オンラインライブは「ある種一巡しちゃった」 東京パラ開会式・光の演出で注目されたmplusplusが直面した“現実”

パラ開会式でも注目、藤本実と“光の演出論”

 コロナ禍の中で開催された『東京2020オリンピック・パラリンピック』。開催について賛否はあったもののパラリンピック開会式で片翼の飛行機である主人公が前に進んでいくストーリーに感動したという人も多かったようだ。この片翼の飛行機が前向きになった証としてクライマックスで翼を光らせたり、LED衣装を光らせたりしていたのがmplusplus株式会社だ。

 これまでも、LEDを使った旗「LED VISION FLAG」や新体操のリボンを光らせた「WAVING・LED RIBBON」など数々のテクノロジーを用いた演出を手がけてきている。そのクリエイティブカンパニー・mplusplus株式会社の代表・藤本実氏が、「リアルサウンド テック」で新連載「光の演出論」をスタートさせる。

 昨年実施したインタビュー「EXILEなどのライブを手がける藤本実に聞く“コロナ以降の演出”『参加型のライブがスタンダードになる』」の反響が大きかったことを受け、第一回はいまだ続くコロナ禍での活動にフォーカス。大規模会場での演出は依然として少ないままだが、ダンスチームの立ち上げや新たなデバイスの開発などの未来を見据えた活動を行う、藤本氏とmplusplusの現在地とは。

コロナ禍というエラーで知った「自社でコンテンツを作って発信する意味」

藤本実氏(mplusplus)
藤本実氏(mplusplus)

ーー『東京2020パラリンピック』の開会式、おつかれさまでした。随分好評だったようですね。

藤本:そうですね。すごく反響があってびっくりしました。自分がこれまでの開閉会式をしっかりと見ることがなかったので、仕事として請ける時にさほど実感がなかったのですが、世間の人が競技だけでなくセレモニーも注目しているんだということを改めて知ったというか。

ーー藤本さんにとってはいつものライブ演出と変わらない心境だったのですね。

藤本:もちろん日本を代表する大きなイベントではあるのですが、2年前に仕事として打診されたまま連絡がなかったので、うやむやになったのかなと思っていたら急激に始まって、実際手を動かし始めたのは5月なので気構える時間もなかったです。ライブよりも短期決戦と言いますか(笑)

ーーmplusplusさんの担当したパートは障がいという特徴を持った出演者でしたが、普段とは違う面などあったのでしょうか。

藤本:今回、演出家から言われたことは「それぞれの特徴を際立たせる」ということでした。つまり、それは光らせ方だけではなく、元の衣装が一点一点違うということでもありまして、手間は通常のライブでは考えられないくらいかかりました。例えば100人出演者がいても衣装が同じであれば、プログラミングするためのLEDの個数や配線などは同じです。ところがパラの衣装は一着ずつ全てLEDの種類や這わせ方も違ったので、省力化できるところが何もない。すべてひとつづつ手作業で行わなければならないので社員は相当大変だったと思います。

 また、ノンバーバルパフォーマンスの場合、光らなかったら意味が通じないところがいくつかあって「光らなかったらどうしよう」というプレッシャーはありました。

ーー長い間、経験を重ねていてもプレッシャーになるんですね。

藤本:国もですが、出演者にとっても大事な場面の生本番が世界中に発信されますから。失敗したら会社としても終わるんじゃないかと、緊張しますよ。

ーーさて、パラリンピックの反響もそうですが、前回のインタビューでも多くの反響があったとお聞きしました。

藤本:あの記事以降、多方面から連絡をいただきました。レコード会社さんをはじめとしたエンタメ系の会社などから「オンラインでの演出でなにか新しい方法を模索したい」と。そのなかで実現したアウトプットが、xiangyuさんの『IMMERSIVE ONLINE LIVE』(※)です。

【IMMERSIVE ONLINE LIVE】xiangyu x mplusplus 2021.02.02

(※)独自の同期機能を搭載し、オンラインライブやライブ映像、MVなどに連動する、持ち運びが可能なステージ演出デバイス “Immersive Online Live System(イマーシブオンラインライブシステム)”プロジェクトのプロトタイプを制作し、同公演と紐づけて使用。50名に専用のデバイスを送付し各自の自宅で同期。画面の外での演出拡張に成功した。

――それ以外にも、SNSを通じてプロトタイプを次々に発表していくことに関して、より積極的になっていたような気がします。

藤本:たしかに打席数は増えました。それに関してはダンスチーム「m++ DANCERS」を持ったことが大きいですね。今までも机の上で何かを試してはいたのですが、それだとなかなか発表する形にならなくて。それがダンスチームに練習終わりに時間を取ってもらってプロトタイプを使った演出の実験をすることができるようになり、作品として形になったことで発信できるようになりました。

 
 
 
 
 
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――改めて、ダンスチームを自社で持った背景を聞いていきたいのですが、それにあたって、まずは藤本さんの経歴をおさらいする必要がありますよね。

藤本:元々自分はダンサーとして活動をしながら、博士課程で「身体表現の拡張」をテーマに研究していました。要約すると、生身の人間もハードとして優秀なものではありますが、そこにテクノロジーを追加することでどんな表現ができるようになるのか、という研究です。現在もずっと一貫してそのテーマは変わらず追求しています。会社としてmplusplusを立ち上げて以降は、ライブやイベント、クリエイティブでご一緒するクライアントさんと「どんな新しいことができるか」を日本のエンタメ業界のなかで発信してきたのですが、世界中に自分たちの表現を届けたいと考えたときに、今のやり方ではないものを模索するためにも、ダンスチームを立ち上げました。

 世界規模のオーディション番組などに打って出ていく予定で募集をして、100名以上の方から応募をいただいていたのですが、コロナ禍に突入したことで活動が難しくなってしまいました。並行して、医療従事者の方への感謝を込めた表現がしたいと思い「LED MASK」というマスクの形をしたプロダクトを開発しました。これを使ったパフォーマンスを作って、世界に発信したいと、すでに決定していたチームメンバーにオンラインで振り付けを作ってもらって、1回の練習のみで本番に臨みました。1カウントごとにメッセージを持たせるくらい、あらゆる意味を込めたパフォーマンスで、第24回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門の審査委員会推薦作品にも選出されました。

LED MASK / NO MASK FOR ENTERTAINMENT

――当初の予定と違った形での発表・運用になったとはいえ、結果的には自分たちのアウトプットを加速させる要因になったと。

藤本:コロナ禍というエラーによって、自社でコンテンツを作って発信する意味があることを知りました。業界全体の話をすると、先ほど話したように僕らはクライアントありきでこれまで様々なエンタメの演出に関わってきたのですが、コロナ禍でドームに代表されるような大規模な公演がなくなり、リスクの観点から大人数のダンサーを起用した演出をしなくなったり、オンラインライブ自体も次第に予算をかけないものになっていったりと「手持ちのコンテンツだけで頑張ろう」というモードになったのが、昨年末以降の空気感だと思うんです。それは実際の仕事量とも比例していました。ただ、僕らはダンスチームがあったことで定期的にコンテンツを発信できた。そもそも開発専門の会社がダンスチームを持つという発想はしないと思うんですけど(笑)。

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