fhána 佐藤純一が語る「時代に合わせた音作り」と“万策尽き”かけた新曲制作秘話

fhána 佐藤純一が語る「時代に合わせた音作り」と“万策尽き”かけた新曲制作秘話

 音楽家の経歴やターニングポイントなどを使用機材や制作した楽曲とともに振り返る連載「音楽機材とテクノロジー」。第六回はfhánaの佐藤純一に登場してもらった。

 fhánaのリーダーとして、yuxuki wagaやkevin mitsunagaとともに多くの楽曲を手がける佐藤。最近ではストリングスやブラスアレンジのほか、マスタリングも自身で手がける彼に、曲作りの方法や自身の核となっている機材、それらを使うにあたって大事にしていることや、最新曲「星をあつめて」が生まれた背景などについて、じっくりと語ってもらった。なお、今回のインタビューは後日fhánaのオフィシャルYouTubeチャンネル内の企画「ふぁなばこ」にて、動画バージョンが公開される予定だ。(編集部)

「スーパーローの使い方がアレンジ的にも重要になっている」

ーーまず、佐藤さんがstudio FLEETを作る上で重要視したポイントを教えてください。

佐藤:都内の自宅スタジオって、結構地下にあったり圧迫感のある建物が多いんですが、この部屋は開放感がすごくあって、陽の光を浴びながら曲を作れるのが良いなと思って選んだんです。

佐藤の制作拠点である『studio FLEET』。
佐藤の制作拠点である『studio FLEET』。

ーー見た感じ、一部は打ちっぱなしのコンクリート製ですが、音の特性的にマイナスにはならないですか?

佐藤:僕もそこは結構心配していたんですけど、意外と響かないうえに、変なフラッター(エコー)もなくて。モニタースピーカーの先はウッドデッキに向かってかなり広いスペースがあるので、音が壁で跳ね返ったりせず、抜けていくからなのかもしれません。一応、スピーカーの後ろの壁には吸音材が敷きつめてあるんですが、音響的に必要に駆られたわけではなく、前の部屋の余りを立てかけてるだけなので、どちらかといえば防寒に近い役割というか(笑)。

佐藤のスタジオ外にあるウッドデッキ。夏場などはここで作曲を行うこともあるとか。
佐藤のスタジオ外にあるウッドデッキ。夏場などはここで作曲を行うこともあるとか。

ーーそれでここまでの音環境が整えられているのはすごいです。陽の光を浴びて、生活サイクルを感じることができる部屋に移ったことで、日中に曲作りをすることも増えたり?

佐藤:自分が制作をするうえで、一番前に進むのは午前中なんですよ。夜中に判断が鈍っていたら、一回寝てパッと起きてすぐに進めたりもします。

ーー午前中って、判断が一番できる時間ですよね。

佐藤:そうなんです。1日を過ごしていると、判断する力ってどんどん減っていくから、頭を使う重要な仕事は午前中にした方が良いというのを、身をもって感じます。とはいえ、いきなり午前に進むわけではなく、その前段階に散々悩んで頭の中がとっ散らかってから寝て起きた午前中に、アイデアがまとまって前に進む感じですね。

ーーこのスタジオに移ってから作った曲たちを聴いていて思ったのですが、スタジオを変えたことで、曲も開放的になったような気がしています。同じストリングスを使っている曲でも、細かく刻むのではなくスケール感の大きいものが多くなったりとか。

佐藤:それはあるかもしれませんね。自然の中のスタジオで合宿したり、海外レコーディングをするのも、普段と環境を変えることによる効果もあると思います。

ーー機材の話も伺いたいのですが、佐藤さんの曲作りにおいて一番欠かせない機材は?

佐藤:長年使い続けている相棒は『Logic』と『XP-30』(Roland)。『XP-30』は90年代のシンセで、このスタジオにある機材のなかでかなり古めのものです。鍵盤のタッチや中に入っているシンセのパット音とかが気に入っていて、作曲のときやベースの打ち込みなどでも頻繁に使用しています。あと、作曲機材ではないんですけど、一番長く使っているのは、このスピーカー(『CDM1 SE(B&W)』)ですね。いわゆる一般向けの民生機と、プロ向けの業務用機は全然違うじゃないですか。

ーーですね。ー般向けは気持ち良く聴こえて、プロ向けはフラットに聴こえるという。

佐藤:そうです。それで言うと『CDM1』は、ドライでフラットで、結構業務用っぽいモニターライクな音なんです。B&Wの最近の製品は瑞々しく水のように広がるリッチな音がするんですけど、『CDM1』はすごくドライで、それが好きなんですよ。普段はこのスピーカーで映画を観たり、iPhoneからBluetoothで音を飛ばして聴いたりしていて、曲作りの最終段階のモニターに使うこともあります。

ーーそして、メインモニターは『C5-Reference Wood』(KSD)。たしか以前は『RL906』(musikelectronic geithain)を使っていましたよね。

