Kan Sanoが語る音楽制作と機材 宅録で作る“生のグルーヴ"とサウンドの軌跡

Kan Sanoが語る音楽制作と使用機材

『microKORG』はいまだに好きなシンセ

ーー『2.0.1.1.』に関しては、『Fantastic Farewell』のようなビートミュージックに比べて、ピアノ・セントリックな、ジャズ・ポップスだったと感じています。

Kan Sano:『2.0.1.1.』は<origami PRODUCTIONS>に所属して最初のアルバムなので、僕の中ではどちらかというと『2.0.1.1.』が1stに近いと思っています。このアルバムはスタッフからの提案で、当時僕がやっていたピアノライブの感じと、『Fantastic Farewell』トラックメーカー的な側面をミックスしたものを作れないか、と思って作った作品です。なのでピアノを弾いている曲が多いです。

ーー『2.0.1.1.』のアルバムアートには多くのシンセサイザーが写っていますが、あれは全部制作で使用されたのですか?

Kan Sano:ほぼ使ったと思いますが、あのジャケにもある『KORG MS2000』というシンセは『Fantastic Farewell』と『2.0.1.1.』で結構使っていました。ライブではいつも『microKORG』を使っていました。『microKORG』は留学したタイミングで、発売した当時に買ったと思うのですが、ライブでも録音でも使えるし、いまだに好きなシンセです。

ーーいいシンセですよね。例えばどの曲で『microKORG』を使ったかは覚えていますか?

Kan Sano:『microKORG』と『MS2000』は似ているので、基本『MS2000』で録っていた気がしますが、例えば「Above Love」のリードシンセとかはそうかも知れません。『microKORG』は、やはり一番楽なんですよね。メインのキーボードの上に乗せて使ったりもできるので。『microKORG』は小さいのに、音は太く、『MS2000』にも負けていないと思います。本当によくできたシンセです。

ーー『k is s』と『Ghost Notes』はどちらもネオソウルからのインスピレーションが強いと感じていて、全部ご自身で演奏されたんですよね?

Kan Sano:どちらも自分で全部演奏しているのですが、<origami PRODUCTIONS>に入る前に、「Bennetrhodes」という別名義でアルバムを作ったのですが、そこで結構ネオソウルっぽいことをやっていました。それを『k is s』でまたやってみようという感じもありましたね。あと日本語で歌詞を書くようになったのも大きな変化でした。それまでは歌自体をそこまでやってなかったので。『k is s』ぐらいからライブでも歌うようになり、そのような変化はありました。機材でいうと、『SV1』というKORGのシンセを、「2.0.1.1」の頃に購入しました。エレピがすごく良いシンセです。

ーーKORGの『SV1』は、ビンテージピアノという名前で出ているのですね。

Kan Sano:モデリングシンセみたいな感じなのですが、エレピとクラビがすごく良くて。

(Kan Sano氏使用のKORG SV-1)

ーー『k is s』と『Ghost Notes』は特にクラビの音がすごく良いというイメージあります。

Kan Sano:『Ghost Notes』の時は『Fender Rhodes』をもう買っていて、それで全部録りました。

(Kan Sano氏使用のFender Rhodes)

ーーこの2作品は、「これって昔の曲のサンプルなのかな?」と思うようなパートがあるのですが、実際にはご自身で演奏されてるわけじゃないですか。例えばトランペットとかドラムは、「昔のアナログからサンプリングしてきたのかな?」と思うことがあって、どのようにその質感を作っているのでしょうか。宅録ならではの何かがあるとか?

Kan Sano:レコードからサンプリングされた音楽が好きで、自分でもやってみたいという憧れもあったのですが、やはりもともと鍵盤奏者なので、サンプリングはせずに、あくまで自分で演奏して表現したいという気持ちがありました。そのなかで、どうやったら楽器を弾いた上で、そのアナログっぽい、昔っぽい質感を出せるのかを試行錯誤しました。ミックスでも色々試しましたね。EQだったり、アンプシュミレーターだったり、色々使いました。

ーー例えば、トランペットやドラムはどのようにしてレコーディングしていましたか?

Kan Sano:『Ghost Notes』では結構トランペットを使っているのですが、あの時は『SHURE SM57』で録りました。ドラムも自分で演奏しているのですが、普通にドラム全体を叩くとアンビエントっぽくなるというか、サンプリングしたビートのようにならないので、別々で録ってました。スネアはスネア、キックはキック、ハイハットはハイハットのみで録るという感じで。ハイハットを生で録ると、ちょっとアナログっぽい質感や、生の感じはすごく出ます。『Ghost Notes』の時にそれを発見して、ハイハットは全曲生で叩いてレコーディングしています。

ーー自宅にハイハットがあって、それをマイキングして録っているですか?

