身体を拡張し、感情に作用する……「人の身体が光ったら」を追求して見つけた“光の重要性”とは

身体と感情を拡張する“光の重要性”

光の演出における「個と群」の重要性

ーーmplusplusの立ち上げ以降は、ある種大衆向けにわかりやすく落とし込んだり、装置の数を増やして立体的に見せたり、人数を増やしてより集団行動に見せるようなことを意識しているのでしょうか。

藤本:そうですね。mplusplusを立ち上げてからは「Quantified Dancer」という全部数字でできたダンサーを作りました。これは一番最初の作品に発想が近くて、全身に9000個のLEDを使って、数字を450個表示させます。やってみてはじめて気付いたのは、色を変えるだけではなく、数字のカウントアップやカウントダウンでパラメータが変わるのかということです。東京都現代美術館で宮島達夫さんの作品を見たときにそれを実感したんです。人間の身体って、アナログの極みみたいなものだと思うんですが、それを全部デジタルの数字に置き換えたり、数字のオンオフやカウントアップで全然違う見え方に変わるというのも自分にとっては刺激的でした。

 元々最初の発想としては、身体が分離したり人間にできないことをしたいし、腕が伸びたり身体を大きくしたり小さくすることができれば、と思って始めたのですが、このときにLEDが9000個ついたことで“身体を小さくする”という表現ができるようになったんです。たとえば身体のLEDを全部点灯した状態から、人の形を保ちながらグッと絞ることで、棒のように細い人間に見えたりするという。CGの世界だと簡単にできることなんですが、現実で見るとすごく違和感があって。そういう表現をLED技術が進歩することでようやくできるようになりました。次は身体を膨らませることもしたいですね。

ーーいまは身体の拡大と縮小に興味があると。

藤本:それ以外の動きについては、会社設立前にある程度やりつくした感があるんですよね。アートとして新しいものを生みだそうとしていたんですけど、会社を始めてみると考え方が180度変わったというか。ライブイベントを軸に演出や開発をやっていくとなったときに、見てくれる人の距離がそれぞれ違うということに気付いて。近いと10mくらい、遠いと100mくらい離れているので、ここまでお話ししたようなことをそのまま見せるのはエゴだと考えました。だからこそ、自分の中で群を意識した演出をしっかり考え出して、近くの人も遠くから見ている人にも面白いものを生み出そうと意識するようになりました。自分が作ってる光の演出は、実は巧妙に個で見たときの見え方と引いて見たときで違う見え方をするようにしていて、スタッフにも常に「個と群を混ぜよう」と伝えています。

ーーその意識はどのようにして生まれたのでしょう。

藤本:大きかったのは2015年に見た『ULTRA MIAMI』というEDMフェスですね。Alfojackさんの舞台でパフォーマーとして出演するSAMURIZE from EXILE TRIBEの光の演出を担当することになり、マイアミで実際にフェスを見たのですが、舞台演出のストロボライトの使い方がすごく良くて。ステージ全体にすごい数のストロボが備えられていて、それが音に合わせて激しく光るんです。EDMというジャンルとも相性が良かった部分もあると思うのですが、音を消して光だけにしても音が聴こえてくるような錯覚に陥るくらい音と光が一体になっていたんです。それを体験してからは、演出においてもパフォーマー一人ひとりから音が出ているような見せ方になるよう、さらに考えて作り込むようになりました。

ーー単純に音と同期して踊るということではなく、パフォーマーを見ているだけで音を感じることができる演出、ですか。

藤本:一番いいタイミングで心地よさを感じる、人を高揚させる演出は何か、ということですね。それは考えれば考えるほど、やはり「光」であり「照明」なんですよ。自分のなかでのその感覚が、以前に話したオンラインライブにおけるディスプレイと照明の話にも繋がるんです。

ーーなるほど。前半では「身体を拡張するための光」について話してもらいましたが、『ULTRA MIAMI』を経て「感情に作用する光」という要素も「光の演出論」に加わったということですね。

藤本:その通りです。ライブエンタメにおいて大事なのは、やはり空間をどう見せるかで、そこにおいて光が占める重要性というのは、かなり大きいんだなと気付かされました。とくにLDHアーティストのドーム規模のライブでは、SAMURIZE from EXILE TRIBEやLEDを着けたダンサーさんが平均で50人くらいはいるので、お客さんもEDMフェスにおけるストロボと同じ感覚を味わえたと思います。一番お多い時には150人くらいに一人5000個……合計約70万個のLEDを着けたので、ストロボと同じダイナミックな高揚感を出せたと思います。

 LED衣装の演出が面白いのは、そのダンサーたちが照明でもありダンサーでもあること。遠い人は光で楽しんでもらえるし、近い人は巧みなダンスを見ることで満足してもらえる。そういった多角的な演出を心がけていましたし、実際に会場で自分の思ったように受け入れられているなと手応えを感じました。

ーー個と群の演出、ある意味ミクロな視点とマクロな視点の両方を考えるというのは、個人での活動からmplusplusでの活動に変わっていった藤本さんのキャリアそのもののようで面白いですね。

藤本:面白いと思ったことはリストにしたり、サンプルやエフェクトの開発や実験を繰り返したりしているのですが、会社を設立する前と後でその種類が全然違うんです。それらを時系列順に並べてみて気づいたのは、光を止めることの重要性ですね。ずっと動いているのを突然止める、というのを繰り返すと、ビート感がでるというか。

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