“未知”を“既知”へと変えていく喜びに満ちたオープンワールド 『Horizon Forbidden West』レビュー

“理解できない”オープンワールド『ホライゾンFW』の魅力

 昨今、ゲーム業界で注目されるトレンドといえば「オープンワールド」だ。定義は様々だが、リニアな一方通行の世界ではなく、ノンリニアな立体的な世界を、自由に冒険できるゲームが一般的にオープンワールドとみなされる。今年だけでも『Pokémon Legends:アルセウス』、『エルデンリング』が発売され、さらに『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド続編』や『スターフィールド』など、このオープンワールドをベースにした大作ゲームが発売を予定していることからも、オープンワールドはトレンドだと言えるだろう。

 言い換えれば、オープンワールドは飽和しつつある。特に2015年頃から、あまりにもオープンワールド作品が増えすぎたあまり、どれだけマップが広いとか、どんなにクエストが豊富だと聞いても、それだけでユーザーは感動しないし、期待もできない。

 そろそろオープンワールドを通じ、どのような体験を得られるのか、どのように感情を揺さぶられるのか……つまり、このゲームは何を表現しようとしているのかを、我々は問いかけるべきタイミングが来ていると言えるだろう。

 今年2月、PS4とPS5限定で発売された『Horizon Forbidden West』もまた、そんなオープンワールドの作品の一つだ。ただし、この作品には通常のオープンワールド作品と大きく異なる点が一つある。それが、「理解できない世界」を冒険する歓びに満ちているという点だ。

 本作の舞台は、地球が滅亡し、AIによってテラフォーミングされ、機械の獣たちが跋扈し、その機械たちを石器時代レベルの人間が狩って生計を立てるという、壮大なハードSFの世界をそのままオープンワールド。本作は、この広大かつ美しい世界でのゲーム体験を通じ、我々に「理解できないもの」を「理解しようとすること」の喜びと尊さを訴えかけた。

機械の獣が跋扈する、理解を超えたハードSF的な世界観

 まず、ビデオゲームにおけるオープンワールドをゲーム体験のための「舞台」だと考えた場合、多くのオープンワールドは「理解できる世界」か「理解しやすい世界」が多いように筆者は考える。たとえば、「理解できる世界」とは、アメリカやヨーロッパなど現実の地理を再現したオープンワールドで、「理解しやすい世界」は王道のハイファンタジーやSF、特に既存のIPを拡張した世界観のオープンワールドだ。

様々なフィクションで熟成された「時代劇」の世界にそのまま飛び込める体験が世界中で評価された『Ghost of Tsushima』
様々なフィクションで熟成された「時代劇」の世界にそのまま飛び込める体験が世界中で評価された『Ghost of Tsushima』

 なぜ「理解できない世界」が舞台のオープンワールドは少ないのだろうか。これには仮説として2つ理由が考えられる。1つは開発側にとって、まったくの独創的な地政や法則に基づいて、実際にプレイヤーが不具合なくプレイできる仮想空間を作ることが困難なこと。もう1つは、プレイヤーにとっても「理解できない世界」を独自に学習して冒険することが、そもそもハードルが高いと考えられる。

 そこでようやく話を『Horizon Forbidden West』に戻せるのだが、この作品はオープンワールドとして珍しいまでに「理解できない」、あるいは「理解することが難しい作品」である。

 なんといっても『Horizon Forbidden West』の世界は、一度滅んでしまっている。いわく、2060年頃に導入された有機燃料で駆動し、自己複製も可能な戦闘ロボットが暴走を起こしたために、人類の文明が崩壊。ここまでなら「ポストアポカリプスもの」とも解釈できるが、そこからさらに地上と海中のほとんどの生物まで絶滅し、大気圏は崩壊して酸素もなくなったという。つまり地球そのものが完全に機能不全に陥った。

 そこで当時の人類は、「ゼロ・ドーン計画」を発動。これは地球の表面を一度破壊し、その上で約1000年かけてテラフォーミングするという計画だ。これに統合AIガイアを中心に、ミネルヴァ、ヘファイストスといったギリシア神の名を冠するAIに、海や大地、大気などの再生機能を与え、人類が絶滅しようとも新たな人類が再び育まれる社会を再建した。

 この人工的に再構築された地球が『ホライゾン』の舞台である。これらの背景は、前作『Horizon Zero Dawn』における冒険の中で徐々に知っていく知識だが、『ホライゾンFW』では冒頭のOPですべて説明されるため、未プレイの方も問題なく楽しめる。

 このように一度滅亡し、再生を経た『Horizon Forbidden West』の世界は、ハードSFとして実にユニークな世界が広がる。自然環境を一つ見ても、それは現在の地球と同じようで、どこも少しだけ変わっているのだ。同じ遺伝子でも兄弟で容姿が変わるように、そこらに生えている草や木、花に至るまで我々の知るものと少し異なる。やや色彩が強く、成長も大小さまざまで、人間にとって有益なものも、有害なものもある。また失われて久しい文明の遺構が、そのまま自然と同化して一部になっているのも美しい。

 また、人間社会もこのテラフォーミングの歪みによって特殊な変化を遂げている。ゼロドーン計画に残されたある欠陥のために、再誕した人類は狩猟採集社会を営んでおり、そのうえ、人類は共通の国家を持つことなく、バラバラの少数民族が各地に点在する状態となった。だが言い換えれば、小さな各社会には独自の信仰、経済、芸術が形成されているのだ。それも、いずれも一から作られているのだから驚く。

 そして極めつけは、この新世界にて空と大地を支配する機械獣たちだろう。彼らは本来、ゼロ・ドーン計画におけるテラフォーミングの代理人であり、水や空気を循環し、大地を再興することを目的に生産された機械だったが、外部信号により凶暴な存在となって人間を襲うようになった。結果、かつて人類が獣たちと自然を奪い合ったように、いまは機械と日々戦っているのである。

 自然、人間、そして動物。この世界はあらゆるものが一度破壊し、そして再誕したまったく新たな疑似地球。『Horizon Forbidden West』におけるオープンワールドとはすべてが我々の知る現代社会でも、また現代社会から生じた虚構でもない、純然たるサイエンス・フィクションの夢である。そしてそれらすべてを、実際に歩き、触れ、戦うことになるこの世界はただ歩いているだけで、常に未知との遭遇が待っており、それは多くのオープンワールド作品にはない魅力だと言える。

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