“異色”の音ゲー『サンバDEアミーゴ』はそもそもVR向きだった? プロデューサーに聞く「決まりから外れた楽しさ」を面白がる制作スタンス
今秋、セガからVRリズムゲーム『サンバDEアミーゴ』がリリースされる。対応ハードは『Meta Quest 3/Meta Quest 2/Meta Quest Pro』を予定しており、Meta Questストアでは事前予約がスタートした。また、本作の発表に際し、トレーラーも公開されている。
アーケードから端を発した本シリーズは、ドリームキャストに移植されるとその後もWiiへと引き継がれ、ハードの垣根を超えて広く愛されてきた。筆者も当時、いとこの家でドリームキャスト版の『サンバDEアミーゴ(Ver.2000)』をプレイし、家庭用の「マラカスコントローラ」をシャカシャカと振っていたのを覚えている。
本作に収録されている楽曲は、誰もが知るポップソングを中心に、幅広いレンジからセレクトされている。『ソニックアドベンチャー2』のファーストステージで使われた名曲「Escape From the City」も実装されるなど、ファンにはたまらないサプライズも。そのうえこの曲に関しては、「CITY ESCAPE」のステージがまるごと実装されているのだから恐れ入る。
初代『サンバDEアミーゴ』のディレクターを務め、本作ではプロデューサーを務める中村俊氏に実施した今回のインタビューでは、“個人化が進んだ昨今のポップミュージック”をVRゲームとして実装することの可能性が見えてきた。
決まりから外れた楽しさを追求 セガ“らしさ”にあふれた『サンバDEアミーゴ』という傑作
ーーまず、このタイミングで『サンバDEアミーゴ』をVRゲームとしてリリースすることになった経緯からお伺いできればと思います。
中村俊(以下、中村):もともとは「過去のタイトルを復活させよう」というゲーム業界の流れが制作決定に至った発端です。それから、音楽ゲームってどこかクールなイメージを個人的に受けるんですが、私自身がそもそもリズムゲームを得意としていなくて。
「カラオケみたいに誰もが楽しめるゲームを作りたい」というところから初代『サンバDEアミーゴ』の制作が始まったんですね。「バカ楽しい」というコンセプトは当初から一貫しつつ、「それを今の時代に持ってくるとどうなるだろう?」ということも考えながら、手探りで進めてきました。
ーー初代『サンバDEアミーゴ』はアーケードが1999年、翌年にドリームキャストへ移植されましたがそれでも20年以上前の作品ですよね。若手スタッフとの間で意思疎通に苦労しませんでしたか?
中村:そうですね……そもそもオリジナルを知っているのはチーム内でも私と数名ぐらいでしたから。企画を担当したスタッフは『サンバDEアミーゴ(Ver.2000)』のリリースとほぼ同じ年に生まれてますからね。
ーーしかも初代『サンバDEアミーゴ』がリリースされた1999年は、現在ほど「音ゲー」というジャンルが確立されていなませんでしたよね。そもそも音ゲーのノウハウが極めて少なかった時代なのでは……。
中村:その通りですね。当時は「アーケードのゲームを作る」という目的の前に、「新人だけでチームを組んで、なにか実験的にタイトルを制作する」というテーマがあったんです。で、試作をしてみたら「面白いじゃん」と評価されまして。「じゃあアーケードで本格的に作ってみるか」ということで、初代の『サンバDEアミーゴ』は始まったんです。
ロケテスト(アーケードゲームにおけるベータ版)できちんと収益を上げなければいけなかったり、色々と大変なこともありましたが、瞬く間に高い評価を得られました。そこから本実装される運びになったんですが、じつはすごく短い期間で作ってるんですよね。当時は若くて本当になにも分からなかったんですけども、なにかを追求する楽しさをそこで知りました。
ーーノウハウが少なかったことにくわえて、新人だからこそのアイデアから生まれた作品というわけですね。
中村:新人のうちにそういう経験ができたのはありがたかったです。「楽しい」のひとことでした。「『プレイヤーの位置をとりたい』と言っている開発者がいます」、「位置ってなんだよ」みたいなところから始まりましたので(笑)。いまでこそ、ハードウェア側で色々とフォローしてくれるんですけど、当時はそんな機能ありませんでしたからね。
さらに言えば「それを家庭用のゲーム機で売りたいそうです」、「家庭用って、いくらで売れると思ってんだよ。大体そんなのすぐにできるわけねぇだろ」というようなやり取りも、エンジニア間ではありました(笑)。そしてなぜか本当にそれが短期間で完成するという。
ーーそうしたチャレンジは今作でも?
中村:今作では、多くのかたがイメージする「音楽ゲーム」のルールから外れたことにもチャレンジしています。本来、そういう部分と向き合うのって、ゲームに詳しければ詳しいほど難しいと思うんですよ。
具体的に言うと、本作には譜面の途中でランダム性の高いルーレットが突然出てきます。それがユーザーに対して、「こういうふうに踊れ!」とかさまざまなコマンドを要求してきます。それらは音ゲーにおける“予定調和”を崩すので、「ここでこういう手運びをして、綺麗にキメられたら高いスコアを出せる」みたいな考え方の対極にあるんです。
しかし我々のコンセプトは、そういった決まりから外れた楽しさを追求することにありました。ランダム性が高いからこそ、誰がやっても同じ結果になる。もしくは、みんなで一緒にその体験を共有したときに笑いが起きる。ルーレットを回して、出た目に対して「一発芸をやって!」というお題をプレイヤーは出され、それに応える。そういう楽しさですね。こちらが想定している楽しみ方はそのままに、スコアを追求したいユーザーはルーレットをオプションで消せる仕様にもなってます。
ーー「プロジェクトセカイ」シリーズなどとはまさに対極にあるのが面白いですね。みずから壊しに行くと言いますか。
中村:そうですね(笑)。じつは我々の事業部では『チュウニズム』や『maimai』のようなアーケードの音楽ゲームも作っていまして、そちらのチームからも何人か本作の制作に参加してもらったんです。主に譜割りの面で力を貸してもらいましたが、やはり制作過程においては議論が必要でしたね。先ほどお伝えしたように、リズムゲームとして変なことをしている自覚はあったので(笑)。
ーー『サンバDEアミーゴ』が先にあって、『チュウニズム』や『maimai』ができて、今回はまた『サンバDEアミーゴ』に回帰すると。
中村:セガらしいと言えばセガらしいと思います。組織が目まぐるしく変わってゆく中で、巡り巡って過去の作品にフォーカスされるという。
今回は過去のIPを復活させる流れもあり、「じゃあVRで」と。結果から言うと、VRでやってよかったと思っています。先ほどからお伝えしている通り、本作では音ゲーとして“やってはいけないこと”にチャレンジしているんですが、それはビジュアル面にも言えることでして。『サンバDEアミーゴ』の世界観って、すごく賑やかなので、譜面が識別しにくくなるんですよ。ただ、そういった“余計な背景”がVRとして実装されることで、ユーザーが「自分がその空間を作り上げているのだ」という実感を持てるように設計できました。そこでは、家庭用のテレビやアーケードのモニターよりも没入感を得られると思います。