佐藤:最近変えたんですよ。ムジークも好きだったんですけど、最近のポップスの世界的トレンドである“ローエンド”を意識した時に、ちょっと物足りないかなと思って。

『C5-Reference Wood』(KSD)
『C5-Reference Wood』(KSD)

ーーいわゆる”スーパーロー”と呼ばれる帯域も含めて。

佐藤:そうですね。ローエンドが大事であることは昔から変わらないですが、最近はそのスーパーローの使い方がアレンジ的にも重要になってきていますよね。それではじめはサブウーファーを買おうとしたんですけど、ふと『C5』が目に入って。信頼しているエンジニアであるビクタースタジオの高須(寛光)さんが、以前このスピーカーを絶賛していたことを思い出して試聴してみたら、すごく良くて。ムジークの『RL906』とほぼ同じサイズなんですけど、これだけで結構ドシッとしたスーパーローを感じることができるし、ローが出るだけじゃなくて全体的なバランスもすごく良くて、これに買い換えました。それに、見た目もウッディーでインテリア的に良いなと思って。あと、標準でフローティングスタンド付きな点も良いですよね。

ーーそしてサブモニターは『Wood Cone』(VICTOR)と『8010A』(GENELEC)。

佐藤:ビクターのウッドコーンはこれも定番製品なので、ラジカセチェック用として使っています。『8010A』は『Nord Stage』だけにしか繋がってないんですよ。ピアノを弾くときに前から音が出ていたほうが良いので。

ーー最近導入した機材とその使い方についても教えてください。

佐藤:お気に入りはRUPERT NEVEの『Portico II Master Buss Processor』です。いわゆるマスターコンプ・リミッターで、マスタリングやミックス時にソフトの中だけでやるのではなく、アナログを一回通して、角を取りたくて。コンプ・リミッターとしても優秀だし、シルキーな倍音を付加させたり、その倍音の種類やブレンド具合も調整できたり、歌や楽器の奥行きを調整したり、いわゆるM/S処理的なことをしたりといったことが一台で出来てしまうのは大きいです。もちろんプラグインでも出来るんですが、プラグインだけで作業するより、すごく音楽的になりますね。倍音の感じがすごく良いうえに、モダンでクリアなサウンドです。あと、導入してみて意外とよかったのが、マスターレコーダーの『DA-3000』(TASCAM)。今はDAW上でバウンスをして、最終2ミックスを作るのが普通ですけど、『DA-3000』でそのまま録音するのが良くて。マスタリング用途としても、ファイルをコンバートせずに、CD用だったら44.1kzでそのまま録音したり、一度DSDで録ってそれをマスターとしてそこから各種フォーマットに書き出したりと、音質的な変化が少ない状態で最終音源が作れる点が良いなと。

上から、『Portico II Master Buss Processor』(RUPERT NEVE)、『LIO-8』(Metric Halo)、『OCX-HD』(Antelope)、『DA-3000』(TASCAM)。

ーープラグインやラックの機材についてはどうでしょう。

佐藤:オーディオインターフェースの『LIO-8』(Metric Halo)はめちゃくちゃ音がいいですね。少し価格が上の『Prism Sound』とかが定番なんですけど、僕はこっちの方が好きで。重心が低くて、奥行きがあって、すごく音を正確に描写してくれます。けっこう昔からある機材なのでずっとFireWireでしか使えなかったんですけど、つい去年ぐらいにUSB-Cを使えるオプションカードが出たのが大きかったです。あと、マスタリングクオリティを上げようと思って導入したのはマスタークロックジェネレーターの『OCX-HD』(Antelope)。それぞれの機材の内蔵クロックで動作させるよりも、音が滑らかになって奥行きも出ますね。ヘッドフォンアンプは『DA11※註』(Lavry Engineering)をつい先日導入しました。ビクタースタジオでいつもヘッドホンはこれでチェックしていて、あまりの素晴らしさに自宅にも導入してしまいました。ちょっと趣味の世界も入ってますけど(笑)。もう一つ、大事なのがケーブル周りで、主にORBというメーカーの電源ケーブルやラインケーブルを使用しています。最近もD-SUBケーブルを何種類かカスタムで作ってもらったのですが、S/Nが良くて力強い音で好きですね。ちなみにfhánaのライブではステージ周りのケーブルもORBを沢山使用しています。

※註:写真撮影時には『Grace Design m902』が設置されていたが入れ替えたとのこと。

一番右が『NDH 20』(NEUMANN)、右から2番目が『MDR-Z1000』(SONY)。

ーーモニターはヘッドフォンを使うことも多いですか?

佐藤:そうですね。最近は『NDH 20』(NEUMANN)と『MDR-Z1000』(SONY)を主に使っています。『NDH 20』はマイクで有名なノイマンが最近出したヘッドフォンで、ローエンドも確認できるし、メインのモニタースピーカーから聴いているのと近い印象です。これをメインで使ってます。『MDR-Z1000』は、カタマリ感のある音を聴けるので、ミックスのバランスが綺麗にとれていないと、ガチャガチャして聴こえるんです。ミックスの粗探しに向いているヘッドフォンですね。

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