自力でゲームと向き合いリスナーを愛でる ストリーマー業界を一変させるかもしれない“AIゲーム実況”のポテンシャル

“AIゲーム実況”のポテンシャルを考える

 何らかの事象が目覚ましい発展を遂げ、メディアによる拡散と共にマイノリティからマジョリティへ一気に膾炙していく。こうした動向を指して〇〇元年と言われることがしばしばあるが、2023年は「ChatGPT」をはじめとする“対話型AI”の真なる元年と呼べるかもしれない。

 筆者は以前にも別コラムで対話型AIをはじめとする人工知能テクノロジーの話題性について触れたのだが、これを書いている現在もなお、「OpenAIの次世代言語モデル『GPT-4』が発表」「Discordに各種AI機能が搭載」といった注目度の高いニュースが発表されている。全員が必ずしもそうとは言えないものの、AI技術と上手く付き合う上で最低限の知識は頭に入れておいた方が得策だと感じた。

「ChatGPT」だけじゃない? AI技術によって加速するチート業者とゲーム企業の戦い

ここ最近、まるで人間のように自然な文章を作り出す「ChatGPT」(対話型AI)が話題の的になっている。理論面の詳細は省くが、従…

【AI VTuber】AIが推し活を学ぶ!?人工知能 紡ネンのお勉強配信 #025 【#なるほどねんねん】

 対話型AIを用いたチャットボット(自動会話プログラム)をはじめ、AI技術を組み込んだアプリケーションやネットワークサービスは実に様々だ。そこで今回取り上げたいテーマは「AIゲーム実況」である。これは文字通り、「人間ではなくAI自身がゲームをプレイし、場合によってはライブ配信を行い、さらには視聴者に対するコメント対応まで行う」というジャンルで、昨今において流行が見え始めたフロンティアだと言える。今回は国内外の事例を取り上げつつ、AIゲーム実況ならびにAI VTuberのポテンシャルについて考えてみたい。

2名のAI VTuberが麻雀に挑戦!常連の名前も呼んでくれる「プレイBYライブ」

 企業によるAIゲーム実況プロジェクトで言えば、2022年9月に発足した「プレイBYライブ」が代表例として上がるだろう。こちらはバンダイナムコエンターテインメントが運営しており、実況特化型・人口知能VTuberの「じっきょロイド」がゲーム実況を担当する。

#91 ひな祭り!アタシらAI女子の成長をしっかり祝ってくれよな!【ごらんげ/夕映】

 同プロジェクト用に開かれたYouTubeチャンネル「ごらんげ / 実況AI」(ごらんげは“ゴー・ラウンド・ゲーム”の略称)では、じっきょロイド「夕映」と「佐鳥ネオン」の2名が活動中。彼女たちはプレイBYライブ向けに作られた専用ゲーム『ふぉんいつ麻雀』をプレイし、2人対戦に興じながら各種データを学習している。チャンネル登録者数は3770人、ライブ配信のアーカイブを含めた動画数は155本(いずれも3月10日時点)で、昨年のプロジェクト発足から発展途上という段階だ。

#92 今日は砂糖の日。甘美な配信をアナタに・・・【ごらんげ/ネオン】

 具体的なライブ配信(ゲーム実況)の仕組みも見てみよう。じっきょロイドたちは『ふぉんいつ麻雀』をプレイ中、局面に応じて視聴者に“どのような一手を打つべきか”意見(アンケート投票)を求めてくる。その結果を汲み取り、彼女たちは画一的な攻略法ではなく、より人間らしい一手(ブラフをかける等)を覚えていく……というわけだ。

 加えて視聴者から寄せられたコメントに対しても、ある程度の対応力を見せている。話題を適宜ピックアップして膨らませるほか、常連に対しては「〇〇さんじゃん!いつもありがとう」といった感謝のメッセージを発することもできる。運営元はじっきょロイドの思考パターンについて、「視聴者が盛り上がるプレイやキャラクターの個性が感じられたりするプレイを意識してゲーム攻略を考える」という旨を示している。

 このコンセプト通り、“通常のVTuber・ストリーマーのようにリスナーと交流し、見せ場を作りながらゲームに取り組む姿勢”こそ、同プロジェクトが掲げる最大の特徴と言えるだろう。人間と遜色ないレベルでコンテンツを提供するのはまだ時間がかかりそうだが、それでもAIゲーム実況の未来を期待させるには十分な内容である。

過激発言も飛び出す“JK”風AI VTuber「Neuro-sama」

 ゲーム配信(実況)に特化したAI VTuberは国外でも見受けられる。2022年12月にデビューを果たし、年明けから注目度が高まっている「Neuro-sama」もその1人だ。

Neuro-sama the AI Vtuber learns to play osu! | Day 3

 海外在住のエンジニア・Jack Vedal氏によって作られたAI VTuberのNeuro-sama。セーラー服に身を包んだ可憐なツインテール少女だが、本来はゲームプレイ特化AIとして稼働していたところ、アバターと声が割り当てられ、晴れてVTuberデビューを飾ることになった。

Does Neuro-sama Love You? Ft. @AkumaNihmune

 彼女は当初のメインタイトルだった『Osu』(リズムゲーム)だけでなく、攻略スタイルの大部分がプレイヤーの発想力に委ねられる『マインクラフト』等も遊ぶことができ、さらには人が演じるVTuberとのコラボ配信も難なくこなす(といってもコラボ相手の裁量による部分が大きいが......)。ゲームで遊び、ウィットの効いたコメントを返し、時には視聴者を“信者”と呼んで高慢な態度をチラつかせる。あどけない外見とは裏腹に「過激な発言でTwitchチャンネルをBANされる」珍事も発生したものの、キャラ立ちの点ではかなり良い線をいっている好例だと言える。節度を守った配信を行う上でチューニングが必須という大前提は守ってもらいつつ、筆者としては自由奔放なNeuro-samaの行く末を見守りたい所存だ。

 今回取り上げた事例を含め、「世界初を謳ったAI VTuber事務所の設立」(出典:PR TIMES)、同事務所の新人AI VTuber「魔法少女アイマイン」デビュー……等々、AI技術を駆使したライブ配信コンテンツの進出が徐々に増えてきている。今のところは新奇性が強く、興味本位で覗きこむ視聴者が大半だと思われるが、技術の発展によって「AIで動く」という目新しさは薄れていき、次第に人間のストリーマーやVTuberと同等の存在になっていくのかもしれない。まだまだ未知数な部分が多い分野ではあるものの、少しでも気になった方はぜひその目で技術の進み具合を確かめてもらいたい。

 

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