より具体的な表現へと踏み込むようになった、ビデオゲームにおける「事前警告」の現在

ビデオゲームにおける「事前警告」の現在

 何気なく娯楽作品を楽しんでいると、作品中に出てきたシーンや描写に対して強い不快感を抱いたり、あるいは過去のトラウマなどを思い出してしまって、もうすっかり作品どころではなくなってしまう。そんな経験をしたことはないだろうか。そして、その時、もしかしたらこのように考えたのではないだろうか。「先に教えてくれれば、避けたのに」と。

 カナダを拠点に構えるインディーゲームスタジオ・Kitfox Gamesがクラウドファンディングによる支援を受けて開発を続け、8月12日にリリースした『Boyfriend Dungeon』は”人間に変身することが出来る武器たち”とともにその使い手としてダンジョンを探索したり、本作の舞台となる街「ヴェローナビーチ」で武器たちとデートをしながら、ひと夏の冒険とロマンスを楽しむ作品である。このように説明を書くと大変奇妙な作品のように思えるかもしれないが、実際にプレイしてみると、ダンジョン探索は『Hades』などの見下ろし型探索アクション、交流パートはいわゆる恋愛アドベンチャー的なスタイルとなっており、それらが非常にスムーズに切り替わるため、思いのほか一つの作品として上手くまとまっている印象を受けるはずだ。ポップでキュートなビジュアルや、丁寧に作り込まれた武器(人物)たちのキャラクター、奇妙なアイディアを活かしたユーモア、爽快感溢れるアクションパートなど、本作は小規模ではありながらも優れた魅力を兼ね備えており、Steamでも本稿執筆時点で「非常に好評」という評価を受けている。本作を今年のベストゲームの一つと評するプレイヤーも少なくはない。

『Boyfriend Dungeon』トレーラー映像

 そんな『Boyfriend Dungeon』だが、本作では初めてプレイする際に、必ず次の警告文が表示されるようになっている。

 「このゲームには、好ましくない口説き文句、ストーカー行為、そのほかの感情を操作するようなセリフが出現する場合があります。注意して、必要に応じて中断してください」

『Boyfriend Dungeon』における事前警告画面
『Boyfriend Dungeon』における事前警告画面

 この警告自体はローンチ時点ですでに実装されていたのだが、当初は(特に原語においては)もう少しマイルドな表現となっていた。しかし、プレイヤー側からの「この内容では十分ではない」という指摘が相次いで寄せられたことで、リリースから6日後のタイミングで警告文自体のアップデートが実施され、より強い表現へと変更されたのである(※1)。

 この警告文から推察される通り、一見すると荒唐無稽で楽しいゲームといった印象を与える『Boyfriend Dungeon』は、実際にはシリアスかつヘヴィなテーマを内包した作品であり、ゲーム内に登場するキャラクターはそれぞれが様々な問題を抱え、プレイヤーの分身となる主人公はそれらと向き合い、実際に巻き込まれていくことになる。そして、その中には警告文が示す通り、主人公に対してストーカー行為をしてしまうキャラクターも含まれている。それは間違いなく一部のプレイヤーに対して不快感を与えるものであり、だからこそ本作はそういった描写が存在することをプレイヤーが遊ぶ前に開示しているのだ。

 このような事前警告は(グロテスクな描写や激しい光の点滅を含むといった場合を除いて)必須ではない。だが、近年、開発者側がゲームの内容を踏まえ、プレイヤー側に配慮した結果として、自主的にこのようなテキストを入れるという事例が増えてきており、その仕組みも様々だ。魔法学校を舞台に生徒達とともに学校の秘密を暴くRPG『Ikenfell』(2020年/今年11月に日本語版の発売を予定)では、オプションの項目を選択することで、センシティブな内容を含む演出が入るタイミングで事前に警告を表示することができるようになっている。また、2017年の名作アドベンチャーゲームに追加要素を加えた『Doki Doki Literature Club Plus!』(2021年)では、同様のオプションに加え、作中に含まれるセンシティブな要素を事前に一覧形式ですべて確認することも可能だ。

『Ikenfell』における事前警告のオプション画面
『Ikenfell』における事前警告のオプション画面

 また、先日発売された『Psychonauts 2』では『Boyfriend Dungeon』と同様に、初回プレイ時に事前警告を表示するが、その内容は次のようなものとなっている。

“『Psychonauts 2』には、依存症、PTSD、パニック障害、不安、妄想などの深刻な精神状態を芸術的に解釈したものが含まれています。また、歯科恐怖症の方には不快感を与えるような場面もあります。これらの描写は、通常は明るく、あるいはコミカルに表現されていますが、それでもプレイヤーによっては苦痛を感じるかもしれません。

 

『Psychonauts 2』は、共感と癒しをテーマにしたゲームです。このコンテンツに不快感を示された方や、メンタルヘルスに関する資料を必要とされる方は、次のWebサイト(メンタルヘルス関連の情報をまとめたサイトのURL)をご覧ください。(筆者訳)”

『Psychonauts 2』における事前警告画面
『Psychonauts 2』における事前警告画面

 このテキストからは、プレイヤーに対する配慮を感じると同時に、あくまでゲーム内における描写はメンタルヘルスという本作のテーマと真摯に向き合う上で必然的なものであるというメッセージが伝わってくる。これは最近の事前警告を巡る対応における、一つの象徴的な例といえるだろう。

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