さに関わらず笑顔になっていただく。それが、本作を開発した我々が期待するところですね。

■商品概要
商品名:『サンバDEアミーゴ(仮称)』
対応機種:Meta Quest 3/Meta Quest 2/Meta Quest Pro
発売日:2023年秋発売予定(※Meta Quest 3への対応は2023年後半予定)
価格:3,628円(税込3,990円)
ジャンル:リズムアクション
プレイ人数:1人(オンライン時2~8人)
発売・販売:株式会社セガ
著作権表記:©SEGA

■関連リンク
『サンバDEアミーゴ』公式WEBサイト

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