映画レベルの音声コンテンツはどのように作られた? 『BATMAN 葬られた真実』の鍵を握る三人に訊いた

『BATMAN 葬られた真実』制作秘話

ポッドキャストの特徴を踏まえて意識したのは「何度も聴けるリアルなもの」

ーー制作するうえで、勝島さんが最も大事にしていたことは?

勝島:大事にしていたのは「何回も聴けるようなもの」を作ること。演技のディレクションにあたっては、役者のみなさんに「なるべくリアルにやってください」とお願いしました。今回はリアルな路線を追求していくので、驚くときのリアクションも誇張せず、リアルな感じのものにしてほしいと。みなさんも不安そうでしたし、僕もやったことがない方向性だったので不安はありましたが、何度もプレイバックできるというポッドキャストの特徴を考えればそうするべきだと思い、とにかく何度も聴けるリアルなものを作る、という路線からはブレないようにしました。

節丸:リアルなものをつくる、という前提があったうえで、社内で議論になったのは「ナレーションを入れるかどうか」ということで。脚本を見る限りは説明不足に感じて、本国からSEも来ていないので、音楽でどのくらい説明できるのかもわからなくて。結局は開き直って「ナレーションはやめよう」ということになりました。勝島さんのディレクションも含め、ここが明確にラジオドラマと言われるものと逆の方向に走り出した瞬間だと思います。

勝島:ラジオドラマは「ドラマ」なんですけど、この『BATMAN 葬られた真実』は「映画」を聴く感じなんですよ。だから、演技のディレクションだけではなく、会話や音楽の間についても途中に身振り手振りが入っているような「映画の間」になるように作っていきました。

――分からないことが多いからこそ慎重にいきがちですが、あえて何度も聴けるというプラットフォームの性質を利用して攻めの姿勢で制作したのはすごいですね。

勝島:「本国のオリジナルに合わるだけだから、作るのは楽なんじゃないの?」と言われたりもしますが、決してそうではなくて。役者が1人変わるだけで別物を作るような感覚ですし、ましてや言語が違えばセリフの長さ、SEやBGMのサイズも変わってくる。コンテンツを作る方としては、イチからオリジナルを作るような感覚でした。

――先ほどSEやBGMのお話が出ましたが、音声コンテンツを制作するにあたって、音響面などの手法も通常のラジオドラマ的なものとかなり違うように聴こえました。そのあたりはどうでしょう?

勝島:今回のチームには4人のサウンドクリエイターが関わってくれたのですが、本国から送られてきた音声とは言語の違いがあるのと、ポッドキャストということでスピーカーではなくイヤホン・ヘッドホンで聴く前提で、定位を工夫すべく全員がProToolsで作りました。エコーの成分を何種類も使ったり、3DXというアプリを使って立体音響のように聴こえる工夫をしてもいます。苦労をした点としては、4人が4人とも音の作り方が少しずつ違うので、僕の方から「作品としてはいいんだけど、ここはこうじゃない」という指示を出したりしました。ただ、それぞれのスタッフが優秀だったので、各自からもっと良くなるためのアイディアもどんどん出てきて、チームとして良いものが作れたように感じますし、各スタッフからも「またやりたい」という声が続々と出てきています(笑)。

節丸:今回は本当に勝島さんじゃないとここまでまとめられなかったような気がしています。各技術の専門スタッフが集いながら、それをまとめるのはラジオマン・音声に長けた編集を知っている人じゃないと、このような形になっていなかったと思うので。

勝島:ラジオで育った人とアニメで育った人、映画で育った人はそれぞれ微妙にキャスティングの方向性も違いますよね。

――お客さんからの反応は上々だと伺っているのですが、社内や周囲でのリアルな反応はどういうものでしたか?

西:GW中の公開だったこともあって通常の聴取習慣から離れた時期での公開でしたので、実際どのくらいの方に気付いていただけるか、届けられるかはチャレンジでした。しかし、マーケティングチームなども非常に努力してくれて、新しい形のエンターテインメントとして聴くきっかけを作れて、耳だけで楽しめるオーディオのエンターテインメントの番組があるんだということを知っていただけたかなと思っております。『BATMAN』は今回海外のIPで9言語で配信ということになったんですけど、我々としては日本のコンテンツを海外に大きく広げていくということに貢献できたらと思っています。

節丸:今回の話をいただく前に、アメリカでポッドキャストとかオーディオコンテンツとかマーベルの『X-MEN リジェンド・オブ・ウルヴァリン』があるというのを知っていて。この流れの中でそういうものを作りたいと思ってたんですよ。そういう文脈で社内で説明していったらすごく可能性が感じられるものとして社内で受け止められていますね。それと、Facebookで自分の仕事として紹介したんですが、面白いくらいに自分の業界から反応がなかったので、みなさん悔しかったのかなと思っています(笑)。

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