Kan Sano:そうです。パソコンが置いてあるデスクの端に、『SM57』をテープで固定して、そこにハイハットを置いて、いつでも録れるような状態にしてました。

ーー近隣住民からの苦情はなかったのでしょうか?(笑)

Kan Sano:ハイハットは音大きいので、昼間に録ってました(笑)。生のグルーヴも出ますし、ハイハットだけ単体でレコーディングすると両手を使えるので、左手でミュートしながら右手で叩いてました。ハイハットって普通に叩くと高域のキンキンした音が出るのですが、左手で微妙にミュートしながら叩くといい感じになります。それもミックスまで考えた録り方なんですよね。レコーディングの段階でミックスしやすいように録ってました。やはり質感とか空気感含めて、アレンジや曲作りだと思うので。

ーー『Ghost Notes』は個人的にRH Factorや、ロイ・ハーグローヴの『Hardgroove』、<Electric Lady Studio>のクエストラブのドラムなどを思い出しました。お話を聞くかぎり、それはハイハットを片手でミュートするテクニックなどから来てるのかもしれない、と思いました。

Kan Sano:『Ghost Notes』はハイハットの生のグルーヴ感と、ビンテージのFender Rhodesがサウンドの基盤になっていたと思います。RH Factorやディアンジェロの『Voodoo』、エリカ・バドゥの『Mama's Gun』などを聴いて育ってきたので、そのような自分の影響を存分にさらけ出してみよう、という気持ちはありました。それをやらないと次に進めないなと思っていたんです。

(Kan Sano氏使用のハイハット)

ーーなんとなく日本の音楽ってドラムが少し小さいと思う曲が多くて、低音の出方が洋楽と違うなって思うことが多いのですが、『Ghost Notes』などのKan Sanoさんの作品は、ガッツリ洋楽のネオソウル並に出していると思いました。その辺も意識されていますか?

Kan Sano:意識してますね。やはりそれが自分の一番気持ちいいバランスになってるんですよね。ドラムとかベースは出ててほしいし、逆にいうとドラムを埋めるような音色は足さないようにしているのもあります。全部の帯域を埋めちゃうようなシンセや、パッドみたいなものをどんどん足していくと、リズムセクションが後ろに埋まっちゃうので。そのような音作りは絶対やらないと『Ghost Notes』の時は決めていました。やはり20歳前後ぐらいの、一番音楽を吸収できる多感な時期に聴いていたのがディアンジェロやThe Rootsだったので、そのような影響をさらけ出していこうと、開き直った作品だったと思います。

ーー次の作品の『Susanna』はトラップ〜ハウス風のビートもあり、モダンな挑戦に感じました

Kan Sano:時代によってサウンドも変わっていくし、自分もどんどん変わっていきたいと思っているので、『Ghost Notes』を作っていたときからすでにに『Susanna』のサウンドについて考えていました。早くそっちにいきたかったのですが、まずは自分の中のネオソウルに決着をつけてから行こうと思ってました。『Ghost Notes』を作り終えたら、ようやくそっちに行けると思って、どんどんトラップのようなビートを取り入れてみたり、今まで使わなかったようなシンセの音色を入れてみたり、色々トライしましたね。

ーー生のドラムでトラップのようなビートをやるとなると、バスドラムの低音が足りないと思うのですが、どのように工夫しましたか?

Kan Sano:生のキックにTR-808のキックを重ねたりしていましたね。

ーーそれがネオソウルのテイストとは違う感じになったと思います。

Kan Sano:そうですね。いまは「LOGIC」を使っているんですが、『Susanna』までの約10年間はCubase 4を使っていました。『Fantastic Farewell』から『Susanna』まで、ソフト自体は変わらないので、『Susanna』から思い切ってLOGICに変えても良かったのかもな? と今は思っています。今年出した「Natsume」は、「LOGIC」にしてから最初に作った曲なんですが、いままで以上にソフトシンセを使うようになったと思います。『Susanna』までは、KORGのSV1やKRONOS、Fender Rhodesとかでオーディオ・レコーディングしていたので。でも「LOGIC」に変えてからソフトシンセを使うようになったのが一番の違いですかね。

ーーLOGICに変えたタイミングが「Natsume」だったのですね。印象として、音の全体像が丸くなった感じがしていて、いい意味でKan Sanoさんの作る音楽の年齢が若返った気がします。

Kan Sano:ありがとうございます。言ってることはすごくわかって、今はそんな「丸い音」を作るために、少しづつ変化しています。『Ghost Notes』で生楽器をたくさん使ったりとか、そのようなスキルが蓄えられていると思うので、そういうスキルも使いつつ、新しいことにも挑戦していきたいなと思います。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる