雨はゲーム体験をどう変える? 解像度を上げるための4つのアプローチ

雨はゲーム体験をどう変える?

3. 雨と道具

 ゲームならではという観点で言えば、雨は道具とも切り離せない。『絶体絶命都市2』で主人公が装備している傘やレインコートなどはその一例だ(図1)。

 前者はその遍在性から、武器として登場することもある。『SIREN』の恩田理沙や『FINAL FANTASY 7』(スクウェア/1997年発売)のエアリスのように女性キャラクター専用の装備である場合もあるが、後者は打撃にかぎっては入手可能なもののなかで最高の攻撃力をほこるなど、かならずしも非力なものとしてあつかわれているわけではない。

 雨が姿を晒させる『rain』とは逆に、それを隠れ蓑にするアイテムも存在する。『METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER』(コナミ/2004年発売)も、さまざまなカムフラージュを使い分けることで敵の目をかいくぐりながら進むステルスゲームだが、本作には雨のときに高いステルス効果を発揮する「レインドロップ」というコスチュームが登場する。

 こうした直接的な道具としてのほかに、それがもつイメージが記号として強調されることもある。『BIOHAZARD』(カプコン/1996年発売)シリーズに登場するアンブレラ社のロゴである傘は、街の庇護者としての企業イメージのシンボルと、ウイルス兵器の開発業者という裏の顔を文字どおり覆い隠すものという二面性を孕んでいる。このように雨具一つをとってみても、私たちの意識に潜む雨という事象とそれにかんする事物へのイメージが、一義的なものではないことが伺える。

 雨自体を道具として使うことでそれを極度に具現化したのが『HEAVY RAIN −心の軋むとき−』(ソニー・コンピュータエンターテインメント/2010年発売)だ。本作では、雨は殺人の凶器としてもちいられる(図4)。

図4『HEAVY RAIN −心の軋むとき−』で、ジェイデンが事件と雨との関係を説明する
図4『HEAVY RAIN −心の軋むとき−』で、ジェイデンが事件と雨との関係を説明する

 作中では冒頭とエンディングをのぞくすべてのシーンで雨が降っており、それはある種の時限装置として物語を駆動させる。その途中ゲーマーはFBI捜査官のジェイデンとなって推理を進めていくが、現場に残された痕跡を探し出す雨中での捜査パートは、変身のときと同じく雨に流されなかったものに気づくことが次のステップに進むための鍵であることを示している。

4. ゲームにおける“雨音”の重要性

(※以下の内容はゲームのネタバレを含みます)

 ここまで視覚を中心にみてきたが、音もまた重要な要素だ。ここでは二つの対極的な例をあげよう。

 まず実際に降っている雨音へのこだわりだ。『リアルサウンド〜風のリグレット〜』(ワープ/1997年発売)は、グラフィックが一切なく(※9)、選択肢のあるドラマCDに近い作りとなっている(のちに選択肢をカットしたバージョンもラジオ放送された)。そのぶん音作りにはこだわっており、1997年発売ながらアーヘナコプフ(バイノーラルマイク)による録音やドルビー・サラウンドによって、タイトルどおりリアルなサウンドが収録されている(※10)。

 本作でも台風や雨といった天候が物語の重要な要素となっており、シーンによってはほとんどBGMのように間断なく雨が降り続く。雨の音、雨の日に聴いた音は、情景描写だけでなく過去と現在の記憶をつなぐ役割も担っている。

「こんな雨の中を一体、どこに行ってしまったんだ。こんな見知らぬ街で、彼女には行くあてなど、どこにもあるはずがないのに(…)鐘の音だ。僕は知っている。僕はこの鐘の音を知っている。この鐘の音を聞きたがっていた、あの娘のことを知っている。/僕はあの日、あの娘と交わした会話を、今、思い出していた(※11)」

 もう一つはそれとは逆に、雨音を心理的なトリックに使ったパターンだ。『かまいたちの夜2 監獄島のわらべ唄』(チュンソフト/2002年発売)の舞台は、50年に一度の暴風が吹き荒れる「かまいたちの夜」に門戸を固く閉ざす風習がある島だ。主人公の透一行はそのかまいたちの日に島に集められ、監獄を改造したホテルで一夜を明かすことになるのだが、そのさいある人物によって、「暴風雨」を防ぐために館の唯一の出入り口が厳重に閉ざされてしまう(図5)。

図5『かまいたちの夜2 監獄島のわらべ唄』で、透たちの泊まる館は外界から閉ざされる。
図5『かまいたちの夜2 監獄島のわらべ唄』で、透たちの泊まる館は外界から閉ざされる。

 窓のない監獄で、透たちは夜通し続いた暴風雨の最中に起きた殺人事件に巻き込まれてしまう。しかし物語のラスト、その雨が実は密室殺人のしかけをごまかすためのトリックだったことが明かされる(図6)。

図6『同』、透たちだけでなくゲーマーも、犯人によって雨が降っていると思い込まされていた。
図6『同』、透たちだけでなくゲーマーも、犯人によって雨が降っていると思い込まされていた。

 本来は暴風だけだった「かまいたちの夜」にあたかも雨が降っていたかのような叙述トリックにくわえ、サウンドノベルならではの音響効果もあわさって、透たちだけでなくゲーマー自身も、実際には一度も目にしていない雨が降っていたかのように錯覚してしまう。これもまた、冒頭であげた絵画や小説とはことなる、文字と音の連携に重きをおくゲームならではの表現の一つと言えるだろう。

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