Kan Sanoが語る音楽制作と機材 宅録で作る“生のグルーヴ"とサウンドの軌跡

Kan Sanoが語る音楽制作と使用機材

「ドラムのキックやスネアの抜け感は、1stアルバムから意識していた」

ーーKan Sanoさんは作品によって違う芸風を持っていると思っていて。最初の方はビートミュージックだったり、ネオソウル。そこからダンスっぽくなって、最新の作品だとトラップのようなビートが入ってたりして。その中で特徴的な機材の使い方があったら聞いていきたいなと思います。最初はアルバム『Fantastic Farewell』を<Circulations>からリリースして。

Kan Sano:そうですね。いまと違うレーベルだったんですけど、2011年3月11日の震災があった年で、リリースが4月でした。そのころは、音楽業界が自粛ムードになっていて、この状況下でライブをやっていいのか? という雰囲気があり、そのようなタイミングでリリースした作品でした。

ーーこれはLAのビートミュージックのシーンを彷彿とさせる作品だな、と思いました。

Kan Sano:そうですね。当時はフライング・ロータスなどにハマっていました。また、Red Bull Music AcademyのBase Campという、ビートメーカーの卵みたいな人たちが合宿しながら曲を作る、という企画に参加して。それで最後にメタモルフォーゼというクラブ系のフェスでライブをするのですが、あのDaisuke TanabeやSauce81など、面白いビートメーカーが集まっていて、すごく刺激的でした。

ーー具体的にどのような技術的なことを学んだりするのでしょうか?

Kan Sano:Derrick Mayのレクチャーに参加して、「Strings of Life」をどのように制作したか、という話を聞かせてもらったりとかですね。スタジオがいくつかあって、いつでも曲を作っていいよという感じで、他の人の制作を手伝ったりとかしていました。そのキャンプには楽器をガッツリ弾ける人がいなかったので、「この曲の鍵盤を弾いてほしい」みたいに、色々な人の現場を手伝ったりしましたね。Jazzy SportのMARTERさんが出した「Waiting For My Lady」という曲は、Base Campのセッションで作った曲で、僕がキーボードなどを弾いています。『Fantastic Farewell』は、Base Campの時に経験したことに影響を受けてると思います。

ーーMARTERさんも参加してたんですか?

Kan Sano:MARTERもその時に参加していて、そこで知り合いました。こんなベーシストがいるんだと思って、トラックを聴かせてもらったらすごくかっこよくて。当時MySpaceが流行っていて、その後SoundCloudとかが出てきて、ベッドルームプロデューサーみたいな人が出てきて、みんなネット上で繋がり始めた時期でした。でもこう実際は会ったことない人たちが多かったんですけど、Base Campでみんなが集合したみたいな感じで、楽しかったです。

ーーいまではオフ会なども普通に行われていますが、当時はあまり一般的ではなかったので、ドキドキでしたよね。いまほど顔出ししている人も多くなかったですし。

Kan Sano:そうかもしれないですね。当時のSoundCloudだと海外のリスナーがめちゃめちゃ多くて、いつも海外のリスナーがたくさんコメントをくれて、そういうのもめちゃくちゃ楽しかったです。

ーーKan Sanoさんの作品を聴いていて、音作り的に面白いと思うのは、もちろんシンセの音もそうですが、どの作品もドラムの音が特徴的だなと。『Fantastic Farewell』のドラムは生っぽい音も入ってるように感じるのですが、メインは打ち込みですか?

Kan Sano:基本は打ち込みで、生のドラムからサンプリングした音も使っています。いまも好きなんですけど、当時はJ Dillaから影響を受けていて。あとはMark De Clive-Loweなど、UKのクラブジャズシーンからもインスピレーションをもらっていたり、Jazzanovaなどもすごく好きでした。

ーーちなみにこれは、サンプラーなどで打ち込んでいたのでしょうか?

Kan Sano:いや、実は当時サンプラーを使っていなくて、画面上で一個一個サンプルを並べて作っていました。すごくアナログなやり方でしたね。

ーー音を変えようと思ったら、なかなか変えられないパターンですね。

Kan Sano:そうなんですよ。最初にいつもだいたいキックから選んでいるのですが、最終的な仕上がりをイメージしながら音色選びにはかなり時間をかけていました。

ーー私自身も音楽を作ってて、自分の声とドラムの音色が合わない感じがする時があるのですが、歌い方や声に合わせてドラムの音色を全部変えることがあります。Kan Sanoさんもそういうことはありますか?

Kan Sano:いまは基本的にソフトシンセで作っているので、後から音色を変えたりすることもできます。でも、最初からビートを作ったり、録音の段階からミックスのイメージをしながら作っています。具体的にミックスに近い作業もしながら作っていくようになりました。

ーーこういうビートミュージックの場合、音作りやミックスが作曲と同じぐらい重要だと思います。ミックスもご自身で手がけていたのでしょうか。

Kan Sano:もちろんミックスも自分自身でやってます。最初はお金もなかったので、人にお願いするという選択肢自体がなかったです。あとは、いまおっしゃっていたように、ミックスのバランスだったり音の空気感作りといった、細かい作業も含めたアレンジが曲作りだと思っています。ミックス作業も結構好きなので、そこは全然苦ではなかったです。

ーーこの当時のビートミュージックと呼ばれる楽曲は、ドラムがドライだという印象があります。

Kan Sano:当時も今も、僕は特にドラムにほぼリバーブをかけないほうが好きですね。特にドラムのキックとかスネアの抜ける感じは、1stアルバムから意識していました。フライング・ロータスやマッドリブとかも好きなのですが、あのようなローファイでダーティな感じのドラムサウンドは作れなくて。憧れはあるんですが、どうしてもハイファイというか、クリアなサウンドになってしまいます。そういう意味でも、Jazzanovaやイギリス、ドイツ、ヨーロッパの音楽に親近感を感じていました。

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