“未知”を“既知”へと変えていく喜びに満ちたオープンワールド 『Horizon Forbidden West』レビュー

“理解できない”オープンワールド『ホライゾンFW』の魅力

2つの「わからないものを、わかろうとする世界」

 ここまで、本作が「理解できない世界」を舞台に、自然、社会、そして機械獣といった「未知」を「既知」へと変えていくゲームプレイの過程により、やがて「理解できる世界」に到達した瞬間の歓びを得る、極めてユニークなオープンワールドの作品であると論じてきた。

 そんな本作をプレイしていて思い出したのが、小島秀夫の『DEATH STRANDING』だ。本作もまた生と死の臨界に接した「理解できない世界」にあって、一度分断された社会を「配達」によって修復していくことで、「理解できる世界」であると同時に「理解しあえる世界」を望むゲームプレイが籠められていた。ハードSFとオープンワールドを組み合わせた名作だ。

 実は『ホライゾン』と『DEATH STRANDING』を結びつけるのはテーマだけでない。どちらも「Decima Engine」という同じゲームエンジンから生まれた、まさに兄弟の如き強固な絆でも結ばれているのである。

 『DEATH STRANDING』が発売される前、コナミから独立したばかりの小島秀夫たちは、大作を開発するうえで必須とすら言える開発用の道具、特にゲームエンジンのために世界各地を探訪した。そんな小島に手を差し伸べたのが、ほかならぬ『ホライゾン』を開発したGuerrilla Games。小島が彼らと挨拶を交わすと、契約すら結ぶ前にGuerilla Gamesのゲームエンジン「Decima Engine」のソースコードを渡されたという。その姿勢に「ゲームを作ることが宇宙へ行くことなら、彼らとなら月や火星ではなく、土星に一緒に行ける」という意志を感じ、思わず胸を熱くしたと小島は振り返る。

 なお、Decima Engineの語源は、江戸時代の鎖国時代で長崎にて解放された港「出島」。当時から日本と交易した数少ない相手国であるオランダとの日蘭関係、そして、Guerilla Gamesがオランダのゲームスタジオであることから付けられた名前だった。(もう一つ名前の由来としてギリシア神話の女神も挙げられている)

Death Stranding - PlayStation Experience 2016: Panel Discussion | PS4

 同じ胎盤から産まれた2つの作品が、どちらもオープンワールドを通じて「理解できないものを、理解しようとする」精神を尊重しているのは、偶然の一致とは思えない。もちろん、世界観から物語、ゲームプレイに至るすべてが異なるのだが、オープンワールドに託された希望は一致していると断じたい。

 その希望とは、特に「理解できないものを拒む」「理解できるものだけ触れる」ポスト・トゥルース時代にあって、ハードSF的な「理解できない世界」をプレイヤーが実際に触れ、その過程で「理解できる」へと変えられるはずだという希望だ。

 そしてその挑戦は、両作の主人公……つまりサムとアーロイの姿勢によく現れている。困っている人を放ってはおけず、拒んでいる人には対話の余地を設ける点で共通しているし、そんな彼らの目線を通じて、リニアな世界ではなくオープンな世界を冒険することに、純粋な快楽以上のなにか大きな成長を感じずにいられないのだ。

(C)2022 Sony Interactive Entertainment Europe. Developed by Guerrilla. Horizon Forbidden West is a registered trademark or trademark of Sony Interactive Entertainment LLC.

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