「AIは自画像を描けるのか?」僕らが憧れるテクノロジーの自己認識と、それを夢見させてくれる擬人化の有り様

「AIは自画像を描けるのか?」

 我々は鏡を見て、他人と話すことで、自分の姿を確認できる。もっと言えば、与えられた状況のなかで「僕は普段こういうふうに考えているんだ」「こういう状況が好きなんだ、嫌いなんだ」と気づくこともある。こうした自己知覚は、自分がどういう人間なのかを理解するための大事なプロセスであり、非常に“人間らしい”振る舞いだとされる。

 テクノロジーの世界では、人間と同じような振る舞いをするテクノロジーを創造することが長い間試されてきた。AIは知性の模倣であるが、声の模倣は度々インパクトを持って世の中に紹介されている。初音ミクが人間のように歌うはるか昔、1984年に発売された初代Macintoshは発表時、「バッグから出られてとても嬉しい!」とスピーチをした。

The Lost 1984 Video: young Steve Jobs introduces the Macintosh

 「自己を獲得した(かのような)語り口」で話すMacintoshには、これがあらかじめプログラムされた文章であるということを理解していてもなお、「意思を持って話しているような振る舞い」を感じてしまう。騙されていることをわかっていてもなお、不思議な心地よさがあるものだ。雑な言い方をすると、我々は自身のコントロール下にあるテクノロジーに騙されることを面白がっているのかもしれない。

 さて、1984年から40年近く経ったいま、世を賑わせているのはChatGPTに代表されるチャットAIである。初代Macintoshの騙りとは雲泥の差で、まさに「自己を獲得した(かのような)語り口」であらゆるジャンルの会話を生き生きとした文章で実現しているAIだ。過去に人間が積み上げてきた数多のテキストを学習材料にしており、命令の精度を上げればあらゆる分野での活用が期待できる。

 そんなChat GPTの"姿"に興味を持ったユーザがこんな取り組みを行っていた。

 ChatGPTとnijijourney(日本のマンガイラスト風のキャラクターを生成できる画像生成AI)を組み合わせ、Chat GPTの性格を創出し、それをもとに自画像を作るという取り組みだ。ちなみにこの取り組みを行ったのはバンダイナムコエンターテインメントでVRゲームなどのプロデューサーを手掛ける玉置絢氏で、弊誌では過去、彼にAITuberについてのインタビューを行っている。

AITuberが辿ってきた道筋と、その先にある未来 「紡ネン」や「ごらんげ」を手がけるパイオニアたちが語り合う

ここまで人々が当たり前のようにAIの是非について議論する状況を、誰が想像しただろうか。少なくとも、半年前まではそうではなかったは…

 ChatGPTに自画像を書かせる流れについては玉置絢氏がツイートで詳細に解説しているが、ざっくりした流れとしては

1. ChatGPTに自身の能力や可能性、ウィークポイントについて訪ねる
2. それを主観的な思いに転嫁する
3. 2.のテキストを自己紹介に落とし込む
4. 自己紹介から読み取れる性格・信念・価値観を書き出してもらい、これをもとにプロンプト(命令文)を作る。

という流れでプロンプトを制作し、nijijourneyに入力した、ということらしい。

 スペックを客観的に捉えて人間のパーツや性格に落とし込む流れで画像を生成するというやり方は「擬人化」のアプローチに近く、これを「自画像」と呼んでいいのかはわからないが、少なくともテキストの世界でしか交流できないChatGPTに対して人間的な表象を与えることには成功しており、ChatGPTの画面にこうしたキャラクターが出てきて、可愛らしい話し方をするだけでもユーザの利用障壁は大きく下がるだろう。

 こうした「ChatGPTに自分を表現してもらう取り組み」が育っていくと面白そうだ。同じような方法で、たとえば楽曲制作AIに「この性格に合う旋律を作って」と依頼することもできる。詩を読んでもらったり、キャラクターのセリフを作ることもできるだろう。こうしたChatGPTの擬人化が、かつての初音ミクや「OS擬人化」のようなムーブメントを創出したら、日本独自の不思議なコンテンツとして楽しまれるのかもしれない。

〈Photo by Pixabay〉

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