意外とわかっていないテクノロジー用語解説
デジタルデータに唯一性を与える単位『NFT』とは?
テクノロジーの世界で使われる言葉は日々変化するもの。近頃よく聞くようになった言葉や、すでに浸透しているけれど、意外とわかっていなかったりする言葉が、実はたくさんある。
本連載はこうした用語の解説記事だ。初回は「NFT」について。アート作品の取引からいわゆる「メタバース」における活用まで、さまざまな話題の中で登場する言葉だが、これは一体何なのだろうか?
NFTとは「Non-Fungible Token」の頭文字を取ったもので、日本語に訳せば「非代替性トークン」となる。……といってもこれだけだと何が何だかわからないという人も多いだろう。
NFTとは「ブロックチェーン」の上で扱われるデータ単位だ。ブロックチェーンというのは、暗号化されたデータの塊(ブロック)の繋がりで構築されたリストで、各ブロックは前のブロックの暗号化ハッシュ(=データが改竄されていないことを示す証明書のようなもの)を持っている。
もし、あるブロックのデータを変更したい場合、その後のブロック全てを改変する必要がある上に、ブロックはP2P技術でさまざまな場所に分散して保管されているため、こっそりデータを改変するのは極めて難しい。この特性を活かし、ビットコインなどの暗号化資産の公開取引台帳として使われている。
画像や動画、音声といった、簡単に複製できるデジタルデータをブロックチェーンの上で扱う(NFTを関連づける)ことで、そのデータの所有権を証明する鑑定書のような役割を果たすのだ。
ただし暗号化資産と違うのは、暗号化資産には代替可能性がある(Aさんが持っている暗号資産とBさんが持っている暗号資産は区別が付かない)が、NFTにはそれがない点が異なる。
たとえば、トレーディングカードゲームで限定枚数のカードを出す場合、NFTによって「1000枚限定」などの希少性・唯一性が保証されれば、チートによる複製等はできなくなる。また、ブロックチェーンで繋がったほかのプラットフォームにも対しても唯一性を証明できるため、例えば『FF14』と『フォートナイト』の世界のアイテムを安全に交換する、といったようなことにも応用できるかもしれない。
NFTが話題になったのは、デジタル画像にNFTを付けた、いわゆる「NFTアート」に巨額の価値がついたためだ。もともとアートの世界はアナログで、一点モノだからこそ所有する価値がつくわけだが、複製可能なデジタルデータであっても希少性が付けられる点が目新しい。
近頃ではAdobeが自社のポートフォリオサイト「Behance」においてNFTアートを一覧表示するタブを導入したほか、クリエイターのアカウントと仮想通貨ウォレットの紐付けることで、作品の投稿者が作者本人である、という証明がなされる機能を導入した。
ただし、NFTが扱うデータはあくまでデジタルデータなので、データそのものは複製ができてしまう。NFTアートファンの視点から見ると、アートのうちの1つが自分のものである、という「所有感」を得る、所有欲を満たすための正当性の担保として機能している面もあるだろう。
また、著作権が移動したり、所有権を絶対に保証できたりするものでもない。このため、NFTという仕組み自体がNFTアートによって過剰に宣伝され、誤解されてしまったという点は指摘できるだろう。
現在はNFTアートのバブルも一段落した感があるが、VRプラットフォーム上でのアイテム売買にNFTが利用されるなど、その活用や発展はむしろこれからが本番。「デジタルだけどオリジナル」という特別感が生み出せる、NFTという仕組み自体の価値が落ちたわけではない。
個人でもNFTデータは容易に作成できるため、大企業より、むしろ個人間のデータ取引などで多く使われるようになる可能性が高い。もう数年もすれば、NFTという仕組み自体が当たり前になり、誰もその存在を気にすることなく使われるようになるだろう。